上 下
34 / 42

彼の思い

しおりを挟む
彼は私の言葉を聞くと、辛そうにそれに悔しげにどこか遠くを見つめながら口を開いた。

「憎くないか⋯?それは憎く思ったに決まっておるだろう。
だが、人間とは弱きものだ、長くてもたった100年ほどしか生きられん。我をここに閉じ込めた人間共も、もう死んでおるだろう?
それにな、たしかに人間は愚かだ。愚かな者が多い。
しかし、しかしだな確かに良い奴もおったのだ。
とても人の良く面白い、我も気に入った、そんな奴もおったのだ。
最初は人間全てが憎かった。憎くて憎くてしょうがなかった。
ここから出たらどうしてくれようか。とずっと考えていた。

だが、200年も経てば我も良い奴もおったという事を思い出した。
そう思うと、全ての人間が我をこうした訳では無い。このことを知らぬものが多いのだ。と思ったのだ。
それならばわれが憎むべきは我にこんなことをした人間のみだ。
しかし、そやつらはもう死んだ。

我に残っておるのはそやつらへの憎しみと、人間に裏切られた悲しみ、だがそれでも人間を嫌いになりきれずまた、人間に頼らなければここからまだ出ることもできない自分への怒り、絶望、悔しさ、またこれら全てによる辛さのみだ。」

私は、何も言うことができなかった。

ただ、そう話す彼が大人なのにどこか一人ぼっちの寂しそうな子どもに見えた。
その姿は私の前世の年の離れた弟を彷彿とさせた。
だからつい私は、彼のそばに走りよりそのまま彼を抱きしめた。
どうしてもその姿を見て我慢できなかった。
放っておくことができなかった。

小さな子をあやすように、なだめるように、ぎゅっと抱きしめて背中をぽんぽんと軽くたたいた。

彼の顔は見えなかったが、驚いたように息を呑んだのが分かった。

「辛いなら、悲しいなら泣いていいんだよ?私の胸を貸してあげるから。
ここにはあなたと私しかいないんだから、我慢しないで。
今まで溜め込んでいた気持ちを少しでもいいから、楽になれるように吐き出していいよ。」

そしてしばらくすると、私を力強く抱きしめて頭を私の肩に埋め、声を押し殺しながら涙を流しだした。

「⋯っ、⋯⋯っく、ふっ⋯」

5分ほどだろうかそのまましていると、彼は少しずつ嗚咽を漏らしながら話しだした。

「⋯っく、あ、ありがどう⋯ぅぐ、わ、われは、かなしがったのだ。ぐすっ、さびしがったのだ⋯!
うら、ぎられたこと、ずっと1人、で⋯ふっ、とじごめられて、⋯信じでだのに、っ⋯ずっどずっど!ほんとにしんじてたのに⋯!!」

「うん、⋯うん。大好きだったんだね。
ずっとずっと悲しくて寂しくて、辛かったんだね。
ごめんなさい⋯ほんとうにごめんなさいっ。
私に言われてもなんにもならない、意味が無いだろうけど、私と、私と同じ人間があなたを騙し、傷つけ、閉じ込めてあなたにそんな思いをさせてごめんなさい。
待ってて、あなたをここから解放する方法を見つけるから。
私にできるかは分からないけれど、解放できるように頑張るから。
だから、だからお願い。好きなだけ泣いて泣いて泣いて泣いて泣いていつか、涙が枯れたら今度は笑って?
すぐでなくてもいい、何年かかってもいい、無理はしなくていいからいつかあなたが嬉しい、楽しい幸せだと思ったら笑って?
私もあなたを笑顔にできるようにがんばるから。」

私は心の底からそう思った。何故だか分からないけど彼を助けなければ!という気持ちが湧いてきた。
普通は初めてあった人にそんなこと思わないのに、自分でもおかしいなとは思う。
だけどそんなこと気にならないくらい助けたいとおもった。

私はそこまで言うと私の目からも涙が溢れてきてしまった。

「ぐすっ⋯ほんとうに、助けられるか分から、ない、っ、のに、偉そうなことを言って、ご、ごめんなさい。
でもさっき言った事は全部本気だから。」

彼から返事はなかったが、私を抱きしめる腕により力が入り、彼の嗚咽が大きくなった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

努力をしらぬもの、ゆえに婚約破棄であったとある記録

志位斗 茂家波
ファンタジー
それは起きてしまった。 相手の努力を知らぬ愚か者の手によって。 だが、どうすることもできず、ここに記すのみ。 ……よくある婚約破棄物。大まかに分かりやすく、テンプレ形式です。興味があればぜひどうぞ。

え…私が魔物使い!?

桜アリス
ファンタジー
4歳になったある日階段から落ちたことで、前世の不運な事故で自分が死んだことを思い出したリーン。 あまり目立つのが好きじゃない彼女はこのことが周りにばれないように、目だだないように生きようと決意する。 ところが適正職業を調べると、まさかの魔物使い!? 「目立ちたくないけど私には天職だ!」と 喜ぶ彼女、彼女は無事魔物をテイムできるのか!?彼女の未来は平穏なものになるのか(いや、ならないだろう! 平穏に過ごしたい彼女と使い魔がゆく波乱な物語!かも…… 主人公は一応チートっぽいです ーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めての作品です! 誤字脱字やおかしなところがあったら 教えて下さい! そういうのを含め、感想をくださると嬉しいです(*^▽^*)

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!

菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

処理中です...