上 下
181 / 323
第27章 大規模開拓?

おまけ(舞台裏) 森に棲む魔女

しおりを挟む
 この開拓地はカラバーラの街から結構遠い。
 早足で歩いても2時間はかかる。
 それでも俺達が此処に居住を決めたのは、それ以外の条件がとにかく良かったからだ。

 農業をやるのに十分な広さの畑。
 新しくしっかりした家。
 冬を過ごすのに十分な薪を得られる個人用の林。

 これらが全て無料で貰えるという、他ではあり得ない条件。
 しかも初年度の種や苗の入手については貸付援助がある。
 利子や手数料は無しで、返還は作物を収穫してからでいいという破格の条件だ。

 実際はただで貰える訳ではない。
 居住して5年以上此処で農業を継続的に行なう等、条件を満たすまでは単なる貸付け。
 条件にあわなくなれば追い出される。
 犯罪行為等を犯した場合も同様だ。

 それでも破格の条件には違いない。
 此処で農業を真面目にやる限りは問題は無いし。

 さて、この村のほとんどはうちのように家族で入植した者用の土地と、セドナ教会の農村開拓救済団の農場。
 これらの場所は同じように整備されていて自由に行き来することが出来る。

 しかしうちの家から見て領役所支所の反対側の一角だけは様子が異なる。
 深そうな森とその中へと続く道。
 道の奥がどうなっているのかは外からは見えない。
 明らかに村内の他の場所とは別の雰囲気だ。

「あの道や森は入らないで下さい。共有地ではありませんから」

 そう領役所の人からは言われている。
 せっかく手に入れた家や農地を失いたくないからその通りにしている。

 だからと言って気にならない訳ではない。
 しかしそこが何かを確かめる手段はない。
 そして日々の農作業がとにかく忙しい。

 うちは家族4人だが、子供がまだ3歳と1歳。
 妻は子供から目を離せず、実質的に俺1人で農作業をしなければならない状態だ。
 だから今まで開拓団に応募しても採用されなかったのだけれども。

 つまり気にはなりつつもそのままにしている。
 そんな日々が続いた訳だ。

 ◇◇◇

 噂を聞いたのは入植して3ヶ月目、セドナ教会の農場へ行った時だった。
 この農場では定期的に栽培講習が行われている。
 ここで教えてくれる事は農作業で役に立つし、種が無料で貰えるなんて時もある。

 だから俺は毎回参加しているのだが、そこでの休憩時間、他の参加者からその噂を聞いたのだ。
『あの場所には古くからの魔女がいる。だから近づかない方がいい』
 そんな噂を。

「時々馬車で出てくる事があるそうだ」

「ああ、牽いているのも馬ではなく魔物だって話だろ」

「魔物じゃなくてゴーレムらしいぞあれは」

 そんな話を耳にしたので、気になって聞いてみた。

「どんなものが牽いていたんだ?」

「人と馬がくっついたような形の銀色の何かだ。この目で見たから間違いない」

「見たのか。中にいたのはどんな奴だった」

「わからない。頑丈そうな箱馬車で中が見えなかった。お貴族様の馬車より高くて大きかった」

 馬と人がくっついたような銀色の何かに牽かせている大型箱馬車か。
 残念ながら俺にはどんなモノなのか想像できない。
 
「そもそもどんな奴なんだ? 中に住んでいる魔女は」

「見た事は無い。でも時々領の騎士団から使者が行っている。あの独特な銀色のゴーレム馬に乗っているから間違いない」

 この領の騎士団の一部は銀色のゴーレム馬を使用している。
 だから見てすぐわかるのだが、そうなると……

「騎士団からも使者が行くような家なのか」

「ああ。どうやらかなり強力な魔女らしい。
 海から出てきた船より巨大な魔物を倒した魔女が森の中に住んでいる。そんな噂を街で聞いた事がある。
 あそこに住んでいるのはその魔女なんじゃないかと俺は思う。話からすると」

「そんな魔物が出たのか?」

「ああ。これも街ではよく聞く話だ。去年の初夏頃で、冒険者にも非常呼集がかかったと聞いた。相手は特殊個体のクラーケンだと」

「そんな化け物、本当にいるのか?」

「わからん。ただ街では有名な話だ」

 何か話が大きくなってきた。
 つまりそんな魔物を倒せる、騎士団からも定期的に使者が来るような魔女があの森の奥に住んでいると。

 今ひとつ現実的ではない気がする。
 そんな魔女がいるだなんて。

「あと、この辺には魔物がほとんど出ないだろう。雨の翌日朝に出る、1時間くらいでしなびるようなスライムを除いて」

「ああ、そういえばそうだな」

 それは俺も気になっていた。
 これくらい山の中にある新規の開拓地なら、ゴブリンや魔猪くらいは出てもおかしくない。

 しかしこの村、普通の猪でさえ出てくる事はないのだ。
 住民としては助かる。
 しかし考えてみれば確かに普通ではない。

「あれも魔女の仕業だそうだ。魔力が強大すぎて魔物が近寄れないらしい」

 いくら何でもそれはないだろう。
 そう思うが魔物が出ないのは事実だ。
 領の騎士団がまめに討伐しているという様子もないし。

「まあ何処まで本当かはわからないがな。だいたい海から魔物が出たのは昨年の初夏なんだろう。この村はまだ開拓前だ。なら魔女は村が出来る前から此処に住んでいた事にならないか?」

「確かに。ただ噂としては妙にしっくりくる。ここは山の中とは思えないほど魔物がいない。騎士団の使者は見かける。
 それに領役所の連中からも念押しされたからな、あそこには入るなと」

 確かにそうだ。
 魔物が出ないのと、領役所で念押しされたのは事実。
 そして領騎士団の使者が来るというのも本当なら……

 ◇◇◇

 そしてある日、領役所支所へ講習会の日程を聞きに行った帰り。
 俺はついに見てしまったのだ。
 銀色の、馬より大きな何かが牽いている大きな箱馬車を。

 確かに人と馬がくっついたような形だった。
 馬の上半身が人の形をしている。

 金属的な質感から見てあれはゴーレムだろう。
 ただ騎士団のゴーレムと比べても大きく、そして威圧的に見える。
 牽いている箱馬車も大きく、そして見た事がない形だ。
 貴族等用とも一般的な荷馬車や乗合馬車とも全く違う独特な形。

 しかも速度が普通では無い。
 大きな箱馬車なのに、普通の馬だけで走らせる以上の速さ。
 あっという間に村の外へと消えていく。

 俺は何というか、納得してしまった。
 なるほど、噂以上だと。

 確かにあの中には魔女がいるのかもしれない。
 この村より古くから、ひょっとしたらこの領地よりも遙かに古くからここに住んでいる、強大な力を持った古の魔女が。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?【続編公開】

一番星キラリ
恋愛
「お前は何も悪くはない。だが、爵位も剥奪された。お前を養うことはもうできない。このまま身売りをするよりはマシだろう……」 号泣する父であり、元ベラスケス公爵を見て、私は唇をかみしめる。確かに私はまだ19歳になったばかりで、もちろん未婚。身売りすることになれば、高値で取引されるだろうと、容姿と美貌を見て自分でも分かる。 政治ゲームで父は負けた。ライバルであるドルレアン公爵は、父にやってもいない横領の罪をなすりつけ、国王陛下も王太子もそれを信じてしまった。しかもドルレアン公爵の娘カロリーナと私は、王太子の婚約者の座を巡り、熾烈な争いを繰り広げてきた。親同士が政治ゲームで争う一方で、娘同士も恋の火花を散らしてきたわけだ。 でも最初から勝敗は決まっていた。だってカロリーナはヒロインで、私は悪役令嬢なのだから。 え……。 え、何、悪役令嬢って? 今、私は何かとんでもないことを思い出そうとしている気がする。 だが、馬車に押し込まれ、扉が閉じられる。「もたもたしていると、ドルレアン公爵の手の者がやってくる」「で、でも、お父様」「パトリシア、元気でな。愛しているよ」「お、お父様―っ!」その瞬間、ものすごいスピードで馬車が走り出した。 だが、激しい馬車の揺れに必死に耐えながら、自分が何者であるか思い出したパトリシア・デ・ラ・ベラスケスを待ち受ける運命は、実に数奇で奇妙なものだった――。 まさか・どうして・なんでの連続に立ち向かうパトリシア。 こんな相手にときめいている場合じゃないと分かっても、ドキドキが止まらない。 でも最後にはハッピーエンドが待っています! パトリシアが経験した数奇な運命を、読者の皆様も一緒に体験してみませんか!? 111話から続編を公開しています。もしよろしければご覧くださいませ(2024/1/15) 小説家になろうで3月より掲載しており、日間恋愛異世界転生/転移ランキングで22位(2023/05/16)を獲得しているので、きっとお楽しみいただけると思います。こちらのサイトでも続編更新が追いつくよう、投稿作業頑張ります。本サイトでは初投稿でいまだ緊張中&手探り状態。温かく見守っていただけると幸いです。第4回HJ小説大賞前期の一次選考通過作品。 ◆模倣・盗用・転載・盗作禁止◆ (C)一番星キラリ All Rights Reserved.

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。