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拾遺録4 帰りたい場所

17 筋書き通り(教会騎士エルディッヒ/エミル記者視点)

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 爆発か。
 とっさに身構えつつ、魔力反応が起きた場所を注視する。
 
 何も起こらない。
 確かに今、魔力が膨れ上がった筈だ。
 爆発の前兆といった感じで。
 魔法が得意ではない僕でも、それ位はわかる。

「心配しなくても大丈夫です」

 意外な言葉が聞こえた。
 声が届く距離にいるのは一人しかいない。
 ナイケの審判で対戦中の相手、リディナさんだ。

「どういう事ですか」

「この場で起こるテロを防ぐため、私より強い仲間が待機しています。少なくともこの会場と周囲では、そういった事は一切起こさせません」

 リディナさんより強い仲間か。僕には想像が出来ない。
 ついでに言うと、発動しかけた筈の魔法をどうやって無効化したのかも、僕にはわからない。
 これでも魔法についてはそれなりに知っているつもりだったのだけれども。

 それでも追及するのは、今の僕の仕事じゃない。
 僕がやるべきなのは、このナイケ神の審判で、最善を尽くす事。
 たとえ代理する意見に、僕自身が賛同出来なくとも。

「わかりました。待っていただいて、ありがとうございました」

 間違いなく僕には隙が出来ていたはずだ。
 今の何かが起こりかけた件に気を取られて。
 リディナさんはそこを攻撃せず、待っていてくれたのだ。
 
 彼女の目的は何だろう。
 ただ僕に勝つことだけでは無さそうだ。
 勝とうと思えば、もう勝負がついてしまっている筈だから。

 傍目には互角の攻防を繰り広げている様に見えるかもしれない。
 しかしそれは、リディナさんが僕のレベルにあわせているからだ。
 僕がついていける、ぎりぎりのレベルに。

 何の意図があって、そうしているのかはわからない。
 それでも僕が出来るのは、ついていく事だけだ。
 だから僕は、剣を構える。
 
 リディナさんが頷いて、次の瞬間姿を消した。
 目では全く見えないし、音も聞こえない。

 だからと言ってこの場から逃げるのは愚策だ。
 リディナさんなら、その気になればこの広場の何処にだって一瞬で移動出来る。
 逃げ場なんてものはない。

 だから僕は動かない。
 代わりに全身の意識を研ぎ澄まし、周囲に変化がないかを探る。

『それだけ鍛えていれば、目に見えない気配にも気づける筈だ。ルディにはその力がある。自分を信じろ。意識を研ぎ澄ませ』

 特訓で、カイルはそう言っていた。
 出来るよう何度も練習した。
 それが通じることを信じて。

 チリチリと右後ろに何かを感じだ。咄嗟に右足の蹴りで前進しつつ右へ反転し、剣を振り下ろす。
 リディナさんが僕の剣の僅かに右に出現。剣の軌道を腕力で真横へと変えるが、すっと後退して避けられた。

 追撃は出来ない。いかなる方向であれ隙が出来た場合、反撃に対応出来ないから。
 僕が出来るのは待ち受ける事。全身を研ぎ澄ませる事。自分の感覚を信じる事。

 リディナさんは頷いて、そして再び姿を消した。
 今度は正面、僕は全力で右へ飛びつつ身体を左に向ける。

 一瞬前まで僕がいた場所に剣が振り下ろされた。しかし剣とは違う、反対側に何かを感じる。

 膝を曲げ、全力で前へと逃げた。直後、振り下ろされていた剣が姿を消し、僕がさっきいた位置を右から横薙ぎに通り過ぎた。

 しかしまだ終わりではない。また正面だ。出した右足で地を蹴り左へ。剣を振り上げ前方に間合いを作る。
 
 攻撃は次第に早く、鋭くなっていく。
 しかしまだだ。まだ俺にも見えるし分かる。
 だから俺は全力で捌き、避け、そして隙を伺う。

 大丈夫、この程度まではカイルとの特訓で体験済みだ。
 まだ僕は追うことが出来る。
 
 何かが見えかけている気がする。
 それがカイルが言っていた、この先にあるものなのだろうか。

 ◇◇◇

 リディナ氏の姿は、もはやほとんど見えない。
 攻撃をしかけた時に、ちらりと姿を現す程度だ。

 移動が全く見えない。
 エルディッヒの右にいたと思えば次の瞬間、左から攻撃していたりする。

 それでもエルデイッヒは戦い続けている。
 直前まで見えない攻撃をそれでも避け、なおかつ見えかけたリディナ氏に攻撃を仕掛けたりもしている。

「エルデイッヒは、どうやってあの攻撃を避けているんだ」

 僕には理解不能だが、冒険者だったカーチスにならわかるのだろうか。

「わからない。少なくとも俺には不可能だ」

 カーチスにもわからないようだ。
 ならわからないついでに、こちらも聞いてみよう。

「あと、何回か起きている爆発っぽい魔力は何だったのだろう。結局何も起こらないように見えるけれど」

「発動しかけた魔法を消去出来る魔法使いが、ここに来ているんだろう。そこで信じられないような試合をしている2人より更に上の、とんでもない化物が」

 ちょっと待って欲しい。

「発動しかけた魔法を消去なんて、出来るのか?」

「俺の知識には無い。しかし、そうとしか考えられない。どれも間違いなく攻撃魔法だった。最初は火属性の爆発系、次は風属性、次は水属性の」

 カーチス、流石元騎士団で冒険者だ。
 あの時に発動しかけた魔法の種類までわかっていた模様。
 しかしどうやって消去したかは、彼をもってしてもわからなかったらしい。

「この審判がテロで邪魔されないよう、手を打ってあったという事だろう。俺達の常識では理解出来ない、とんでもないレベルで」

 カーチスは先程魔力反応があった場所をちらりと見た後、再び審判中の2人の方を見る。

「この審判を見ている連中の中でも、気づくのはほんの僅かだろう。戦っているエルデイッヒ自身と、あとは上級騎士数人、レベル七以上の魔法が使える貴族数人。どれだけとんでもない化物がいたのかわからないまま、この審判はおそらく、筋書き通りに終わる」

「筋書き通りだって!?」

 カーチスは頷いた。

「ああ。あそこで戦っているリディナ氏を含む、何人かが描いた筋書きの通りにな。もし俺の勘があっているなら、もうすぐ決着がつく」
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