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第14章 2年目夏のバカンス

第94話 今回の宿

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 ラツィオの郊外に出て人目が無い場所でゴーレム車ごと移動魔法を起動。ゲルセット郊外まで一気に移動し、そこからはゴーレム車で走って向かう。

「移動魔法でゴーレム車まで移動できるんだね」

「でもこれで限界だな。もう1台となると大きさ的に無理な感じがする」

「その割に魔力は大丈夫なようですわ」

「この大きさまでなら魔力的に問題ないんだ。でも移動させるものがこれより大きいと一気に難しくなりそうに感じる」

 その辺は感覚的なものなので説明は難しい。

「皆で移動できるから問題ないよね。ところでミランダ、道案内大丈夫?」

 ゴーレム車の運転担当はフィオナだ。

「問題ないな。元々ゴーレム車で来るつもりだったしさ。あと4半時間15分もあれば到着するだろう」

 ミランダがメモを見ながらそう答える。

「それにしてもこのゴーレム車、速いですわ」

 テディの言う通りこの車、スティヴァレでは異常な程速い。
 スティヴァレの一般的な馬車は人が小走りで走るよりやや速い程度だ。だいたい時速5離10km/h程度。
 2頭立て以下だと馬を疲れさせないように更に遅くなる。歩きよりやや速い程度で時速3離6km/h程度だろうか。
 馬車を引かず替え馬を乗り継いで急ぐ急使便が時速12離24km/h程度。

 このゴーレム車は平地ならその倍以上は出ていると思う。速度計がついていないので厳密な速度はわからないけれど。

 ちなみに小口荷物は取寄魔法アポートを利用した定期便があるので大都市間なら国内何処でも2日程度で届く。だから馬車の遅さの割に流通そのものはそれなりの発達をしているのだ。
 号外等も同じ方法で国内何処でも1日で届くけれど、まあそれは別の話だな。

「この車があればジュリアも毎日実家から通えますね」

 テディの台詞にジュリアが肩をすくめてみせる。

「謹んで遠慮する。事務所で絵を描いている方が楽しい。お金も稼げる」

「帰られたら私が困るな。国立図書館とは既に来年まで漫画の契約済だしさ」

 そんな事を話しながら走ること6半時間10分少々。町外れの海岸沿いに建つ邸宅の前へ到着した。

「ちょっとこれ、本当に借りても大丈夫なのかな」

「宮殿みたい」

「というか大きすぎませんか」

 冬に借りたホテルと同等クラスの大きさだ。

「元々はリゾートホテルだったらしい。ただラツィオからも他の大都市からも遠いし、名所と言っても海と砂浜しかないからさ。客が少なくて潰れた処を買い取って改装、別荘にしたそうだ。この大きさがあれば王族や大貴族相手の接待でもお付きや警備部隊ごと泊まれて便利なんだと」

 なるほどそういう使い方もあるのか。

「今回はキッチンが近い部屋にしよう。豪華な部屋じゃないけれどその方が使いやすいだろう」

 ミランダは玄関を入ってすぐ左に曲がり、廊下を歩いて2つめの扉を開く。
 中は広間というかリビング的な感じでテーブルとソファーがある。他には左右の壁に扉が5つずつついているのが特徴的だ。

 ミランダが扉のひとつを開ける。中はベッドと机、椅子がある簡素な部屋だった。

「ここは警備部隊用の部屋で1分隊がここで泊まれるようになっている。見たとおり簡素な部屋だがそこそこ便利だろ。これと同じ作りの部屋があと3室あって、1小隊まるごとここに泊まれるようになっている訳だ」

「警備部隊各自に個室があるなんて、王宮やうちの実家あたりの警備待機室よりもむしろいい作りですわ」

 テディのいかにも元大貴族といった感想にミランダは頷く。

「その辺は商売人的な勘定なんだろう。下っ端にも気に入って貰っておけばいざという時に何かプラスがあるかもしれない。その程度の投資は惜しくないって事だ」

 なるほど。俺としては今までのような豪華な場所よりこれくらい簡素な方が落ち着く。一応これでも貴族の端くれではあったのだけれど。

「豪華な部屋なら上に行けばあるけれどどうする?」

「使いやすそうですしこれがいいですわ」

「そうですね。あまり豪華だと落ち着きません」

「実は私も」

「同意」

 俺も頷く。豪華でないのもだが個室を確保出来る点もいい。

「それじゃ他の施設も確認するぞ」

 荷物を置いてミランダの後に続く。まずはキッチンだ。流し台や作業台などいかにも使いやすそうでかつ広々としている。

「警部部隊用には食堂は無くてさっきの待機室で食べるみたいだな。私達もそれで問題ないよな」

「そうですね」

「という事で次、風呂だ」

 今度はエントランスの広間を通り抜け反対側へ。
 おっと、ここは浴槽がかなり大きい。一気に十人以上は入っても余裕という感じだ。

「これも警備部隊用だが広い分こっちが気持ちいいと思う。上の上客用の風呂は装飾はきらびやかなんだがここより狭いからさ」

「広い方がいいよね」

「そうですね」

「それじゃ次だ」

 キッチンと風呂以外に何か使う施設があるだろうか。そう思いながらミランダの後に続く。
 再びエントランスの広間を通り今度は玄関と反対方向へ。風呂と同じような更衣室がある。

「今回は通るだけだからアシュも一緒な」

 それでも気分的にドキドキする女子更衣室を通ると、そこは。

「大きな露天風呂ですか」

 こらテディ、それは違うぞ。

「水泳場だね。川の一部じゃなくて専用に作ったものは初めて見るよ」

 ミランダはフィオナの台詞に大きく頷く。

「ああ、フィオナの言う通り、ここ専用の水泳場だ。川から引いている水だからべたべたしない。海で遊んだ後もここで一泳ぎすればベタベタがとれる。ほどよく冷たいから暑い夏には最高だって話だ」

「豪華な施設ですね。川ではなく専用でこんな大きな水泳場を作るとは」

 ナディアさんがそう言うという事は、軍にもこういった施設は無いんだな。大きさは長方形では無いが、だいたい50メートルプール程度に見える。

「ここなら他から見えないし、ニア達が遊ぶにもちょうどいいんじゃないかな」

「なら呼びましょうか。ニア、マイア!」

 召喚呪文を無詠唱で唱えたのだろう。龍2匹が出現する。いつも通りのミニサイズだ。

「ここから先は他から見えてしまいますから、ここの水泳場と別荘内にいて下さい。いいですね」

 キュウ、キュウ。ミニ龍2匹は頷いて、そしてプールへ飛び込んで泳ぎだす。楽しそうでなかなか宜しい。

「ここの水泳場からビーチに出ることが出来る。なおこの辺は専用プライベートビーチだそうだ。右は砂浜に岩を入れて区切ってあって、左は砂浜が切れて岩場になっているところまで。ボリアスコの時と違って完全に砂浜だから寝っ転がって日光浴をするのもよし、泳いでみるのも良しだ。
 そんな訳で早速だが着替えて遊ぼうじゃないか。アシュも遊び道具を持ってきたんだろ。フィオナと何か画策していたみたいだしさ」

 確かに今回もある程度は遊び道具を作ってきた。準備期間が短いし俺では制作の知識も技能も足りないからフィオナの協力を得て外注して制作してもらったのだけれど。
 さて楽しめるか楽しめないか。試してもらおうじゃないか。
 
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