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第24章 新人さんを確保しよう!

118 工具談義とヤマハのバイク

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 香緒里ちゃんが代表取締役社長に就任した。
 実態は何も変わっていないけれど。

 なお社員は現状俺とジェニーの2人。
 でも毎月支給の高い給料以外は、何も変わっていない。

 要は高すぎる税金対策の為、節税対策で会社を設立したのだ。
 幸い魔技大インキュベーター室で手続き等は事細かに教えてくれたし、一部手続きの代行さえしてくれた。
 それに特区という土地柄、法務局支所も公証人役場も税務署さえも、必要な役所は全部島内に揃っている。

 学生会作業もしながら、1週間ちょっとで会社設立は無事完了。
 あとは日々の帳簿作業とか位で、生活上はあまり前と変わらない。
 名目上は色々変化があったけれど。
 例えばマンションのこの部屋や由香里姉の愛車が会社名義になったとか。

 学生会作業も、実質ほとんど終わっている。
 必要なパンフレット類は、旅行前に既に印刷完了していたし。
 だから後は、新入生懇話会等の新入生対象行事の準備だけだ。
 しかしそれも昨年のを元に、台本もプログラムも会場予約も準備済み。

 なので話題といえば……

「今年も2人か3人、学生会に欲しいですね」

  人材確保の件になる。

「ジェニー、今年は手応えありそうかな」

「まだわからないれす。ソフィーの彼氏はどうれすか」

「ロビーは学生会タイプ無いです。入るとすれば工作系統のクラブです」

 成程、俺と同じタイプか。
 なら無理に勧めても悪いな。

「2人は確保したい。出来れば攻撃魔法科も」

「魔法工学科の後輩も欲しいのです」

「審査魔法持ちが欲しいれすね。修がいなくなると審査魔法持ちいないれすから」

 それぞれ色々と思惑なりあるが、来てくれるかは運次第という感じだ。
 一応ジェニー率いる広報班に、HP等で宣伝はしてもらっているけれども。

「そう言えばロビーさん、もう日本に来ているんれすよね」

「3月に手続きに島に来て1回会ったです。色々やりたい事あって今東京にいます」

 留学生は4月になってから来ればいいようになっている筈だけれど、何かあるのだろうか。

「やりたい事って何ですか」

「わからないです。アンティコスティで出来なかった事らしいです」

「ロビーさんもカナダ出身なのですか」

「ロビーはアメリカのノースダコタです。田舎の農家で、小さい頃から耕運機とか解体して遊んでいたらしいです」

「それで魔法工学科なんだ」

「魔力はあまり無いです。向こうは機械系魔法使い少ないので、こっち来たいと前から言っていました」

 俺としては微妙に親近感がわく感じ。
 だが無理に学生会に巻き込むのも悪いしなあ。
 なのでこの辺は話半分で聞いていた。

 ◇◇◇

 今日はお仕事の日。
 学生会の仕事ではなく薊野魔法工業株式会社の仕事の方だ。
 要はバネ作業。
 俺と香緒里ちゃんとジェニーの3人で連れ立って、マンションを出る。

 のんびりと工房まで行く最中、高専の自転車置き場のところで、でかい外人がバイクを止めて何やら分解しようとしているのを見つけた。
 英語に自信が無いので、ジェニーに声をかけてもらう。

 ジェニーは俺には聞き取れない早口の英語で、でかい外人と二言三言話す。

「エンジンを調整したいそうれすが、ここだと屋根も無いし設備も無いので、どうしようか考えているそうれす」

「整備は自分で大丈夫なのかな」

 ジェニーは金髪角刈外人と再び会話する。

「大丈夫だそうれす。ある程度の工具も持っているそうれす」

 見ると何気にマックツールなんて使っている。
 確かにこんなの使うのは、わかっている奴だ。

「うちの工房を貸してやろう。バイク1台だし、場所的にも大丈夫だろ」

「修兄、大丈夫ですか」

「そんな工具を使っている奴に間違いは無いだろう。ジェニー、そう伝えてくれ」

 再びジェニーが通訳。
 伝わったらしい。にやりと笑って軽く頭を下げている。

「あと、日本語はゆっくり話せばわかるそうれす。話すのは少しだそうれす」

 だそうだ。少し安心。

 彼は工具を手早く仕舞って、青いバイクを押して歩き出した。
 バイクはヤマハのオフローダー。
 特区ナンバーの原付2種という事は、大きく見えるけれど125cc位なのだろう。

 押している本人も大きい。
 俺より身長が頭一つ分位大きいし、体型も筋肉質というかがっちりしている。
 髪型は金髪角刈りだが、目は優しそうな感じだ。

 日本語が通じるそうなので、少し話しかけてみる。

「いい工具使っているな」

「マックツール、わかるですか」

「もちろん、世界の名品だ。バイクに使うなら、スナップオンより薄い分いいな」

「そうです。でも日本はKTCもいいしコーケンも安くてグッドです」

 やっぱりこいつ、わかっている奴だ。

「本当はうちもマックツールで揃えたいんだけどさ、ここは島だからバンが来ない」

「それは悲しいです。バンが来なければマックやスナップオンの意味無いです」

「だろ、まあそんな高い工具、おいそれと買えないけどさ」

 工具談義をしながら工房へ向かう。

「何か修兄、すっかり意気投合しちゃっている」

「だって機械をバラすなら基本はハンドツールだろ」

「そうです。エアツール便利ですが基本はハンドです」

「そうそう。最初はハンドで自分の力でトルク見ないとな。あとバイクは狭い場所が多いから、薄めだけど力を入れ易いマックツールのスパナが使い易いんだ」

「そうですそうです。スナップオンは回す角度少しずつ出来ますが厚めで細い場所苦手です。でもラチェットはKABOす」

「そりゃラチェットはどこの買ってもいいのはKABOのOEMだしさ」

 まあこんな感じだ。

 そんな感じで工房に着いて、俺はシャッターを開ける。
 空いている場所に彼を案内して、ついでにツールキャビネットを持ってきておく。

「必要ならこれを使ってくれ。エアも使える」

「ありがとう。これ助かるです」

 彼はそう言って、続ける。

「いい作業場です。後で色々見たいです。面白いものが色々見えます」」

「ああ、あんたみたいな実践派なら大歓迎だ」

 ここで香緒里ちゃんから注意が入った。

「修兄、そろそろ始めますよ」

「はいはい」

 俺はバネ作業場の方へ向かいつつ、彼の様子を見る。
 もう工具の使い方やパッドの配置まで手慣れた感じだ。

 俺はそれを確認すると、バネ作業の準備を始めた。
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