上 下
51 / 176
第8章 熱闘・魔法武闘会

第49話 明日のセコンド

しおりを挟む
 記者をまくのには古典的な手段を使わせていただいた。具体的には受付で『帰る』旨を申告した後、『最後にトイレに寄ってから帰るから』と言って一度中へ戻り、そこから移動魔法を起動して家に帰るという手順。

 何せ玄関から出た先にはもう見るからに記者ですという連中が出待ちしている。だから仕方なくそうなってしまった訳だ。
 第一試合、それもあっさり終わった為、朝9時半過ぎには俺の部屋に帰着。黒一色の怪しい服装からいつもの服装に着替え、事務所へ。

「ただいま」

「おかえりなさい、早かったね」

「1試合だけだからね」

 事務室にはミランダ以外の全員が揃っている。サラやナディアさんもだ。

「どうでした、試合は」

「今日の相手はナディアさんほど強くなかった。俺がチート魔法を使っているせいもあるけれどさ」

「今日の相手はアンジェロ百卒長でしたね。でしたら確かにアシュノールさんの相手にはならないと思います」

 ナディアさんは彼を知っているようだ。でも俺の相手が彼であることを何故知っているのだろう。

「トーナメント表ってこっちに置いてあったっけ」

「号外が出ていたよ」

 フィオナが号外のトーナメント表部分を広げる。名前と対戦時間が入った、俺の貰ったパンフレットとほぼ同等内容のものだ。

「仕事も余裕ペースだからさ。魔法武闘会の基礎知識や対戦相手についてナディアさんに教えてもらっていたんだよ」

「今まで興味は無かったのですが、アシュが出るとなると身近に感じられますね」

「でもアシュノールさん、魔法武闘会に出られるほどお強かったんですね」

 おいサラそれは誤解だ。

「俺は強くないぞ。ただ特殊な魔法が使えるだけだ」

「魔法も実力です」

 ナディアさんに言われるとそれ以上言えなくなる。

「それに今日の相手のアンジェロ百卒長も決して弱くはありません。騎士団でも伯爵位以上及びその子弟の中ではかなり強い方です」

「つまり全体の中ではそう強くはないって事ですわね」

 テディの口調以外は厳しい台詞にナディアさんは苦笑する。

「ただアシュノールさんがこれから先対戦する相手はアンジェロ百卒長とはレベルが違う相手になります」

 まあそうなるよな、当然。

「どんな相手になりますか」

「あくまで私が知っている相手だけですけれども」

 そう言ってナディアさんはトーナメント表を指す。

「2回戦ではそれぞれ、有力候補とそうでない対戦相手が当たっているように見えます。2回戦の第2試合で勝ち残り3回戦第1試合でアシュノールさんの次の相手になるのはおそらくこの方、ヴィンセントさんです。A級冒険者で典型的な早撃ちタイプの魔法使いになります。使用する魔法そのものは一般的なものばかりですが、無詠唱でとにかく早く多く魔法を繰り出してくるタイプです。

 次に順調にいくと4回戦・準決勝で勝ち上がってきてアシュノールさんと対戦する可能性の高い方はこの方、通称ゴーレムマスターのオッタービオさんですね。この方は通称通りゴーレム使いです。ゴーレムを複数召喚して操る事が出来る特殊な魔法を持っています。ただゴーレムは数が多くても速度が比較的遅いので、落ち着いて対処すればアシュノールさんなら問題は無いでしょう。

 そして最後、優勝戦まで上がってくる可能性の高いのはこの方、ソニアさんです。王国騎士団最強で現在は王家の護衛を担当されている方ですが、一見剣術も魔法もごく普通の使い手にしか見えません。ですがそう見えるのは最適化された動きがそう見せているだけです。私でも正直全ての動きがわかるとは言えません」

 ナディアさんにもそう言わしめる敵か。選手紹介の部分を読んでみると、皆さんなかなかに強そうだ。
 ちなみに今日の俺の相手だったアンジェロさんはこの中では雑魚扱いの模様。
 俺については『国王陛下が招いた『今までの戦士とは全く異なる魔法戦士』とはおそらく彼の事であると思われる。第一回戦でナディア選手の召喚魔法を無効化した事から召喚魔法使いとも思われるが詳細は不明』と書かれていた。

「何か頭が痛くなるな、そんな相手がまだまだいるとなると」

「でもアシュだって優勝候補でしょ」

「それにアシュノールさん、まだ私の時は全力ではありませんでしたよね」

 えっ。

「あれはあれで魔力が無くなるところまで頑張ったんだけれどな」

「あえて自分の力を全部出さないように戦っていませんでしたか」

 ナディアさんの追及が厳しい。

 確かに俺は出来るだけ空間操作魔法の本質を見せないように戦っていた。
 この魔法の利点のうち、
  〇 俺から攻撃は出来ても相手から攻撃は出来ない
  〇 相手の数秒後の姿を見る事が出来る
点についてはここにいる面子にも話していない。
 単に移動が出来て相手を移動させることが出来る便利魔法と思われている。詳細を知っているのは同じ魔法を持つ陛下だけだ。
 しいて言えばテディはある程度知っているかもしれない。彼女は陛下の魔法について伝え聞いているようだから。

 ただ俺としてもこの辺については言うつもりはない。なのでちょっと誤魔化させて貰おう。

「それはまあそれとして、明日は付き人が1人必要らしいんだ。必要というか、連絡の為にいた方がいいという感じらしいけれど。
 フィオナかミランダに頼もうと思っているのだけれどいいかな?」

「私では駄目ですの?」

 テディにそう言われてしまった。

「テディはラツィオに知人が多いだろ。謎の出場者の件、ここに結び付けられるとあまり嬉しくない。ミランダも知り合いは多いけれど、ミランダなら何処で何に顔を出していてもおかしくないと皆思ってくれるだろうからさ。フィオナはテディやミランダほど顔を知られていないし目立たないから」

「うーん、でもそれなら僕やミランダもやめておいた方がいいかな。少しでもここに関係しそうな情報は与えない方が正解だと思うよ」

 フィオナの台詞。確かにそうだ。
 かと言ってサラに頼むのも何だろう。家事と勉強で忙しいから。

「なら私が行きましょう」

 実はナディアさんに頼むという案も少しは考えたのだ。しかしそれはそれで申し訳ない気がして言わなかった。仕方ないとはいえ俺のせいでナディアさんが負けたのは事実だし。

「付き人というかセコンドでしたら、受付と案内の係員以外は誰かと会う事はありません。それに試合場で私が見られても私とアシュノールさんを結びつける人はいないでしょう」

 確かにそうだけれど、何か申し訳ない。

「魔法武闘会のシステムについてはこの中では私が一番良く知っています。ですので任せて下さい」

 うん、なら仕方ないかな。

「それでは申し訳ありませんがナディアさん、お願いします」

「お任せください」

 俺とナディアさん、お互いに頭を下げあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

俺と彼女は入れ替わり

三毛猫
恋愛
俺は一度でいいから女子高校生になってモテたかった。そんな願いは叶った。ある日起きたら女子高校生になった俺は彼女になりきり、変身生活を満喫するはずだった…… ※下品なシーンがあるため、お食事中に読むのはお控えください。 ※下品なシーンが含まれる為R15 ※ファンタジー要素あり

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...