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頼み
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友人が人殺しの化け物だ、という噂を聞いたのはよく晴れた日のことだった。煌々と私を照らす太陽にイラつきながらアイスでも買おうかとコンビニによって会った高校のころの同級生から、不意に聞かされた。
同級生の話によると、友人はそんな噂をされてから周りに敬遠されているらしく元々仲がよかった私に泣きついてくるかもしれない、という事だった。
「お願い、本当に、お願い!一生のお願いだから!!」
まぁ、結果から言うと、同級生の言うとおりだった。本当に泣きついてきやがった。大人になってまでそんな非現実的な噂を流すほうもどうかと思うが、そんな噂につられて敬遠されたことに挫ける友人も友人だ。呆れすぎてため息も出ない。
「君は私を便利屋か何かと勘違いしていないか?と、言うか何でそんな噂が立ったんだ?少なくとも、君に原因はあるだろう。ほら、火の無いところに煙は立たないって言うし…」
コーヒーを啜ってからそう言うと、友人がうっ、と情けない声を上げる。
「いや、あの…ほら、知らない?ここからそう遠くない場所にある洋館。あの人食いゾンビが出るって言う噂の。」
「知らないな。で、そこと噂の何の関係があるんだ?」
「知らないんだ、結構有名なのに。…それで、少し前にそこに行く機会があったんだよね。あれは、確か会社の飲み会だったと思うんだけど。」
ぽつり、ぽつり、と友人が話始める。要約すると、会社の飲み会で酔った同期達と肝試しにあの洋館に行くことになり、その洋館で迷って置いてけぼりにされ、完全に酔いが醒めた頃に洋館の外に出たら、偶々そこまで関わりの無い仕事の後輩に見つかって誤解された、という事らしい。
「うん。とりあえず、君の周りが子供っぽい事と、事の発端が馬鹿らしいことだけは分かった。」
少し冷めてきたコーヒーを一口飲んで、友人を見つめる。
「その同期とやらに誤解を解いてもらえば良いんじゃないか?わざわざ、私に頼らなくても。」
「それがさ、同期はその噂が立ってから僕に近寄らなくなって…いやぁ、本当に万策尽きたって感じだったんだけど__そういえば、僕にはもう一人頼れる人がいたなって、ね?」
物は言い様、とは正にこの事なんだろう。両手でココアの入ったマグカップを持ち、暖を取っている友人が期待の眼差しで私のことを見てくる。高校の頃から、私はこの目に、いや、この友人に甘いのだ。
「ケーキとコーヒーおかわり。あと今度焼肉奢って。…で、具体的に私はどう協力すればいいんだ?あ、あとその仕草は可愛くないぞ。」
「えっいいの?!ありがとう。えぇとね、一緒にもう一回洋館に行ってほしいんだよね。だってほら、あそこにはにも無いって分かれば僕の恐怖の原因も取り除けるし、僕も噂は噂って割り切って胸張って歩けるじゃん?」
「…噂の根本的な解決じゃないんだな。つまりは、あの洋館には何も無いって事だけ分かればいいんだな?」
「そういうこと。」
「でもそれじゃあ、解決にはならないんじゃないか?だってほら、あそこには何も無いって分かったところで噂が無くなる訳じゃないぞ?」
「別に、噂はそのうち消えるからいいの!それよりも怖いのは、あの洋館に本当にゾンビがいたら僕そこに入ったって事でしょ?酔っててあんまり記憶は無いけど…それに、ほら、ゾンビって噛まれたりすると感染するって言うじゃん。もし僕が感染してたらって考えると怖くて…」
「分かった。とりあえず、君の感性がかなりずれているのはよーく分かった。それじゃあ、そうだな…来週の土曜日、午後3時に駅前集合でどうだ?」
「んー…うん。分かった。」
「よし。あ、懐中電灯買ってこいよ。」
それだけ言って、店員を呼びチョコレートケーキとコーヒーを頼む。座りっぱなしで少し疲れた腰をさすり、欠伸をした。
同級生の話によると、友人はそんな噂をされてから周りに敬遠されているらしく元々仲がよかった私に泣きついてくるかもしれない、という事だった。
「お願い、本当に、お願い!一生のお願いだから!!」
まぁ、結果から言うと、同級生の言うとおりだった。本当に泣きついてきやがった。大人になってまでそんな非現実的な噂を流すほうもどうかと思うが、そんな噂につられて敬遠されたことに挫ける友人も友人だ。呆れすぎてため息も出ない。
「君は私を便利屋か何かと勘違いしていないか?と、言うか何でそんな噂が立ったんだ?少なくとも、君に原因はあるだろう。ほら、火の無いところに煙は立たないって言うし…」
コーヒーを啜ってからそう言うと、友人がうっ、と情けない声を上げる。
「いや、あの…ほら、知らない?ここからそう遠くない場所にある洋館。あの人食いゾンビが出るって言う噂の。」
「知らないな。で、そこと噂の何の関係があるんだ?」
「知らないんだ、結構有名なのに。…それで、少し前にそこに行く機会があったんだよね。あれは、確か会社の飲み会だったと思うんだけど。」
ぽつり、ぽつり、と友人が話始める。要約すると、会社の飲み会で酔った同期達と肝試しにあの洋館に行くことになり、その洋館で迷って置いてけぼりにされ、完全に酔いが醒めた頃に洋館の外に出たら、偶々そこまで関わりの無い仕事の後輩に見つかって誤解された、という事らしい。
「うん。とりあえず、君の周りが子供っぽい事と、事の発端が馬鹿らしいことだけは分かった。」
少し冷めてきたコーヒーを一口飲んで、友人を見つめる。
「その同期とやらに誤解を解いてもらえば良いんじゃないか?わざわざ、私に頼らなくても。」
「それがさ、同期はその噂が立ってから僕に近寄らなくなって…いやぁ、本当に万策尽きたって感じだったんだけど__そういえば、僕にはもう一人頼れる人がいたなって、ね?」
物は言い様、とは正にこの事なんだろう。両手でココアの入ったマグカップを持ち、暖を取っている友人が期待の眼差しで私のことを見てくる。高校の頃から、私はこの目に、いや、この友人に甘いのだ。
「ケーキとコーヒーおかわり。あと今度焼肉奢って。…で、具体的に私はどう協力すればいいんだ?あ、あとその仕草は可愛くないぞ。」
「えっいいの?!ありがとう。えぇとね、一緒にもう一回洋館に行ってほしいんだよね。だってほら、あそこにはにも無いって分かれば僕の恐怖の原因も取り除けるし、僕も噂は噂って割り切って胸張って歩けるじゃん?」
「…噂の根本的な解決じゃないんだな。つまりは、あの洋館には何も無いって事だけ分かればいいんだな?」
「そういうこと。」
「でもそれじゃあ、解決にはならないんじゃないか?だってほら、あそこには何も無いって分かったところで噂が無くなる訳じゃないぞ?」
「別に、噂はそのうち消えるからいいの!それよりも怖いのは、あの洋館に本当にゾンビがいたら僕そこに入ったって事でしょ?酔っててあんまり記憶は無いけど…それに、ほら、ゾンビって噛まれたりすると感染するって言うじゃん。もし僕が感染してたらって考えると怖くて…」
「分かった。とりあえず、君の感性がかなりずれているのはよーく分かった。それじゃあ、そうだな…来週の土曜日、午後3時に駅前集合でどうだ?」
「んー…うん。分かった。」
「よし。あ、懐中電灯買ってこいよ。」
それだけ言って、店員を呼びチョコレートケーキとコーヒーを頼む。座りっぱなしで少し疲れた腰をさすり、欠伸をした。
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