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拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の憂鬱(下) 

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 迷宮ダンジョンを攻略した2日後。
 俺達はゴーレム車でサレルモの街を出た。

「たった2日で小金貨20枚200万円儲かったんだな」

「ああ、いい商売だ全く」

 今回の魔物討伐と指名依頼で出た褒賞金は小金貨20枚200万円ちょい。
 1人あたりにしても2日で正銀貨33枚33万円、1日あたり正銀貨16枚と小銀貨5枚16万5千円
 一般的な労働者の日給の15倍以上だ。

 しかも実質労働時間は夜中の2時間と、迷宮ダンジョン内にいた5時間程度。
 つまり労働時間は1日分に満たない。
 そう考えると余計に割りがいいと感じる。

 しかしヒューマの意見は違うようだ。

「いえ、安すぎます。僕達がいなかったと仮定した際の損害を考えたら倍以上は貰ってもいいと思うんですよ。

 街の中心に迷宮ダンジョンが出来たのですから、普通は死人が何十人と出てもおかしくないですよね。その後も迷宮ダンジョン出口の警備だけで1日正金貨1枚50万円以上は経費がかかる筈です。

 更に街の中心部と付近の市場を閉鎖し、代替市場を作るとなるとそれこそ正金貨が20枚1千万円単位でお金が飛んでいくんです。

 それを考えたら正金貨20枚1千万円だって安いと思うんですよ。違いますか」

 なるほど、そういう風に考えるとむしろ安いのか。
 俺には思いつかない考え方だ。

「でもまあ、いいんじゃないか。活動資金も増えたし迷宮ダンジョン攻略者の称号もついたしさ。冒険者になって2ヶ月の新人としては順調だろ」

 レウスの言うとおりなのだろう。
 総論としては。

「とりあえずネイプルに行ったら美味しい物を食べるんだな」

「広い部屋を取って少しゆっくりしたいです。ゴーレムのマグナスを修理しなければなりませんから。上半身右側の外板はほぼ作り直しです。
 あと私ももう少し訓練が必要なようです。あの一撃で決められたらカイルさんに危険な突進をさせなくても済んだ筈ですから」

 マグナスとはあの魔物に突進して槍を突き立てたゴーレムの個体名らしい。
 確かにあの一撃で決まればそれで終わりだった。
 しかし個人的にはサリアの今の言葉、異論が無いわけではない。

「少しは俺やレウスが働く分も残しておいてくれ、頼むからさ」

「そうだよ。放っておくと姉さんとヒューマさん2人で全部終わらせちゃうんだから!」

 この2人は空属性がレベル5で、偵察魔法と空即斬魔法を自由に使える。
 この2つの魔法を組み合わせれば、見えない場所にいる魔物でも狩り放題。
 必然的に他の4人の仕事が無くなる訳だ。

 強いて言えばレズンは防御がメインなだけまだまし。
 盾を構えていつでも防御魔法を起動できるようにしておけばいいし、それが仕事。

 しかし俺、レウス、アギラの3人は本当にやる事が無い。
 3人とも2属性以上の攻撃魔法持ちだというのに。
 今回あの攻撃魔法が効かない魔物、サーペントと言うらしいが、あれが出てきてようやく出番が回ってきた感じなのだ。

 それでもアギラは俺やレウスよりはまだまし。
 治療魔法と回復魔法という得意分野がある。
 だから冒険者ギルド等へ行ってもそちらの仕事を請け負う事が出来る。

 しかし俺とレウスは……

「でも先生達のパーティも、普段はフミノ先生1人で全部討伐をやっていたらしいです。だから気にしなくてもいいと思いますよ」

 確かにヒューマの言うとおりらしい。
 フミノ先生の空属性は現在レベル7。
 本人が言うところによれば、『15離30km程度までなら魔物討伐が可能』だそうだ。

『ゴーレム車で移動しながら周囲の魔物を刈り尽くすなんて事もやっていたしね。最近は寝ている間に自動で周囲10離20kmの魔物を狩るなんて事も出来るって言っていたよ』

 リディナ先生もそう言っていた。
 しかし現状のままでは冒険者としての俺の存在理由レーゾンデートルが……
 なら、ネイプルで少し長逗留するならば。
 
「ネイプルで長居するなら俺とレウスの2人で討伐依頼を受けてみたい。魔物と真っ当に戦う機会が少なすぎるからさ、訓練兼ねて」

「いいね。是非お願いします」

 レウスも同意見のようだ。
 しかし。

「私も行きます」

 おい待ってくれサリア。
 それでは意味が無くなる。

「遠慮して姉さん! 姉さんがいると訓練にならない」

 レウスも俺と同意見の模様だ。
 しかしサリア、引き下がらない。

「広範囲偵察魔法と空即斬魔法である程度魔物を減らさないと危険です」

「僕も周囲1離2kmくらいは偵察魔法が使えるし、カイルさんも監視魔法を持っている。攻撃魔法は何種類かあるし心配ない!」 

「いざという時に離脱する為にも、高速移動魔法を使えないと……」

「そんな必要がある魔物、普通は出ないって!」

「せめてサポート用にゴーレムが3体は必要です」

「いらないから! だいたい僕とカイルさんの魔法だけで普通の魔物相手なら過剰戦力だって!」

「でも万が一、今回のサーペントとか、先生達が以前話していた混ざり物キメラやコボルトキングのように魔法が効かない相手が出てきたら……」

「そんな迷宮ダンジョンの奥にしかいないような魔物、いたら即座に偵察魔法で気づくから!」

 仕方ない。
 レウスは諦めるか。

「ならアギラ、一緒に行くか?」

「置いてかないでくれ!」

 もちろんこれはレウスだ。
 何だかなあ……

 言い合いをしている姉弟と、ため息をついている俺。
 全く別の事を考えているらしいヒューマと、多分ネイプルで何を食べようかと思っているレズン。
 それらを生温かく観察しているらしいアギラ。

 6人6様の思いを乗せて、ゴーレム車はネイプルに向けて走っていく。 
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