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一 章 ・ 幕 末
肆. 永倉と藤堂
しおりを挟む浪人たちが全て倒れているのを確認して、握っていた刀を地面に捨てると崩れた胴着を直す。
初めて握った本物の刀の重さ。
他人の命を握っていた事に気付いて今更だけど怖くなって手が震えた。
気持ちを落ち着かせようとするけど、手の震えは止まらない。
何度も深呼吸していたら、緊迫していた空気が和らいだ。
そのとき、やっと私の耳に歓声が聞こえた。
良くやった!
あいつ等、最低だったんだ!
ありがとう!!
浪人たちに困っていたらしい町人から、お礼の言葉や褒め言葉が飛び交う。
その言葉が聞こえてきて、やっと私の手の震えが止まった。
「なあ、そこのお穣ちゃん。喧嘩の原因は…まあ、何となくわかってっけど事情聞きたいから一緒に来てくれっか?」
横を見れば、袴姿の男が二人。
この二人も脇に刀を差していた。
一人は、私より20cmぐらい身長が高い。年齢は同じぐらいだけど、童顔。
もう一人は、彼より5cmぐらい身長が高いかな。年齢は…20代後半?
「えっと…貴方たちはどなたですか?」
はい、わかりました。とは初対面の男には言えません。
警戒してるのが分かったのか、童顔の男が表情を和らげた。
「俺ら、怪しい奴じゃねーよ。壬生浪士組って言えば分かるか?」
童顔の男が優しい声色で聞いてくる。
組の名前を聞いたとき、私はつい二人に見入ってしまった。
私の同年代だったら斎藤一か藤堂平助。
藤堂平助なら、もう一人は原田左之助か永倉新八かもしれない。
「で、一緒に来てくれるよな?」
一度想像した思考は止める事が出来ない。
ジッと二人を見ていると、大きい方の男がニカッと笑う。
声は優しかったけど断れない前提の言葉に、疑われてるのに気付いた。
「わかりました」
無理矢理連行されるよりは、と素直に頷く。
「そんな遠くねえから」
そう言って、先頭で歩き始めた大きい方。
「…いた…っ」
彼の後ろを付いて行こうと、数歩歩いたところで、足の裏が痛くなって立ち止まる。
横に居た同年代の男が心配そうに視線を足元に移した時、
「血が出てんじゃん…痛くねーか?…痛いよな――乗れよっ」
自分が怪我したみたいに慌ててた男が、私の前で背中向きで屈んだ。
乗れと言われても、相手は男だ。
おんぶされるのには抵抗があるし、触れるのが怖い。
戸惑っていると、大きい方が少し苛立っているのが見えてしまい、渋々背中に寄り掛かった。
「ちゃんと掴まってろよっ」
父より小さい背中、だけど私を乗せて軽やかに進み始める。
男性とはまだ言えない、成長途中の背中の大きさに少しだけ抵抗が和らいだ。
話す事も無いので、無言を貫いてると、先程の喧嘩の疲れが押し寄せてくる。
更に規則的な揺れが余計に心地良さを醸し出していて、気付いた時には眠っていた。
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