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拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意⒁ 竜種討伐者(ドラゴン・スレイヤー)

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 なるほど、国の守護たる騎士団として、アルベルト氏の言っている事は正しいし納得できる。
 それに百卒長という立場なのに、一介の新米冒険者パーティに対しここまで誠実に回答してくれた事は評価していい。
 評価していいなんて言い方は上から目線で失礼なのだろうけれど。

「仮定の話にも関わらず、真摯に答えていただいてありがとうございます」

 ヒューマも俺と同意見の様だ。

「いえ。むしろお恥ずかしい話です。断固として討伐する、そう言い切れる実力が無いというだけの話ですから。
 それと今の仮定の話はお互い、ここだけの話という事にしましょう。他に聞きつけられて面倒な事になったら大変ですから」

 これはきっと俺達の事を考えた上での発言だ。
 今の話を公開されても第四騎士団としては問題ない。
 あくまで仮定の話で、その仮定は俺達側のヒューマから振ったのだから。

 一方、振った方の俺達パーティはゴーレムを複数体運用している。
 だから今の仮定の話が広まると、『実際にはそういった事が出来るのではないか』という疑いを持たれかねない。
 疑いというか、実際に出来るだけの戦力を持っているのだけれども。

 そうなった場合、更なる疑いがかかるおそれがある訳だ。
 ただ監視だけしていた場合、迷宮ダンジョンを攻略可能だった筈なのに、自分達の利益の為に攻略しなかったとか。
 逆にリントヴルムを倒そうとして失敗した場合、わざと倒さなかったとか。

 つまり今のヒューマとアルベルト氏のやりとりは、こういう意味だったのだろう。

『こちらにはこういう方法でリントヴルムと戦う用意があるけれど、どうだろうか?』

『確実に倒せる場合で無ければ手を出さないほうがいい。こちらも今の話は聞かなかったことにする』

 こんな感じで。

 もちろんヒューマはアルベルト氏を信用できると判断した上で、話を投げたのに違いない。
 昨日外出した際に、調査に来訪しそうな魔法偵察部隊隊員について調べたなんて可能性もある。
 ヒューマならそれくらいやりかねない。

「リントヴルム級の魔物は王国騎士団であっても未だ討伐に成功していません。此処以外でも魔物狩りをして迷宮ダンジョンの力を弱め、魔物の弱体化をはかる方法が取られています。
ただ……」

 ただ、何なのだろう。
 アルベルトさんは少しためらうかのように言葉を少し止めた後、続きを口にする。

「ここからの話は一般には知らされていません。ですがもし貴方方があのリントヴルムを倒すべきだ、そんな義務感を感じているならば。
 おそらくは大丈夫だろう、そうわかって貰う為にお話いたしましょう」

 そんな意味ありげな前置きの後、軽く一呼吸して、そしてアルベルトさんは話し始める。 

「実は国内にもあのリントヴルムを倒せる方はいます。王国騎士団の者ではなく、一介の冒険者ですけれど。
 
 実は数年前、国内のある迷宮ダンジョン竜種ドラゴンが出現したのです。ただその竜種ドラゴンがスティヴァレを襲う事はありませんでした。ある冒険者が1人で倒してしまいましたから」

 竜種ドラゴンを1人で倒した?
 聞き違いではないよな。
 アルベルトさんの話は続く。

「これは一般には知られていませんが事実です。私自身がゴーレム経由の偵察魔法で、竜種ドラゴンが倒されたところを確認しましたから。

 ただその冒険者は自分が目立つ事を望みませんでした。ですから冒険者ギルドにその旨を報告する事もなく、迷宮ダンジョンを去ったのです。

 ですから知っている人は限られています。報告を上げた私と当時の騎士団の大幹部、そして国のごく一部の上層部だけです。

 その冒険者ならおそらく今回のリントヴルムでも問題なく倒すことが出来るのでしょう。ただ正直なところ頼るのは非常に申し訳ないのです。目立つ事を望まず、表舞台に出る事を避けている方ですから。

 ただ本当に危機がやってきた時は、きっと何とかしてくれるのだろう。私はそう思っています。

 ですからまあ、今回のリントヴルムの件について、貴方方が全てを背負う必要はありません。王国騎士団の一員である私がこんな事を言うのはおかしいのかもしれませんけれど」

 そんな化物みたいな冒険者がこの国にいるのか。 
 何と言うか、世の中、上を見るととんでもない。
 ただ何となく何か、思い当たる事があるようなないような……
 そう俺が思っていた時だった。

「アルベルトさん、失礼ですがかつて第六騎士団でシンプローン迷宮ダンジョンにいらっしゃった事がありますでしょうか。偵察魔法小隊の小隊長で」

 サリアが突然、よくわからない事を尋ねる。
 アルベルト氏は一瞬だけ表情を変えかけたが、すぐ先程までのごく柔和な表情に戻って口を開いた。

「ええ、その通りです。ひょっとしてこのパーティは南の方からいらっしゃったのでしょうか」

 どういう意味だろう。
 確かにカラバーラは南の方には違いないけれど。
 俺は何もわからないまま、サリアとアルベルト氏のやりとりを注視する。

「ええ。フミノさんから話は伺っています。あの時は大変世話になったと。おかげで余計な事を気にせず、気持ちよく討伐に集中できたと」

 どういう事だ、今のサリアの言葉は。
 フミノ先生とアルベルトさんとの間に接点があったと聞こえるのだけれど。
 そして今の話の流れは、もしかしたら、まさか……

「なるほど、このパーティはフミノさんの関係者なのですか。それなら納得です。ゴーレムを多数運用している事も、全員が強力な魔法使いである事も」

 今の言葉で俺にはわかった。
 アルベルト氏がフミノ先生の事を良く知っている事を。
 ゴーレムを多数運用する強力な魔法使い。
 まさにフミノ先生そのものだ。

「私達は全員、フミノ先生達の教え子です。10ヶ月ほど前に冒険者になる事を認めて頂いて、ゴーレム車とゴーレム、装備を譲り受けてこうして旅をしています」

「なるほど。それならリントヴルムの討伐もそれなりに勝算があって仰ったのでしょう。
 もしよろしければ、作戦を伺ってもよろしいでしょうか。勿論強制ではありませんし、伺った作戦についても当座は何処にも報告しません」

 サリアは頷く。

「わかりました。でもその前に、うちのパーティの方にも説明をさせて下さい。フミノさんが竜種ドラゴンを討伐した件については、この中では私しか知らない話ですから」

 確かにフミノ先生が竜種ドラゴンを討伐したなんて話は初耳だ。

 しかし実は今の会話の途中から、何となくそんな予感はしていたのだ。
 竜種ドラゴンを単独で相手にするような化物級の魔法使いなんて、そうはいないだろうから。
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