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一章
08,意外な接点《2018.08.23改稿》
しおりを挟む疎ら色だった髪は、湯で洗い流しただけで殆んどが白銀色に戻った様で、背後にいた琳鍾が恍惚な吐息を漏らした。
「隠していたのが勿体無い程、お綺麗な色で御座いますね。少し髪が傷んでおいでですので、香油を塗り込ませて頂きます」
「有難う御座います」
心遣いに対して素直にお礼を伝えると、琳鍾はお礼を言われた事に一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、直ぐに表情を和らげて紅雪の柔らかい白銀の髪に香油を塗り始める。
優しい手付きで撫でられる指の動き、椿香油の匂い、薔薇の花弁が浮かんだ湯。
心地好い雰囲気に、長旅の疲れが一気に押し寄せて来たみたいで、気付く間もなく夢に誘われてしまっていた。
*****
その頃、皇太后は旬華を呼び付けていた。
「またお目通りが叶うとは思わず、至極感激しております」
「そうか、あれが死んで16年の月日が経ったか・・・。紅銘は、朱津に嫁いで幸せだったのか?」
旬華と知り合いのように話す皇太后の口から紅雪の母の名前が出る。
紅雪を疑心の瞳で見つめていた皇太后とは違い、憂いを帯びた表情で旬華を見つめていた。
「第三王子、そして紅雪王女を御産みする事が出来、最期まで幸せそうで御座いました」
頭を垂れ、旬華が答えた瞬間、パチンと扇を閉じる音が響いた。
「嘘を申すとは不敬に処するぞ。紅雪の髪色、あれは白銀・・・赤髪をしておらぬ紅雪を王室の輩が迫害し、きっと紅銘も不貞を疑われたのだろう。――たった一人の我の友…可哀想に・・・」
「申し訳ありません!!!」
嘘に気付かれ、紅雪の髪色まで気付かれていた事に旬華は焦りを覚えて土下座をして謝罪する。
険しい表情を浮かべていた皇太后が、ふうと息を吐くと表情を和らげて扇を広げ直した。
「不問とする、顔を上げるがよい。そなたが、王室の事情を易々と言える立場では無かろうからの」
旬華の事情を察した皇太后は嘘を許し、顔を上げさせる。
ホッと安堵した旬華が顔を上げると、皇太后が何かを思い出したように微笑みを浮かべた。
「紅銘の娘と我の息子が婚姻を結ぶか…」
「・・・お約束で御座いますね」
「ああ。彼方の思惑等どうとでもなる。亡き友との約束は果たされよう」
紫峰国からずっと紅銘の下女をしていた旬華は、二人が交し合った約束が何か知っていた。
それを思い出したのだと感付いた旬華は、主君の笑顔を懐かしむ様に呟く。
旬華の言葉に頷いた皇太后は亡き友を胸に抱き最期に交わした約束を敢行する計画を共に練り始めたのだった。
*****
「もうよい。明日まで宮で謹慎しなさい」
夢から覚めて慌てて湯浴みを終えて皇太后様の前に戻ったけど、直ぐに追い出されてしまった。
「やっぱり湯浴みが長過ぎたのかな?それとも、寝てた事に気付いた?それとも、嘘がお嫌いで怒っているのかも・・・。このまま皇太后様の機嫌を損ねたままだったら、服毒か自害!?」
白蘭宮の帰り道、旬華に不安を伝えながらオロオロする私とは対照的に、彼女は穏やかな表情を浮かべたままにっこりと微笑むだけ。一緒に来ていた宦官や女官たちは、太陽の光で輝く白銀色の髪に見惚れていて私の不安など耳に入っていない。
私の不安な気持ちを助けてくれる者は誰もいなくて、白蘭宮に戻った後も不安な時間を過ごすことになってしまったのだった。
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