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拾遺録4 帰りたい場所
14 審判開始前に(ラツィオ新報 エミル記者視点)
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まず入場してきたのはリディナ氏だ。
会議の時とは異なり、いかにも冒険者という感じの装備を身につけている。
特に変わった形の装備はない。
身につけている革鎧は、よくあるものと同じようなデザインだ。
武器はまだ手にしていない。
ただだからといって、武器なしで戦うとは思えない。
鎧の腰に幾つかついているポーチ状のもの、あれがおそらく自在袋なのだろう。
おそらくはそこに、武器を収納している。
あの大きさの自在袋なら、そこまで大きな武器は入らないだろう。
となると片手剣か、細槍か。
さて、僕はそんな判断をしたが、カーチスはどう判断しただろう。
念の為確認しておこう。
「カーチス、リディナ氏の装備をどう思う?」
「わからない奴は、その辺によくある装備と判断するだろう。わかる奴は、ヤバさに気づいて何も言えなくなる」
言いたいことはわかるが、もう少し丁寧に解説して欲しい。
「何処がどうヤバいんだ。初心者でもわかるように教えてくれ」
「例えば素材がまるで違う。普通の革鎧はオーク革あたりだが、あれはトロル系。それもただのトロルじゃない。アークトロルか何か、トロルの上位種だ」
なるほど。確かにトロルは強力だし、滅多に出ないまものだ。
しかし……
「革がトロルというだけで、そんなに性能が違うのか?」
「大違いだ。トロルの革なら、下手な鉄板よりよっぽど頑丈だ。騎士団の上級騎士用のプレートメイルより防御性能は上だろうな。重さはその半分以下で。
あと、あのポーチがついた鎧、見覚えがないか。有名な奴が使っていた筈だ」
そう言われて、そして僕は気づいた。
「アコルタ子爵か」
アコルタ子爵は演舞や模擬試合の時、使い慣れているという名目で革鎧を着装している事が多い。
そして、そう言われて見れば、確かに似ている気がする。
シルエットこそ男性用と女性用という事で少し異なる。
しかし腰部分にポーチがある所などはそのまま同じだ。
それ以外に、金具で所々強化されているあたりも……
そう言えばアコルタ子爵が言っていた。
『使用している装備一式は、勉強会の卒業記念にいただいたものです』
ならば同じタイプの装備であっても不思議ではない。
制作者が同じという可能性すら、充分に考えられる。
そして反対側にも2人、姿を現した。
アシャプール侯爵、そしてナイケ教会の教会騎士エルデイッヒ・オコーナーだ。
やはり教会騎士を代理人としたようだ。
リディナ氏はA級冒険者であるアコルタ子爵以上の力を持っている可能性がある。
ならばナイケ教会側としては、教団騎士くらいしか出せる戦力がないだろう。
しかしそうなると、リディナ氏の方が不利になる。
リディナ氏は『現役の冒険者で魔法使い』と言っていた。
そして教会騎士エルディッヒは、攻撃魔法が一切無効という能力を持っている。
攻撃魔法が無効という条件ならば、剣士と魔法使いでは、どう考えても剣士の方が有利だろう。
その辺をカーチスに尋ねようと思ったところで、アシャプール侯爵がこちら側、観客席正面を向いた。
審判前の口上が始まるようだ。
僕はペンをとって、注視する。
「私は国を支える侯爵であるとともに、貴族院教育担当部会長として国の教育を支えるマルート・ナット・アシャプールである。この度のリディナ氏の協議会での讒言は、国の教育行政を預かる貴族院教育担当部会長として、看過する事が出来ないものである。そこで同じく教育への志を持つナイケ教会より、教会騎士エルディッヒを代理人として推薦していただいた。故に我、マルート・ナット・アシャプールは、王国法第57条第5項、及びパルラス書第二章第七節に基づき、教会騎士エルディッヒ・オコーナーを代理人とすることをここで宣言する」
貴賓席にいる見届け人、パナヴィア・トルネイダ首席監察官に向け、そう宣言する。
ここまで声が届いているのは、進行を担当している国王庁の職員が魔法で飛ばしているからだろう。
ついでリディナ氏がこちらを向き、一礼する。
「第57条についてはアシャプール卿が言及されたので、私はナイケの審判としての題目をはっきりさせましょう。審判する題目は、『学校教育に、ナイケ教会の教義及び指導の必要がある、ない』です。アシャプール卿が『必要がある』、私が『ない』の立場で、あくまで個人としての意見をナイケ神の審判に委ねる形となります。
なおアシャプール卿による代理人の宣言、了承致しました。それでは代理人である教会騎士エルディッヒ・オコーナー氏に、代理人としての宣誓をしていただき、王国法第57条及びナイケ教会パルラス書第二章第七節に基づく手続きは終了とさせていただきましょう」
ついで教会騎士エルディッヒが一礼する。
「教会騎士エルディッヒ・オコーナは、王国法第57条及びナイケ教会正聖書パルラス書に基づき、マルート・ナット・アシャプールの代理人をする事をここに宣言します」
最近は見る事がなくなった手続きを、形式通りに行った後。
アシャプール侯爵が貴賓席の方へと去って行く。
リディナ氏と教会騎士エルディッヒが対面して、それぞれの武器を取り出した。
会議の時とは異なり、いかにも冒険者という感じの装備を身につけている。
特に変わった形の装備はない。
身につけている革鎧は、よくあるものと同じようなデザインだ。
武器はまだ手にしていない。
ただだからといって、武器なしで戦うとは思えない。
鎧の腰に幾つかついているポーチ状のもの、あれがおそらく自在袋なのだろう。
おそらくはそこに、武器を収納している。
あの大きさの自在袋なら、そこまで大きな武器は入らないだろう。
となると片手剣か、細槍か。
さて、僕はそんな判断をしたが、カーチスはどう判断しただろう。
念の為確認しておこう。
「カーチス、リディナ氏の装備をどう思う?」
「わからない奴は、その辺によくある装備と判断するだろう。わかる奴は、ヤバさに気づいて何も言えなくなる」
言いたいことはわかるが、もう少し丁寧に解説して欲しい。
「何処がどうヤバいんだ。初心者でもわかるように教えてくれ」
「例えば素材がまるで違う。普通の革鎧はオーク革あたりだが、あれはトロル系。それもただのトロルじゃない。アークトロルか何か、トロルの上位種だ」
なるほど。確かにトロルは強力だし、滅多に出ないまものだ。
しかし……
「革がトロルというだけで、そんなに性能が違うのか?」
「大違いだ。トロルの革なら、下手な鉄板よりよっぽど頑丈だ。騎士団の上級騎士用のプレートメイルより防御性能は上だろうな。重さはその半分以下で。
あと、あのポーチがついた鎧、見覚えがないか。有名な奴が使っていた筈だ」
そう言われて、そして僕は気づいた。
「アコルタ子爵か」
アコルタ子爵は演舞や模擬試合の時、使い慣れているという名目で革鎧を着装している事が多い。
そして、そう言われて見れば、確かに似ている気がする。
シルエットこそ男性用と女性用という事で少し異なる。
しかし腰部分にポーチがある所などはそのまま同じだ。
それ以外に、金具で所々強化されているあたりも……
そう言えばアコルタ子爵が言っていた。
『使用している装備一式は、勉強会の卒業記念にいただいたものです』
ならば同じタイプの装備であっても不思議ではない。
制作者が同じという可能性すら、充分に考えられる。
そして反対側にも2人、姿を現した。
アシャプール侯爵、そしてナイケ教会の教会騎士エルデイッヒ・オコーナーだ。
やはり教会騎士を代理人としたようだ。
リディナ氏はA級冒険者であるアコルタ子爵以上の力を持っている可能性がある。
ならばナイケ教会側としては、教団騎士くらいしか出せる戦力がないだろう。
しかしそうなると、リディナ氏の方が不利になる。
リディナ氏は『現役の冒険者で魔法使い』と言っていた。
そして教会騎士エルディッヒは、攻撃魔法が一切無効という能力を持っている。
攻撃魔法が無効という条件ならば、剣士と魔法使いでは、どう考えても剣士の方が有利だろう。
その辺をカーチスに尋ねようと思ったところで、アシャプール侯爵がこちら側、観客席正面を向いた。
審判前の口上が始まるようだ。
僕はペンをとって、注視する。
「私は国を支える侯爵であるとともに、貴族院教育担当部会長として国の教育を支えるマルート・ナット・アシャプールである。この度のリディナ氏の協議会での讒言は、国の教育行政を預かる貴族院教育担当部会長として、看過する事が出来ないものである。そこで同じく教育への志を持つナイケ教会より、教会騎士エルディッヒを代理人として推薦していただいた。故に我、マルート・ナット・アシャプールは、王国法第57条第5項、及びパルラス書第二章第七節に基づき、教会騎士エルディッヒ・オコーナーを代理人とすることをここで宣言する」
貴賓席にいる見届け人、パナヴィア・トルネイダ首席監察官に向け、そう宣言する。
ここまで声が届いているのは、進行を担当している国王庁の職員が魔法で飛ばしているからだろう。
ついでリディナ氏がこちらを向き、一礼する。
「第57条についてはアシャプール卿が言及されたので、私はナイケの審判としての題目をはっきりさせましょう。審判する題目は、『学校教育に、ナイケ教会の教義及び指導の必要がある、ない』です。アシャプール卿が『必要がある』、私が『ない』の立場で、あくまで個人としての意見をナイケ神の審判に委ねる形となります。
なおアシャプール卿による代理人の宣言、了承致しました。それでは代理人である教会騎士エルディッヒ・オコーナー氏に、代理人としての宣誓をしていただき、王国法第57条及びナイケ教会パルラス書第二章第七節に基づく手続きは終了とさせていただきましょう」
ついで教会騎士エルディッヒが一礼する。
「教会騎士エルディッヒ・オコーナは、王国法第57条及びナイケ教会正聖書パルラス書に基づき、マルート・ナット・アシャプールの代理人をする事をここに宣言します」
最近は見る事がなくなった手続きを、形式通りに行った後。
アシャプール侯爵が貴賓席の方へと去って行く。
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