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最後
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その言葉を聞いて、友人がガタ、と音を立てる。深呼吸をした。
「あぁ、そうだ。このスープを飲んだのも、この手を齧ったのも、あの人骨に元々ついていたであろう肉を食ったのも。私だよ。」
「あの死体を殺したのは?」
「…私じゃない。」
「じゃあ誰が。」
田中が更に問い詰める。友人の顔を見ると、怯えていた。唇をぎゅっと噛む。
「最近、連続殺人事件があった。…その犯人、殺したら裏路地に死体を捨てるんだよ。」
顔を手で覆う。どうでもよくなった気がした。多分今日一日、ばれるんじゃないかって気をずっと張り詰めていたからだと思う。疲れたんだ。
「流石に、その中に同僚が居た時は泣きたくなった。…でも仕方がないんだ。私はそういう生き物だから。」
「こんなんでも、こんな生き方でも、生きてるんだよ。」
搾り出した声は今までで一番震えていた。田中も友人も黙って聞いている。
「普通の、人間が食べるような飯も食えるさ…そりゃあ、冷ましてからじゃないと美味しいとは感じないけど。でも、時折食べないとのどが渇いて仕方が無くなるんだ。お腹が空いて仕方が無くなるんだ。普通の飯は食べてるのにお腹が空くんだ…」
「でも、望んで生まれた訳じゃないんだ。許してくれ…仕方がないんだ。」
そう言って、立ち上がる。友人のほうを向く。
「危ない!!」
田中が声を荒げる。友人に飛びつき、友人のポケットから物を取った。
「まさか、お前…」
田中が信じられない。という目でこちらを見ている。友人は理解が遅れたのか、一拍後に手を伸ばした。__唯、もう遅かった。
「なぁ、友人。君といて、私は楽しかった。君は楽しかったか?」
「なぁ、田中。友人のこと、任せたぞ。」
そう言いながら、ライターで服に火をつけた。歪む視界に泣く友人と、焦る田中が見えた。私の物とは思えないけたたましい断末魔が聞こえる。
あぁ、友人、君は
彼女が火に包まれ、断末魔が聞こえた後、そこに残ったのは焼死体ではなく唯の灰だった。火は燃え移らず、ライターが灰の中にあった。
灰に近づき、しゃがむ。ライターを拾いあげ、こう呟いた。
「楽しかった。とっても楽しかった。…ねぇ、今度は人間に生まれてきて、また頼み事を聞いてよ。」
彼が彼女の残骸に近づき、何かを呟く。彼女が消えるときに見た彼の顔は悲痛なものだった。あぁ、自分は悪いことをしたのだろうか。そう考える。
「行きましょう、田中さん。」
「あ、うん…」
「これで、良かったんですよ。」
「え?」
彼がもうひとつの扉の前で止まる。いきなり言い出すので、理解ができなかった。
「田中さん、そんな悲しい顔しないでくださいよ。…彼女も、きっと僕をだまし続けて生きるのはつらかったと思うんです。人助けしたんですよ、田中さん。」
「そっか、そっか…そうだな!うん、俺らしくねぇわ。さて、帰るか!」
「はい。」
扉を開けると、やはりエントランスホールに繋がっていた。玄関を出ると、外は真っ暗だった。
「あ、」
「どうした?」
「警察…」
「帰って俺が連絡するよ。あぁ、そうだ。連絡先、交換しよう。」
「…ありがとうございます。連絡先…」
「本名、これだったんですね。」
彼が笑った。携帯を見ると、彼の名前らしきものがある。
「お前も、名前、こういうんだな。」
二人で笑った。
「あぁ、そうだ。このスープを飲んだのも、この手を齧ったのも、あの人骨に元々ついていたであろう肉を食ったのも。私だよ。」
「あの死体を殺したのは?」
「…私じゃない。」
「じゃあ誰が。」
田中が更に問い詰める。友人の顔を見ると、怯えていた。唇をぎゅっと噛む。
「最近、連続殺人事件があった。…その犯人、殺したら裏路地に死体を捨てるんだよ。」
顔を手で覆う。どうでもよくなった気がした。多分今日一日、ばれるんじゃないかって気をずっと張り詰めていたからだと思う。疲れたんだ。
「流石に、その中に同僚が居た時は泣きたくなった。…でも仕方がないんだ。私はそういう生き物だから。」
「こんなんでも、こんな生き方でも、生きてるんだよ。」
搾り出した声は今までで一番震えていた。田中も友人も黙って聞いている。
「普通の、人間が食べるような飯も食えるさ…そりゃあ、冷ましてからじゃないと美味しいとは感じないけど。でも、時折食べないとのどが渇いて仕方が無くなるんだ。お腹が空いて仕方が無くなるんだ。普通の飯は食べてるのにお腹が空くんだ…」
「でも、望んで生まれた訳じゃないんだ。許してくれ…仕方がないんだ。」
そう言って、立ち上がる。友人のほうを向く。
「危ない!!」
田中が声を荒げる。友人に飛びつき、友人のポケットから物を取った。
「まさか、お前…」
田中が信じられない。という目でこちらを見ている。友人は理解が遅れたのか、一拍後に手を伸ばした。__唯、もう遅かった。
「なぁ、友人。君といて、私は楽しかった。君は楽しかったか?」
「なぁ、田中。友人のこと、任せたぞ。」
そう言いながら、ライターで服に火をつけた。歪む視界に泣く友人と、焦る田中が見えた。私の物とは思えないけたたましい断末魔が聞こえる。
あぁ、友人、君は
彼女が火に包まれ、断末魔が聞こえた後、そこに残ったのは焼死体ではなく唯の灰だった。火は燃え移らず、ライターが灰の中にあった。
灰に近づき、しゃがむ。ライターを拾いあげ、こう呟いた。
「楽しかった。とっても楽しかった。…ねぇ、今度は人間に生まれてきて、また頼み事を聞いてよ。」
彼が彼女の残骸に近づき、何かを呟く。彼女が消えるときに見た彼の顔は悲痛なものだった。あぁ、自分は悪いことをしたのだろうか。そう考える。
「行きましょう、田中さん。」
「あ、うん…」
「これで、良かったんですよ。」
「え?」
彼がもうひとつの扉の前で止まる。いきなり言い出すので、理解ができなかった。
「田中さん、そんな悲しい顔しないでくださいよ。…彼女も、きっと僕をだまし続けて生きるのはつらかったと思うんです。人助けしたんですよ、田中さん。」
「そっか、そっか…そうだな!うん、俺らしくねぇわ。さて、帰るか!」
「はい。」
扉を開けると、やはりエントランスホールに繋がっていた。玄関を出ると、外は真っ暗だった。
「あ、」
「どうした?」
「警察…」
「帰って俺が連絡するよ。あぁ、そうだ。連絡先、交換しよう。」
「…ありがとうございます。連絡先…」
「本名、これだったんですね。」
彼が笑った。携帯を見ると、彼の名前らしきものがある。
「お前も、名前、こういうんだな。」
二人で笑った。
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