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第19章 それでも俺は挑戦する

第146話 騎士団部隊対怪傑チャールズ・フォート・ジョウント

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『我が部隊は王命を受け、先日のバジリカタ暴動における捜査と鎮圧の為にこちらに派遣された。またここに他の襲撃及び拉致事案の犯人である不逞の輩チャールズ・フォート・ジョウントが存在する事から、これらの事案が相応の関係性を持っていると認められる。
 故に第二騎士団の部隊長よ、我に従え。王命である』

『国法による根拠を明示せよ』

『非常事態法である』

『当方は現在を非常事態とみなす必要性を感じていない。バジリカタも現在平穏である。故に非常事態法を根拠と認める事は出来ない』

『近衛騎士団長カシム伯爵及び第一騎士団長リドリー伯爵の判断である』

『バジリカタは第二騎士団が平穏に受け持っている』

 やはりギュンター隊長、なかなかやる男のようだ。
 まあ平民から騎士団幹部にまでなった男だから優秀なのは確かだろうけれど。

『重ねて問う。国法による根拠を明示せよ』

『我が部隊は王命により動いている。また我は伯爵であり副千卒長である。現在は非常事態とみなされている。平民であるギュンター百卒長よ、我に従え』

『国法による根拠を明示せよ』

 言い合いの勝負はついたようだ。
 ならそろそろ俺の出番かな。

『ならば我、副千卒長ナグコス・ヴァーミュライト伯爵は第二騎士団バジリカタ派遣部隊を王命に反した賊軍として扱うことにする』

『国法による根拠を明示せよ』

『合同部隊の騎士団各位に告ぐ。スティヴァレ国伯爵にして副千卒長ナグコス・ヴァーミュライトの名において、第二騎士団バジリカタ派遣部隊を王命に背く賊軍としてこれより敵と見なす。総員攻撃を開始せよ』

 よし、俺の出番だ。
 そうは言っても前は封鎖した。
 俺自身も当然攻撃を受けないモードになっている。
 この状況で派遣騎士団の皆さんが何を出来るかは……
 おっと、一言注意しておくか。

『畑は荒らさないよう頼む。そうでなくとも穀類は不足して価格が上昇中だ。国を憂う立場ならそのくらいは考慮するように』

 こら注意したそばから畑に出るな!
 仕方ない連中だ。農家と農作物に対する感謝が足りない。なら仕方ないな。

『畑を踏み荒らさないよう、これから前の空間封鎖を解いてやる。私、チャールズ・フォート・ジョウントに勝てると思うのならかかってくるがよい』

 思い切り見えを切る。さて、どう出るかな。

「ゴーレム部隊へ命令、敵はチャールズ・フォート・ジョウント! 生死を問わず捕獲せよ、起動!」

 そんな声が遠くで聞こえた。よろしい、ならば戦争だ。
 実際は戦争どころか戦闘も起きないだろうが。

『空間操作魔法、歪曲、実行!』

 単純に空間をねじ曲げて別空間につなげてやる。
 なお歪めたのは足下の一部空間だけ。よほど注意しない限り空間が歪んだ事に気づけないようにしてある。俺や陛下のような空間操作魔法持ちでもない限り感づけないだろう。

 ゴーレムの数がもう少し少なければ直接別空間に飛ばしてやる方法もある。だが流石に今の数は多すぎる。俺でも1回でやるのは無理だ。
 だから空間の歪みに自分で入って貰うように仕向けた訳だ。

 予想通りゴーレム部隊は前進し……ない。空間をねじまげた場所の手前で立ち止まった。
 そう言えば空間操作魔法を命令して使う事は出来ないが、魔法理論そのものはゴーレムの元になった魔法水晶にも記憶されている。その結果ゴーレムの魔法水晶は空間の歪みを認知できた模様。
 なら道の左右に障壁を展開し、横にそれないようにして……

 ゴーレムはやはりその空間操作を察知できるらしい。必然的に回り込もうと後退する形になる。

「ゴーレムなにをしている、前進せよ! 命令だ!」

 ゴーレムと違い空間の歪みに気づけない指揮官が怒鳴った。優先命令が前進に切り替わる。
 故にゴーレムは前進し…… 空間の歪みに入り、姿を消す。
 
 状況が見える敵部隊の前方からどよめきが起こる。

「何をしているゴーレム、止まれ!」

 慌てた指揮官の声。これくらいで声色が変わるとは修行が足りない。

『私はチャールズ・フォート・ジョウント。そのような攻撃は効かない。他の方法を試してもいいが、次は犠牲を覚悟することだ』

 敵部隊だけでなく周辺広い状態に範囲を拡大して伝達魔法で宣告する。

「弓部隊及び遠距離魔法部隊、散開」

『畑を荒らすな』

 小部隊の左右なら俺の魔力でも障壁を作れる。弓部隊は道路上から出られず障壁にぶつかる。

「くそう、ではそのまま打ち方はじめ!」

 矢が弓なりの軌道で投射されはじめる。魔法の火炎弾も飛び始めた。
 流石騎士団だけあって腕はいいようだ。だが腕がいい分軌道が揃っているのが仇となる。

 空間操作魔法で俺の上方向のある範囲を歪めてやる。その部分の矢と火炎弾がふっと落下途中に消えた。
 現れたのはゴーレム部隊の間の上空。矢と火炎弾が雨のように路上に降り注ぐ。

 矢の一部は石畳の隙間に刺さり、火炎弾は石畳にぶつかり火の粉を上げた。確かになかなかの威力だ。
 あんなのが上から降ってこられたらたまらない。今回はゴーレムの上だから犠牲者は出ないけれど。

『今回は警告止まりとしておいた。次は何処へ降らせようか』

「打ち方止め!」

 慌てたような指揮官の声。

『そろそろ警告は充分だろう。次の攻撃で私も攻撃に移るとしよう。だが私チャールズ・フォート・ジョウントは庶民の味方だ。平民出身の兵の被害を出すのは本意では無い。だから将校や指揮官クラスを狙って攻撃するとしよう。このように』

 飛んでいた最後の矢を空間操作魔法で捕らえ移動させる。今度の矢は前方に位置する現場指揮官のゴーレム車ではなく、後方の部隊総指揮官のゴーレム車のボンネットに突き刺さった。
 何もこんな場所にひときわ高級そうなゴーレム車で来ることはないのにと思う。おかげで何処に偉いのがいるかバレバレだ。

 さて、それでも根性をみせてくれるだろうか。ノブレス・オブリージュとやらを見せてくれるだろうか。

『第二騎士団に告げる。王命である。至急我らが指揮下に下り、この不逞な輩を排除せよ。我は近衛騎士団・第一騎士団合同派遣部隊の長、副千卒長ナグコス・ヴァーミュライト伯爵である。指示に従え』

 ……駄目だなこれは。

『貴官の命令に従うべき根拠を提示いただきたい』

 ギュンター隊長からお約束な伝達魔法がやってきた。いや、それだけではなかった。

『再三の当方の要請にも関わらず根拠を示し得ないところから察するに、貴方は伯爵名を名乗る私兵部隊と判断する。国法を守らぬ私兵を用いた武力は秩序を乱す重大な要因である。もしそちらに騙されて正規の兵が参入させられていたならば、武器を捨て第二騎士団に投降されたい。第二騎士団は諸君らを保護する事を約束する』

 えげつないな、ギュンター隊長。俺の予想以上だ。
 近衛騎士団や第一騎士団と言えども兵長以下の階級は平民出身者。だから任務に疑問を持っている可能性も高いし、上司である貴族に反感を持っている可能性はもっと高い。
 ならばだ。

『ナディアさん、援護頼みます。次の俺の台詞の後、台詞に会わせて適宜』

『了解しました』

 ナディアさんの返答を確認して、そして俺は伝達魔法で呼びかける。

『私、チャールズ・フォート・ジョウントも約束しよう。武器を捨て諸君達からこちらを見て右側脇の麦畑へ待避し投降の意思を示した者の安全は保証する。繰り返す。武器を捨て右側脇の麦畑へ待避し投降の意思を示した者の安全は保証する。ただし畑はあまり踏み荒らさないように』

 明らかに部隊に動きがあった。ごそっと部隊のかなりの人員が俺から見て左側へと逃げる。
 俺は将校クラスが妨害をしないよう監視する。妨害をしかけたときは容赦なく魔法攻撃だ。軽い怪我で済む程度までにとどめるが。 

「ゴーレム部隊退却せよ!」

「逃げるな!」

「後方の車両からも続々逃げています」

「子爵家嫡子である俺の命令が聞けないのか!」 

 思い切り混乱している。少しは整理してやろう。
 俺は待避した兵を移動魔法で俺より城側へ移動させる。全員一気には無理だから順番にだ。無論武装している奴は移動させない。

 のろのろと部隊は撤退をはじめた。流石にこれ以上いても消耗するだけと悟ったのだろう。だが人数はかなり減っている。
 
 そうだ。
 後方に停められているゴーレム車。今は見張りだけ立っていて無人の車両が大半だ。
 とりあえず撤退用に敗残将校連中が乗る車だけは残してやろう。あとは第二騎士団の装備増強の為、いただく事にする。
 俺は空間操作魔法で無人の車両をガンガン移動させた。

 ◇◇◇

 1時間程度経過した後、事態は無事収束。

 敵部隊は7割程度に減った戦闘ゴーレムと半数以下になった車両、1割も残っていない兵とともに撤退。
 若干荒れた畑も第二騎士団員によって再整備。元々麦踏みの時期だったのもあり、武装解除した兵が乗った程度の処は問題なさそうだ。
 街道上に捨てられた武器も騎士団で回収してくれた。

 ゴーレム車の運転方法や当座の会議等はナディアさんに任せ、俺は仮眠用に部屋のひとつを借りる。実は魔力がもうカツカツ状態なのだ。別荘へ帰る程の魔力も残っていない。
 かろうじて扉を空間操作魔法で閉鎖すると、最後の魔力で時間十倍モードを起動。あとは仮眠用のベッドへ……
 バタンキュー!
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