異世界まではあと何日

於田縫紀

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第4章 魔法使いの第一歩

第13話 やっぱりこれはSFか

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 家は重要だ。
 寝る時間くらいはゆっくり落ち着いて安心して眠りたい。
 それにはソフトシェルなテントではなくハードシェルな住宅が必要だ。
 
 肉食爬虫類の襲撃とかそれだけではない。
 悪天候の際の安心感と居心地が全く違うのだ。
 登山してテン場で一晩悪天候に耐えれば身に染みてわかる。
 ちなみに私は嫌という程経験済みだ。
 大学を卒業してから全く行けていないけれども。

 さて、持って行けるハードシェルな家となるとすぐ思いつくのはトレーラーハウスとかキャンピングカーだ。
 アイテムボックス内に入るのはおよそ2,400kg。
 だからあまり重いものは無理だけれども。

 まずはトレーラーハウスを見てみる。
 うん、まさに家だ。
 これを持って行ければ快適間違いない。
 そしてお値段は……書いていない。
 問い合わせはこちらなんて書いてあるけれど、これでは比較検討できない。

 検索結果の他のページを見てみる。
 お、こっちのページは値段が書いてある。
 しかし高い。
 単なる箱で中身なにもなくても230万円。
 家らしいものだと最低でもその倍以上。
 予算超過なんてものではない。
 新品を買うのは無理だ。

 なら中古はどうだ。
 家らしい設備があるものはやっぱり高い。
 200万円以上する。
 かと言って簡素な物でも結構いいお値段。

 理解した。
 この予算でトレーラーハウスを買うのは無理だという事を。

 ならキャンピングカーはどうだろう。
 中古は……やっぱり高い。
 しかも狭い。
 これでは買えない。

 そうなると思いつくのはプレハブ住宅みたいなもの。
 最悪の場合は鋼材製の物置。
 でもあれって組み立て済みのものはあるのだろうか。
 私1人で組み立てられる自信はない。

『プレハブ住宅 組み立て済み』で検索してみる。
 メジャーどころのオークションサイトが出て来た。
 トレーラーハウスと比べるとかなり安い。
 トイレや風呂がついていない代わりに30万円台からある。
 
 どれどれと見てみてがっくり。
 自分で組み立てる必要があるキットばかりだ。
 組み立て済みと検索したのに何でこれが出るんだ!

 何か他の検索ワードを考えよう。
 そう思ってふとタブレットの時刻表示に視線をやる。
 気分転換開始から1時間経過していた。
 いかん、魔法の勉強をしないと。
 残り日数は少ないのだから。

 さて魔法だ。
 大学時代、私の専攻は理学部物理学科。
 ガチガチの理系頭だ。
 もっとも入学したら周囲は天才か天災のような奴ばかり。
 素質の違いに落胆したりもしたのだけれど。

 それでも一応元物理屋だ。
 どうやって物理法則を乗り越えるような力を実現しているのだろう。
 大変に興味深い。

 もっとも信じないと魔法を使えないというのなら、少しくらい今の信念を変えるのもやぶさかではない。
 本当に魔法を使えるのならば、だけれども。

 それでは魔法の学習1日目、スタートだ。

『魔法とは過酷な自然環境を生き抜くために神が与えてくれた大いなる力である。科学技術及び科学的知識が広まっていない時代に惑星オースに移住した人々、及び惑星オースで生まれた人々は今でもそう信じています。

 彼らの知識では世界における全てのものは火、土、水、風、空の五行で成り立っているとされています。魔法も同様にこの5属性から体系づけられています』

 定番っぽい解説だ。
 しかし文体というか書き方が微妙にひっかかる。
 信じています、というところが。
 まるで他に真実があるような雰囲気が漂っている。

『しかし21世紀の日本の皆さんが知っている通り、実際には物質は原子、更に微細化すると素粒子、更に微細化すると多次元の膜です。五行思想というのは人間が証拠も無しに考え出したものにすぎません』

 いきなり現地の皆さんの考えを否定かよと思う。
 だいたいこれ、魔法についての勉強内容の筈だ。
 それが何故現地の考え方の否定から入るのだろう。

『つまり魔法も不明かつ検証不可能な力ではなく、科学技術において作り出された現象です。発達した科学技術を持たない人間社会であってもそれなりの生活水準を得る為に導入された、ヘリオ・セス・デルタ型開発の根幹をなす技術のひとつです』
 
 科学技術なのかよ。
 またファンタジーからSFに変わりやがった。
 しかしその方が私としては理解しやすいかもしれない。
 ならどうやって実現させているのだ。
 更に先を読み進める。

『この魔法という技術は人工細菌型マイクロマシンを媒介に使用しています。このマイクロマシンは通称魔素マナと呼ばれ、環境によって発現する場所を変える特殊な長い遺伝子を持っています。また我々が認識可能な空間からは虚数解となる空間に折りたたまれた形で様々なものを貯蔵する事が可能です』

 またわからない事を言い始めた。
 本気で異世界ファンタジーをする気があるのだろうか。
 そう思いつつも読み進めてしまう。

魔素マナは人間の脳に感染し、人間に魔素マナに対して命令を発信する機能を提供する形で共生します。この命令発信は我々が認識可能な三次元空間と並行な膜状の極小空間を利用します。これは魔素マナがエネルギー貯蔵に使用するのとはまた別の空間となります』

 なんだか理解を放棄したくなる。
 元理系で理屈っぽいと言われる私でさえそうなのだ。
 一般的な人なら尚更そう感じるだろう。
 それでも魔法をおぼえる為には仕方ない。
 次へと書かれたボタンを押す。

『つまり脳から魔素マナに対し命令を発信する事により、魔法を使用するという訳です。次の章では魔素マナの性質について勉強しましょう』

 つまり人工細菌型マイクロマシンによって魔法を実現させている。
 長く面倒な説明の割に言っている事はこれだけのようだ。
 何かどっと疲れた。

 カーテンの外を見ると、明るくなり始めている。
 もう朝は近いようだ。
 取り敢えず就寝するとしよう。

 箱から固形バランス栄養食を1個取り出す。
 お薬もあるし少しだけお腹に入れておこう。
 だから栄養食をアイソトニック飲料で胃袋へと押し流す。
 そして次は水でお薬を。

 それではおやすみなさい。
 
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