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第11章 お仕事な日々
第74話 お仕事開始
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さて、殿下ご依頼の勧善懲悪ものを翻訳することが決定した。なら余分な仕事が入った事によるスケジュールの調整だ。
元々キツキツに仕事を詰めているし今はリゾートの後でもある。時間的な余裕は全く無い。
本当は殿下の御所望なんて入る余地は無いのだ。入れるとなると他の仕事を犠牲にする必要がある。そうしなければブラック労働が復活だ。
それは避けたい。何としてでも。
「ミランダ、スケジュール的に遅らせて大丈夫なのは何になる?」
ミランダも同じことを考えていたようですぐに返答がくる。
「児童書だな。この前『エルマーの冒険』を出したばかりだしさ。国立図書館の出版スケジュールには元々かなり余裕がある。お願い通しで1月くらいは何とか出来るだろう」
なるほど。
つまり事務所全体での優先順位は、
① フィリカリスⅢ(俺翻訳済み)
② 快傑ゾロ(未翻訳)
③ 医学書追補版(翻訳内容と場所の選択済み、未翻訳)
④ 児童書(何を翻訳するか選別まだ)
という感じだ。
この優先順位を俺とテディの仕事になおすと、
俺:① 快傑ゾロ ② 医学書追補版 ③ 児童書
テディ:① フィリカリスⅢ ②快傑ゾロ
となる。
テディが今やっている『フィリカリスⅢ』はうちの代表作である花の名前シリーズの最終巻。だから出来れば時間をかけてじっくり思う存分作業をさせてやりたい。
何せテディに任せているのは校正といいつつ校正だけじゃない。かなり手直しをやって貰っている。
俺が翻訳した時点で外国語の授業で教科書を翻訳した程度に正しい翻訳文にはなっている。しかし小説としての面白さとか雰囲気はそれだけでは完成していない。味付けというか雰囲気づくりが必要なのだ。
作中人物や状況に合わせて意味が同じ範囲で言い回しを変えたりとか。雰囲気とリズム重視で韻を踏ませたりとか。
スティヴァレ語には動詞や形容詞に男性形と女性形があるのだが、その辺をあえて原則から変えて雰囲気を変えたり伏線にしたりとか。文字数や行数を揃えて読みやすくするために単語や言い回しの調整をするとか。
テディがやっているのはそういった細かい作業。結果として俺単独で訳した『フィリカリス』に比べて数段綺麗な話になっている。
今回、ここで時間をかけると『快傑ゾロ』を訳す時間が減る。俺が『快傑ゾロ』を訳すのにかかる時間は急いでだいたい1週間。文庫本300頁超を1週間で訳すのは翻訳魔法を使っても厳しいが、後に控える医学書追補版の事を考えるとそれが限度だろう。
しかしそうするとテディが『フィリカリスⅢ』にかけられる時間も1週間になる。普通はテディ、このシリーズ1冊に2~3週間かけているのに。一度訳してまた読んでと繰り返して仕上げているから。それを半分というのは質の低下が起きそうな問題だ。
「俺が今週で『快傑ゾロ』を訳したとしてさ。テディは出来れば『フィリカリスⅢ』に集中して欲しいんだ。だから『快傑ゾロ』はその後、来月頭位で大丈夫かな」
「何なら私が手伝いましょうか」
いやサラ待ってくれ。
「サラは今は勉強に集中して欲しいですわ」
全員が頷く。何せ入学試験前なのだ。確かにサラも文章力はそれなりにあるけれど今はまずい。
「その辺だけれどちょっと待ってくれ。今回は殿下に送付じゃなくてこっちで出版する訳だろ。だから出版社にかけあってまずは企画を通さなければならないんだ。内容はまさに今の旬だしここの実績もあるからまず企画は通ると思うけれどさ。スケジュールが出るのは企画が通った後だ」
確かにそうだな。そもそも企画をたてただけでまだ出版そのものの話は出来ていないんだった。
「でもまあその辺は何とかする。最悪の場合でも何とか出来る方法は考えておくから心配しないでくれ。
だからまずアシュは勧善懲悪もの、『快傑ゾロ』だっけか、あらすじや登場人物紹介なんかをいつもの企画書様式で5枚位書いてくれ。それを持ってちょいと出版社にかけあってくる。テディは特に急がずいつも通りに花の名前を仕上げてくれ。フィオナは原稿が無い代わりに税務署提出に備えて昨年分の会計整理、ナディアさんはフィオナの手伝いをお願いします」
「了解」
「わかりました」
「わかったよ」
「はいはい」
そんな感じで事務所は動き出す。
12月もそろそろ終わり。日本だとそろそろ年末モードでお仕事終わりの時期だ。
しかしここスティヴァレでは年末年始は一応休みだが特にお祝いとかはしない。代わりに4月1日に新春祭を大々的にやったりする。昨年は引っ越し後のごたごたで何もしなかったけれども。
俺はあらすじや登場人物紹介、予定枚数等を書く作業を開始。この辺はスティヴァレで本を出版する際のお約束みたいなものだ。
流石に何度も書いたのでもう慣れたもの、と言いたいところだけれどあらすじを魅力的に書くのって結構難しい。
テディは俺の隣の席でいつも通り校正その他の仕事。サラは更にその隣の席で静かに勉強。フィオナとナディアさんでずっとほったらかしにしていた会計作業だ。
「これって一番面倒な作業だよね、きっと」
「でも国王庁への提出は2月末までですから」
「あ、ナディアさん。会計の前に昼ご飯をお願いします」
「そう言えばそうですね。調理して来ます」
「ならミランダ、会計手伝って」
そんな感じでリゾート後のお仕事が始まった。
元々キツキツに仕事を詰めているし今はリゾートの後でもある。時間的な余裕は全く無い。
本当は殿下の御所望なんて入る余地は無いのだ。入れるとなると他の仕事を犠牲にする必要がある。そうしなければブラック労働が復活だ。
それは避けたい。何としてでも。
「ミランダ、スケジュール的に遅らせて大丈夫なのは何になる?」
ミランダも同じことを考えていたようですぐに返答がくる。
「児童書だな。この前『エルマーの冒険』を出したばかりだしさ。国立図書館の出版スケジュールには元々かなり余裕がある。お願い通しで1月くらいは何とか出来るだろう」
なるほど。
つまり事務所全体での優先順位は、
① フィリカリスⅢ(俺翻訳済み)
② 快傑ゾロ(未翻訳)
③ 医学書追補版(翻訳内容と場所の選択済み、未翻訳)
④ 児童書(何を翻訳するか選別まだ)
という感じだ。
この優先順位を俺とテディの仕事になおすと、
俺:① 快傑ゾロ ② 医学書追補版 ③ 児童書
テディ:① フィリカリスⅢ ②快傑ゾロ
となる。
テディが今やっている『フィリカリスⅢ』はうちの代表作である花の名前シリーズの最終巻。だから出来れば時間をかけてじっくり思う存分作業をさせてやりたい。
何せテディに任せているのは校正といいつつ校正だけじゃない。かなり手直しをやって貰っている。
俺が翻訳した時点で外国語の授業で教科書を翻訳した程度に正しい翻訳文にはなっている。しかし小説としての面白さとか雰囲気はそれだけでは完成していない。味付けというか雰囲気づくりが必要なのだ。
作中人物や状況に合わせて意味が同じ範囲で言い回しを変えたりとか。雰囲気とリズム重視で韻を踏ませたりとか。
スティヴァレ語には動詞や形容詞に男性形と女性形があるのだが、その辺をあえて原則から変えて雰囲気を変えたり伏線にしたりとか。文字数や行数を揃えて読みやすくするために単語や言い回しの調整をするとか。
テディがやっているのはそういった細かい作業。結果として俺単独で訳した『フィリカリス』に比べて数段綺麗な話になっている。
今回、ここで時間をかけると『快傑ゾロ』を訳す時間が減る。俺が『快傑ゾロ』を訳すのにかかる時間は急いでだいたい1週間。文庫本300頁超を1週間で訳すのは翻訳魔法を使っても厳しいが、後に控える医学書追補版の事を考えるとそれが限度だろう。
しかしそうするとテディが『フィリカリスⅢ』にかけられる時間も1週間になる。普通はテディ、このシリーズ1冊に2~3週間かけているのに。一度訳してまた読んでと繰り返して仕上げているから。それを半分というのは質の低下が起きそうな問題だ。
「俺が今週で『快傑ゾロ』を訳したとしてさ。テディは出来れば『フィリカリスⅢ』に集中して欲しいんだ。だから『快傑ゾロ』はその後、来月頭位で大丈夫かな」
「何なら私が手伝いましょうか」
いやサラ待ってくれ。
「サラは今は勉強に集中して欲しいですわ」
全員が頷く。何せ入学試験前なのだ。確かにサラも文章力はそれなりにあるけれど今はまずい。
「その辺だけれどちょっと待ってくれ。今回は殿下に送付じゃなくてこっちで出版する訳だろ。だから出版社にかけあってまずは企画を通さなければならないんだ。内容はまさに今の旬だしここの実績もあるからまず企画は通ると思うけれどさ。スケジュールが出るのは企画が通った後だ」
確かにそうだな。そもそも企画をたてただけでまだ出版そのものの話は出来ていないんだった。
「でもまあその辺は何とかする。最悪の場合でも何とか出来る方法は考えておくから心配しないでくれ。
だからまずアシュは勧善懲悪もの、『快傑ゾロ』だっけか、あらすじや登場人物紹介なんかをいつもの企画書様式で5枚位書いてくれ。それを持ってちょいと出版社にかけあってくる。テディは特に急がずいつも通りに花の名前を仕上げてくれ。フィオナは原稿が無い代わりに税務署提出に備えて昨年分の会計整理、ナディアさんはフィオナの手伝いをお願いします」
「了解」
「わかりました」
「わかったよ」
「はいはい」
そんな感じで事務所は動き出す。
12月もそろそろ終わり。日本だとそろそろ年末モードでお仕事終わりの時期だ。
しかしここスティヴァレでは年末年始は一応休みだが特にお祝いとかはしない。代わりに4月1日に新春祭を大々的にやったりする。昨年は引っ越し後のごたごたで何もしなかったけれども。
俺はあらすじや登場人物紹介、予定枚数等を書く作業を開始。この辺はスティヴァレで本を出版する際のお約束みたいなものだ。
流石に何度も書いたのでもう慣れたもの、と言いたいところだけれどあらすじを魅力的に書くのって結構難しい。
テディは俺の隣の席でいつも通り校正その他の仕事。サラは更にその隣の席で静かに勉強。フィオナとナディアさんでずっとほったらかしにしていた会計作業だ。
「これって一番面倒な作業だよね、きっと」
「でも国王庁への提出は2月末までですから」
「あ、ナディアさん。会計の前に昼ご飯をお願いします」
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そんな感じでリゾート後のお仕事が始まった。
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