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拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意 エピローグ 俺とレウスの決意

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 なぜ竜種ドラゴン迷宮ダンジョン中央でなく奥にいたのか。
 フミノ先生とアルベルト氏の会話でおおよその理由を知ることが出来た。

「私が来た時にはあの竜種ドラゴンの位置にいたのは混ざり物キメラでした。2番目に強い魔物が最奥にいるのはよくある事です」

「それではその混ざり物キメラ竜種ドラゴンに変化したという事でしょうか?」

 アルベルト氏の言葉で俺は思い出す。
 そういえば最初、奥にいたのは不定形で魔力も安定していない不明な魔物だったのだ。
 少なくとも魔法偵察隊の報告ではそうだった。
 
「ええ。リントヴルムの討伐とほぼ同時に混ざり物キメラの姿が不定形になり、魔力が増大しました。おそらくリントヴルムが討伐された結果、何らかの迷宮ダンジョンの力を受けて竜種ドラゴンへと進化したのでしょう』

「なるほど。ならシンプローンの迷宮ダンジョンの時も、先に竜種ドラゴンを倒した場合、奥のコボルトキングが進化したかもしれないですね」

「その可能性は充分あると思います……」

 更にそこから半時間くらい話をして、そしてフミノ先生は帰っていった。

「今からなら今日中には帰れると思いますから」

 そんな事を言って。
 そしてアルベルト氏も挨拶をして、俺達のゴーレム車を後にした。

「これから報告書を書いて提出しなければなりませんからね。部隊の解散指揮や帰隊の手配もする必要がありますから」

 こんな感じで俺達のこの迷宮ダンジョンでの依頼は終わりを告げた訳だ。 

 ◇◇◇

 翌日、拠点を片付け、アルベルト氏や部隊の皆さんに挨拶。
 そして俺達はゴーレム車に乗り、まずはスーザの街の冒険者ギルドへ。

 アルベルト氏が既に報告書を提出してくれていたようで、依頼達成はすんなり認められた。
 ただ竜種ドラゴンについてはギルドから俺達には何も言ってこなかった。
 俺達というかヒューマも何も言わなかった。
 どうやらアルベルト氏経由で冒険者ギルドに話が通っているらしい。
 今回の竜種ドラゴンの件は表に出さないと。

 きっとそれもフミノ先生という論外な存在を公にしない為だろう。
 少なくとも俺はそう思っている。

 なおリントヴルム討伐や倒した魔物の分を含む褒賞金は無事全額いただいた。
 何というか、1人ずつに割っても、現実味が無い額だった。

「働かなくても2年は美味しいものが食べられるんだな」

「たった2年でこの金額を食い潰すのは無理だよ、レズンさん。どれだけいい物食べまくる気ですか」

王都ラツィオのいい宿に泊まりこんで、毎食いいレストランに通えば1年で食い潰せると思いますよ」

「ヒューマさんも……どれだけ……」

 以上のレズン、レウス、ヒューマの会話で金額を想像して欲しい。

 ただ冒険者ギルドで受けた報酬はそれだけではなかった。
 なんと俺達全員、B級冒険者に認定されてしまったのだ。

「今まで討伐実績のないリントヴルムを倒したのだ。なら実力は充分以上だろう。第四騎士団からの推薦状もある。
 それに以前、サレルモでも新規迷宮ダンジョンの攻略に成功したという記録があった。
 なら実力も実績もB級冒険者として充分以上だろう」

 以上、スーザのギルドマスターであるシグル氏の説明だ。
 これで俺達は事実上、この国では一流冒険者という事になってしまった。
 登録してまだ1年経っていないのに。

「でもまあ当然ですかね。確かにシグル氏の言う通り、実績は文句ないでしょうから」

「でも魔物討伐の褒賞金は変わらないんだな」

「確かに普通の依頼ならC級と同額だよな。指名依頼を受けた時くらいか、褒賞金額が違うのは」

「アギラの言う通りですね。B級指定の依頼なんてそうあるものでは無いですから」

 皆の受け取り方はこんな感じだ。
 勿論これはギルド内ではなく、冒険者ギルドを出た後にゴーレム車内でした会話。

 ゴーレム車はそのままスーザの街を出て、その日はずっと移動し続け、王都ラツィオ手前まで移動して野宿。
 そして今朝、王都ラツィオで買い物をした後、カラバーラへと向かった。

 買い物の内容は親だの近所の人だの先生や勉強会の連中への土産。
 結構買い込んでしまったけれど、お金は思い切り余裕があるし、魔物を出した後の自在袋は収納力十分。

「村も変わっているのかなあ」

「そこまで変わっていないと思いますよ。まだ1年経っていませんから」

「それもそうなんだな」

 そんな話をしながらゴーレム車は南へ。
 
 なお俺とレウス、そしてサリアは雑談に加わっていない。
 サリアはまあ、いつもの事だ。
 ゴーレム車内では大抵、本を読んでいるから。

 俺とレウスはサリアとは違う理由。
 空属性魔法の訓練をしているからだ。
 拠点を出たときからゴーレム車で移動中、ずっと。

 俺は現在使用可能な唯一の空属性魔法、監視魔法をできる限り使用し続けている。
 苦手な空属性魔法なので、どうしても集中しないと使い続けられない。

 レウスは偵察魔法を常時起動中。
 視点の数を限界の3つまで出して、周囲を確認していると言っていた。
 そんな状態なのでやっぱり魔法に集中して、会話に加われない。

 何故訓練をしているのか。
 それは一昨日、レウスと俺とでこんなやりとりがあったのだ。

 ◇◇◇

 フミノ先生やアルベルト氏が帰って、更に皆が一服した時。
 俺はつい、レウスにこんな話を振ってしまったのだ。

「結局俺達、ほとんど活躍出来なかったよな。それに何が起きているかも報告を聞いているだけだったしさ」

「そうそう。それにリントヴルムも結局、姉さんが作った連弩で十分だったみたいだし」

 レウスも俺と同じように感じていた模様だ。

「だいたい最後は結局フミノ先生無双だったしな」

「そうだよね」

 俺達2人は同時に深い溜息をつく。

「姉さんはかなり活躍してたよね。迷宮ダンジョン内を調査したりリントヴルムを監視したり」

「だよな。俺達もサリアやヒューマくらいには偵察魔法が使えるようにならないと駄目かもしれない」

「空即斬も使えるようにしないと。なら空属性をレベル4以上に上げないと駄目か」

 確かにレウスの言う通りだなと俺も思う。
 ならばやるべき事は明確だ。

「とにかく監視魔法を使ってレベルを上げないとな。レウスは空属性のレベルが3あるけれど、俺はまだ1だしさ」

「僕も偵察魔法を限界まで起動してレベル上げをしないと。これじゃ出番がないまま冒険者引退なんて事になりかねないし」

 何だその悲しい想像は。

「やめてくれ、洒落にならない」

 しかしこのパーティにいるなら、今のままでは……
 事実、俺は出番がないままB級冒険者になってしまったし。
 これだとこの先も……

「そうですね。やめましょう、悲しい想像は」

 きっとレウスも想像出来てしまったのだと思う。
 俺と同じように。 

 ◇◇◇

 そんな訳で以降、俺たちは空属性を鍛えている。
 ただ俺は空属性が苦手だ。
 だから無茶苦茶疲れる。

 ただ、無理な訓練ではない筈だ。
 実際、ゴーレム車で移動中にヒューマの奴は、
  ○ 周辺一帯を偵察魔法の視点2つで確認して
  ○ 空即斬で魔物や魔獣を倒す
なんて事をやっている。
 アギラやレズンと馬鹿話をしながら。

 サリアに至っては本を読みながら、
  ○ ゴーレム車を牽くグラニーを操作しつつ
  ○ 周辺一帯をやはり偵察魔法の視点2つで監視して
  ○ ヒューマが倒した魔獣をマグナス等のTシリーズゴーレムで回収しながら
  ○ 適宜高速移動魔法を起動して、馬車を高速移動させる
という状態だ。
 それでも疲れた様子は全く見え無い。

 一方、俺はゴーレム車の座席に座り、偵察魔法よりずっと簡単な筈の監視魔法で周囲を見ているだけ。
 ヒューマやサリアに比べるとずっと簡単な筈なのだ。
 それでも2時間もすればくたくただけれども。

 俺の真向かいに座っているレウスの方を見る。
 どうやら奴も苦労しているようだ。
 表情に疲れが見える。

「レウス、大丈夫ですか? もし何なら睡眠魔法をかけますから横になった方がいいです」

「いや魔法の訓練をしているだけだから」

「無理はしない方がいいと思います」

「いや、訓練だからさ。だから大丈夫だから!」

 レウスも大変だな、そう思いつつ俺は監視魔法に集中する。
 何とかして空属性をレベル4以上にしなければ。
 そうしないと活躍の機会がないまま冒険者人生が終わってしまいかねない。

 何せ活躍の機会が無いまま、B級冒険者にまでなってしまったのだ。
 二度ある事は……いや、あってはならない。

 そうだ、今度卒業する4人にも言っておこう。
 偵察魔法と空即斬は絶対使えるようになっておけよと。

 でもまず今は俺自身。
 頭が疲れきっているけれど、それでも俺は必死に偵察魔法に集中し続ける……

◇◇◇ カイル君の冒険者な日々 ひとまず終わり ◇◇◇
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