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一章

17,紅雪の秘密(陛下 視点)

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「………」


上体を起こし、肌着姿の二人。
静寂に包まれている間、陛下は紅雪が話するをひたすら彼女の髪を弄びながら待つ。
何かをひた隠しにしているのなんて、陛下はとっくに気付いていた。

最初に違和感を感じたのは、情事中。
その後も情事を重ねて、陛下は違和感の正体に気付いた。
だが、陛下は敢えて紅雪の口から聞くことを選ぶ。
そうしなければ、彼女が消えてしまう事に気付いたからだ。


「……私には、不気味な……っ」
「大丈夫だ、ゆっくりで構わない」


静寂に耐えきれなかったのか、陛下を信じたのかは捨て置き、やっと固く閉ざされていた紅雪の口が動く。
しかし、せめぎ合う葛藤に紅雪の目頭から涙が溢れた。
陛下は涙を掬いながら優しく言葉を投げ掛ける。


「…不気味な力が……触れた者の…内の声が……聞こえてしまうのです……っ」


ぎゅっと握り拳を作り、紅雪は葛藤に打ち勝つ。
最後まで言い切ると視線を下げ、陛下の反応に怯え、紅雪の身体が震えた。
やっと言わせた事で、陛下の口許が弛む。


「俺に触れろ…」


自分から触れても聞こえないのなら、触れさせるしかない。
陛下は握り拳を作る紅雪の片方の手を両手で優しく握り締めながら言葉を紡いだ。
触れた瞬間、ビクッと身体が不安で跳ねた紅雪だったが陛下の命令に逆らえる訳もなく。
握られていない片手が、戸惑うように一瞬宙を舞うも、ゆっくりと握られている陛下の手に触れた―――。


<お前が何者でも構わない、俺はお前を愛おしく思っている>


陛下の内なる声が聞こえた瞬間、紅雪の涙は洪水となって流れ出る。



「聞こえたか?」
「――はい。私も愛おしい程に、陛…紫攸様をお慕いしております」


彼女の幸せそうに微笑む姿に陛下は安堵し、優しく抱き締めると、紅雪が素直に背中に腕を回す。
涙が止まるまで、陛下は内に秘めた想いを聞かせながら優しく抱き締め続けた。



***



「気付いていらっしゃったのですね」
「ああ、お前は夢中で気付いてなかったみたいだが俺の内心に毎回、返事を返していたんだぞ」


涙が止まり落ち着きを取り戻すと、紅雪が不服そうに陛下を見つめる。
紅雪の手は、未だ陛下の背中にある。


<情事中、夢中で返事するお前が可愛くて仕方なかった…>


と、心の内で思っている内容を陛下は隠す事が出来ない。
陛下の内心が聞こえた紅雪の顔が、かあああぁっと赤く染まった。


「……気味が悪いと思わないのですか…?」


頬は紅潮したまま、おずおずと戸惑いがちに紅雪は言葉を紡ぐ。
陛下は紅雪の髪を指で掬い口付けた。


「ああ、逆に朱津の皇族に赤髪しか産まれない方が気味悪い」


即答する程、陛下がそこまで赤を嫌悪する理由を紅雪は知らない。
今なら聞いたら答えてくれるかもしれない、そう思うものの聞くのを躊躇ためらってしまった。
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