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拾遺録5 端境期のオブリガート
8 妥協案
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知らなかった。そんな事があったなんて。
私はエールダリア教会からの勧告で、王族籍も貴族籍も外された。
身分的には平民となり、実際はフェルマ伯爵家預かりとなった。
公職や役職も全て外され、代わりに冒険者ギルドの中級管理職の職を与えられた。
その間、両陛下からは公的な発言以外、何も聞かなかった。
だから両陛下がそんな風に思っていたなんて、知らなかったのだ。
「だから自分から説明しろと、前から言っていたんだ。なのにカレンに会わす顔がないから顔出しできないとか言って、結局は何もしないで」
「わかっている。それは反省している。しかし実際、顔を出せないのはわかるだろう。仮にも国王なのに、自分の娘に対して何一つ出来ないなんてのは」
いや、よく考えたら陛下の責任だけではない。
「私も、悪いのです。サロンや夕食会等に顔を出さず、道場と自室を往復しているだけでしたから。私と話をしようとしても、機会がなかったのでしょう」
剣を極めれば、魔法を使用出来るようになったりはしないだろうか。
ナイケ教会の最上級の騎士、教会騎士となれたなら、その地位で王族として認めて貰えないだろうか。
そんな思いで道場に通い、剣に打ち込んだ。
いや、実際はただの逃避だったのかもしれない。
魔法を使えない自分という、現実からの。
結果、剣は免状を貰う程にはなったが、それでも魔法は身につかなかった。
そしてエールダリア教会の勧告とともに、王宮も、ナイケ教会の道場も去ることとなった。
そして無為のまま、今に至るわけだ。
「私が悪かったのです。魔法を使えない自分という現実から逃げるため、剣に逃げていたのですから」
「いや、私が悪かったのだ。結局何も伝えられないまま、カレンが去るままにしたのだから」
「私も何か出来た筈でした。アデリアからカレンの事は頼まれていたのに、自分の子ではないという遠慮で声をかける事が出来ずに……」
ゴホン、わざとらしい咳払いが響いた。
レグアス様だ。
「それくらいでいいだろう。お互いの意思はそれなりに伝わったと思うからな。それでも足りなければ、また次の機会を作るなり手紙を書くなりすればいい。
今此処で話すべきは、この後カレンがどうするかだ。王都ではカレンが生きにくいのは確かだろう。いない事となっているのは事実だからな。
かと言って、このまま東部や南部の知らない場所に行くというのも、アディやエラニア様には絶えられないだろう。私も、この場にいないナルサス殿もだ」
タウフェン公爵の名前が、また出てきた。
という事は、つまり……
「ナルサスとも話したのか」
陛下の言葉に、レグアス様は頷く。
「当然だ。ナルサス殿もこの場に来たがっていた。アディにエラニア様にナルサス殿まで動くとなると、それなりに面倒な事を考える奴も出るだろう。だから今回は控えていただいた」
私が勝手な事を考えて、後は時間に任せているうちに、レグアス様はそこまで動いていたのか。
何というか、申し訳ない気分になる。
というか、申し訳ないのはこの場の全員に対してだろう。
ただ、それでも、私にはまだ不安が残っている。
もしこの場で私が今後どうするか決まった場合、ミメイさんはどうすればいいのだろうか。
レグアス様の事だから、それ位は考慮に入れているだろうとは思うのだけれど。
「さて、私とナルサス殿が考えた案だ。カレンは東海岸、我がフェルマ領のローラッテに行って貰おうと思っている。ローラッテの冒険者ギルドへ、領主家連絡担当を兼ねたサブマスターとして、冒険者ギルドスティヴァレ本部から派遣という形だ」
フェルマ領について、私もある程度は知っている。
王都から東北東に70離程度。中央山地を越えた先、東海岸から15離程内陸に入った辺りだ。
この辺りの中央山地は峻厳で、道は通っていない。
なので南か北を大きく迂回する必要がある。
つまり東海岸側の田舎だから、大都市にしか拠点がないエールダリア教会の手は届かない。
「確かにフェルマ領なら安全だろう。しかし何故アコチェーノではなくローラッテなんだ」
領地はザムラナ山系を挟んで南側にアコチェーノという街、北側にローラッテという村があるという構成だ。
領主館があるのはアコチェーノの方。何故そちらではなく、村の方なのか。
陛下の疑問はもっともだろう。
「自立したいというカレンの意向と、領内の状況を考慮に入れた結果だ。ローラッテはアコチェーノと直線距離こそ近いが、行き来は結構面倒だ。間にザムラナ山系があるからな」
フェルマ領内のザムラナ山系は、結構険しい山だ。
馬車が通れる道はなく、歩きで越えた場合には、最短でも2日かかる。
山を避けて海側の他領を迂回すると、距離はおよそ30離。
海側から見るとアコチェーノもローラッテもそこそこ標高が高めなので、馬車だと1日ではぎりぎり無理だ。
「村といっても、ローラッテには鉄鉱山と製鉄所がある。だからいざという際の意思決定の為に、本来なら領主家の者をおいておきたい。だが現状は人不足で代官すら置いていない。最高職は村長までだ」
「つまり領主代理として派遣するという訳か」
「実際は冒険者ギルドの業務がほとんどだろう。いざという時に、領主家の一員という名を借りる位で」
陛下はふうっと溜め息をつく。
「王都にいて欲しいが、妥当なところか」
「王都は魑魅魍魎が多すぎる。フェルマ領ならやや遠いが安全だ。田舎だから街や村を外れれば魔物が出るが、カレンなら心配いらないだろう」
多分それだけではない。
ローラッテは山間の村で、鉱山もある。
山の整備や鉱山の関係等で、土属性の魔法使いの出番が多いだろう。
ミメイさんの仕事も、充分にある。
レグアス様はきっと、そこまで考慮に入れたのだろう。
そう思うと、本当に頭が下がる思いだ。
私はエールダリア教会からの勧告で、王族籍も貴族籍も外された。
身分的には平民となり、実際はフェルマ伯爵家預かりとなった。
公職や役職も全て外され、代わりに冒険者ギルドの中級管理職の職を与えられた。
その間、両陛下からは公的な発言以外、何も聞かなかった。
だから両陛下がそんな風に思っていたなんて、知らなかったのだ。
「だから自分から説明しろと、前から言っていたんだ。なのにカレンに会わす顔がないから顔出しできないとか言って、結局は何もしないで」
「わかっている。それは反省している。しかし実際、顔を出せないのはわかるだろう。仮にも国王なのに、自分の娘に対して何一つ出来ないなんてのは」
いや、よく考えたら陛下の責任だけではない。
「私も、悪いのです。サロンや夕食会等に顔を出さず、道場と自室を往復しているだけでしたから。私と話をしようとしても、機会がなかったのでしょう」
剣を極めれば、魔法を使用出来るようになったりはしないだろうか。
ナイケ教会の最上級の騎士、教会騎士となれたなら、その地位で王族として認めて貰えないだろうか。
そんな思いで道場に通い、剣に打ち込んだ。
いや、実際はただの逃避だったのかもしれない。
魔法を使えない自分という、現実からの。
結果、剣は免状を貰う程にはなったが、それでも魔法は身につかなかった。
そしてエールダリア教会の勧告とともに、王宮も、ナイケ教会の道場も去ることとなった。
そして無為のまま、今に至るわけだ。
「私が悪かったのです。魔法を使えない自分という現実から逃げるため、剣に逃げていたのですから」
「いや、私が悪かったのだ。結局何も伝えられないまま、カレンが去るままにしたのだから」
「私も何か出来た筈でした。アデリアからカレンの事は頼まれていたのに、自分の子ではないという遠慮で声をかける事が出来ずに……」
ゴホン、わざとらしい咳払いが響いた。
レグアス様だ。
「それくらいでいいだろう。お互いの意思はそれなりに伝わったと思うからな。それでも足りなければ、また次の機会を作るなり手紙を書くなりすればいい。
今此処で話すべきは、この後カレンがどうするかだ。王都ではカレンが生きにくいのは確かだろう。いない事となっているのは事実だからな。
かと言って、このまま東部や南部の知らない場所に行くというのも、アディやエラニア様には絶えられないだろう。私も、この場にいないナルサス殿もだ」
タウフェン公爵の名前が、また出てきた。
という事は、つまり……
「ナルサスとも話したのか」
陛下の言葉に、レグアス様は頷く。
「当然だ。ナルサス殿もこの場に来たがっていた。アディにエラニア様にナルサス殿まで動くとなると、それなりに面倒な事を考える奴も出るだろう。だから今回は控えていただいた」
私が勝手な事を考えて、後は時間に任せているうちに、レグアス様はそこまで動いていたのか。
何というか、申し訳ない気分になる。
というか、申し訳ないのはこの場の全員に対してだろう。
ただ、それでも、私にはまだ不安が残っている。
もしこの場で私が今後どうするか決まった場合、ミメイさんはどうすればいいのだろうか。
レグアス様の事だから、それ位は考慮に入れているだろうとは思うのだけれど。
「さて、私とナルサス殿が考えた案だ。カレンは東海岸、我がフェルマ領のローラッテに行って貰おうと思っている。ローラッテの冒険者ギルドへ、領主家連絡担当を兼ねたサブマスターとして、冒険者ギルドスティヴァレ本部から派遣という形だ」
フェルマ領について、私もある程度は知っている。
王都から東北東に70離程度。中央山地を越えた先、東海岸から15離程内陸に入った辺りだ。
この辺りの中央山地は峻厳で、道は通っていない。
なので南か北を大きく迂回する必要がある。
つまり東海岸側の田舎だから、大都市にしか拠点がないエールダリア教会の手は届かない。
「確かにフェルマ領なら安全だろう。しかし何故アコチェーノではなくローラッテなんだ」
領地はザムラナ山系を挟んで南側にアコチェーノという街、北側にローラッテという村があるという構成だ。
領主館があるのはアコチェーノの方。何故そちらではなく、村の方なのか。
陛下の疑問はもっともだろう。
「自立したいというカレンの意向と、領内の状況を考慮に入れた結果だ。ローラッテはアコチェーノと直線距離こそ近いが、行き来は結構面倒だ。間にザムラナ山系があるからな」
フェルマ領内のザムラナ山系は、結構険しい山だ。
馬車が通れる道はなく、歩きで越えた場合には、最短でも2日かかる。
山を避けて海側の他領を迂回すると、距離はおよそ30離。
海側から見るとアコチェーノもローラッテもそこそこ標高が高めなので、馬車だと1日ではぎりぎり無理だ。
「村といっても、ローラッテには鉄鉱山と製鉄所がある。だからいざという際の意思決定の為に、本来なら領主家の者をおいておきたい。だが現状は人不足で代官すら置いていない。最高職は村長までだ」
「つまり領主代理として派遣するという訳か」
「実際は冒険者ギルドの業務がほとんどだろう。いざという時に、領主家の一員という名を借りる位で」
陛下はふうっと溜め息をつく。
「王都にいて欲しいが、妥当なところか」
「王都は魑魅魍魎が多すぎる。フェルマ領ならやや遠いが安全だ。田舎だから街や村を外れれば魔物が出るが、カレンなら心配いらないだろう」
多分それだけではない。
ローラッテは山間の村で、鉱山もある。
山の整備や鉱山の関係等で、土属性の魔法使いの出番が多いだろう。
ミメイさんの仕事も、充分にある。
レグアス様はきっと、そこまで考慮に入れたのだろう。
そう思うと、本当に頭が下がる思いだ。
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