上 下
188 / 323
第28章 お家に帰ろう

第239話 牧場へ到着

しおりを挟む
 私がゼアルさんの牧場へ行くのは本当に久しぶり。

 セレスは山羊さん達の体調について相談に行ったり鉱塩を買いに行ったりで、時々行っている。たまにエルマくんも一緒に里帰りしていたりする。

 さて、あの牧場はどうなっているだろう。

 天気がいいのでゴーレム車の窓は全開。青空と木々、少し遠くの山が見える。

 こうやってゴーレム車で走りながら街道沿いを見ていると、街から少し離れた土地も開発がそこそこ進んでいるように感じる。
 私達の農場がある一帯は、あの村を開拓した頃は森しか無かった。

 しかし今、カラバーラに続く道を走ってみるとそれなりに開発しようとする感じが出始めてきている。敷地内に作業用道路を作ろうとしていたり、一部刈払いがはじまっていたり。

 最近、魔法で焼きはらったと思われる場所もあった。ここは畑になるのだろうか、牧場になるのだろうか。

 こうやってゴーレム車の視界から見るのと偵察魔法で上から見たのとは、同じ開拓地でもまた違う印象になる。
 道路沿いの方が開拓し易く、その分開発が進んでいるように見えるというのはあるのだろうけれども。

「馬車って速くて楽ですね」

 サリアちゃんがエルマくんを撫でながら言う。
 
「この馬車は特別製だからね。まあ牽いているのはゴーレムだけれど」
  
「どれくらいかかる?」

「もうすぐだよ」

 レウス君の質問にリディナが答えたのとほぼ同時に、ゴーレム車はカラバーラへ続く道を外れ、北側へと続く道へ入る。

 この辺りも以前はゼアルさんの牧場くらいしか無かった。しかし随分周囲も拓けたなあ……
 そう思って、そして気づく。今、北側に入ったところからこの先、全部、ゼアルさんの牧場のような気が……

 上方から見下ろしている方の視界で確認。間違いない、これ、ひとつの牧場だ。私達の農場2つ分くらいの土地全部を牧草地と牧場にしている。

 うーん、これはまた随分と巨大になったものだ。そう思いながら石畳で舗装され以前より立派になった馬車停め用の場所にゴーレム車を停める。

 扉を開ける。
 エルマくんが飛び降り、そのまま受付の建物へダッシュしていった。

「あ、エルマ!」

 飛び出そうとするレウス君をセレスが抑える。

「大丈夫です。ここはエルマの大好きな人のお家ですから」

 セレスの様子から見るとエルマくん、毎回こんな感じのようだ。
 
 降りて皆で受付へ向かって歩いて行く。

「いっぱい動物がいる。大きい!」

 レウス君が見て驚いたのは手前で放牧している牛。確かに山羊や犬に慣れた目で見ると大きいよなと思う。偵察魔法で見る事に慣れているとそういう感覚が新鮮だ。

 エルマくんにひっぱられるような感じでゼアルさんが出てきた。サリアちゃんとレウス君が一瞬びくっとして足を止める。

「大丈夫、いい人だから。エルマの様子を見ればわかるよね」

 こう言えばわかってくれるだろう。そう思って言ってみる。うん、明らかに2人の警戒が解けた気がした。エルマくん様々だ。

「やあ、相変わらずエルマ、つやつやで元気そうだな。良いところへやって本当に良かった」

 エルマくんがつやつやなのは温泉のおかげもあると思う。何せ毎日入っているから。
 エルマくんのおかげでサリアちゃんとレウス君も毎日お風呂に入る習慣が身についた。時間になるとエルマくんが2人を誘うのだ。

 この国では毎日お風呂に入るなんて習慣はない。そもそも家にお風呂があるなんてのは相当な金持ちか好き者だけだ。
 ただ衛生的には入った方がいい気がする。単に私やリディナ、セレスがお風呂好きというのもあるけれど。

 おかげで皆、肌も健康だし髪もさらさら。

「それで今日は何の用だい?」

「うちの山羊2頭の種付けを相談しに来たんです。どういう方法がいいのか、費用はどれくらいかかるのか」

「わかった。それじゃ事務所で相談しよう」

「すみません。その間、牧場内の動物を見せて貰っていいですか? 単なる見学なんですけれど」 

 リディナの台詞で気づく。確かに話し合いだけではサリアちゃんとレウス君が退屈するだろうと。
 ならこれを機会に牧場を見学して動物を見るなんてのはいいかもしれない。話し合いはセレスに任せれば問題無いだろう。

「ああ、自由にどうぞ。ただ厩舎や放牧地近くへ行く前に、そこの白い粉を5回くらい踏んでから行ってくれ」

 前には無かった砂場のような場所があり、砂の代わりに白い粉が入っている。

「これは動物の病気防止ですか?」

「ああ、よく知っているな、その通りだ。貝殻を焼いて砕いた後、水を加えて出来る粉だそうだ。
 これを出入りする前に踏んでおくと動物が病気になりにくいらしい。国立の研究所でそんな研究結果があるそうだ」

 いわゆる消石灰だろうか。日本時代に教科書か何かで読んだ気がするが自信は無い。でもとりあえず靴底を消毒する為のものなのだろう。

 リディナは何処でそんな事を知ったのだろう。相変わらず何でもよく知っているなと思う。

「それじゃここで踏み踏みしたら、向こうへ動物を見に行こうか。ここは大きな牧場だからいろんな動物がいるよ」

「どんな動物がいるんですか?」

「うちのノクトとアレアはここ出身だよ。あとはマスコビーも。他にもうちの山羊とは違う種類の山羊や羊、そこに見える大きな牛も。アヒルもマスコビー以外に色々な種類がいるしね」

「早く見たい!」

「まずはここを念入りに踏み踏みね」

 私は一緒に踏み踏みしながら偵察魔法で牧場内を確認する。
 どうやら今日は山羊も羊も外に出しているようだ。ただし山羊はそれぞれ長いロープで遠くに行かないよう縛られている。

 確かに山羊は放っておくととんでもない場所まで行ってしまうものな、と納得する。
 うちのアレアちゃん達も結構暴走するのでセレスが苦労しているし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。