上 下
142 / 323
第23章 リハビリの海辺

第196話 食欲中枢と無駄な思考

しおりを挟む
 船のおかげで釣果はとんでもなく多彩。いつもとは明らかに違う魚も含め、これでもかという位に持ち帰ってきている。

 ヒラメに似ているがもう少し縦に長い茶色い魚、ひげの大きい赤色の、鯛が太ったような魚、カサゴっぽい全長が30指30cm位の赤い魚……
 今まで釣った事が無い魚はこんな感じ。

 勿論釣った事がある魚も大量にある。たとえばカツオとマグロの中間みたいなもの、黒鯛っぽいの、多分鯖、きっとアジ、おそらく鰯、その他色々……

「それじゃさっと料理するから待っていてね」

「わかった」

 どう見ても楽しみで仕方ない。

 魚も肉と同じで取れたてより寝かしておいた方が美味しいという話は知っている。確かに大きめの魚、それも白身系については4日目くらいが旨味が強いというのも感じる。

 しかし取れたての魚の歯ごたえと身の固さというか締まっている感じもまた格別なのだ。

 あと小魚系は新鮮であればあるほど美味しい。市場に並んでいるものより、自分達で捕ってそのまま自在袋やアイテムボックスに入れたものこそ至高。
 刺身が特にそう感じるけれど、焼き物揚げ物煮物等でも同じ。

 夕食を待っている間にアイテムボックス内に収納した船を、収納したままの状態であちこち点検。異常はなさそうだが取り敢えず水属性魔法で真水を出して洗い、塩分を除いておく。

 一応金属部分は錆び対策で鉄ではなく銅や黄銅を使っている。それでもやはり海水に晒したままだと気になるのだ。

 あと伝達部分のパイプに海水が侵入していないかも確認。大丈夫、固い鹿の脂でちゃんと防水出来ている。

 そう言えば細かい作業をする時、アイテムボックス内に手を伸ばしてなんて事が出来れば楽なんだよな。魔法ではやりにくい作業もあるし。
 何か方法はないかな。

「フミノ、ご飯できたよ」

 おっと、もう出来たか。

 今回も食卓の上は豪華だ。

「昨日作ったものとかぶっちゃうけどね」

 まずはカルパッチョ風、サラダ風、刺身盛り合わせ風の生切り身シリーズ。

 白身だけでも半透明なもの、皮目が赤っぽいもの、端の赤身が多い物、脂がのってそうな濁りのある白色のものとある。
 更に赤身の魚もあり、イワシの頭とヒレ、骨と内臓をとった状態そのままのものあり……

 揚げ物もパン粉をつけたフライと天ぷら風と素揚げ。そのままのもあるし、南蛮漬け風の汁につけたものもあるし……

 あとはバター焼きにそのまま焼いた風に……

 なおこれにアクアパッツア風の汁系煮物がつき、更にご飯、パン、ラルド等いつもの面子も揃っている訳だ。

 どうやればこれを半時間程度で作れるのだろう。これだけの魚をさばくのだって半時間では終わらないとおもうのだけれども。大物だと鱗とりだけでも時間がかかるのに。

 これって絶対何かのチートだと思うのだ。リディナもセレスも転生者じゃない筈だけれども。

「あとこっちのご飯は酢飯ね」

 うん、チートだ。でもこんなチートは大歓迎。

 ふとある数値が脳裏をかすめる。増加してしまった●重の値だ。食べる量を減らした方がいいだろうか。そんな考えが浮かばない訳では無い。

 しかし今日は動けなくなる程に運動した。だからきっと大丈夫だ。それに食べないとリディナが心配するだろう。いつも食が細いと言われているし。

 それに魚の脂は健康にいいという話を聞いた事があるような気もする。だからきっと問題無い。とりあえずそう思う事に決定。
 だから夕食を心ゆくまで楽しもう。食べ過ぎても明日、頑張ればいい。

 そんな感じで夕食開始。まずは酢飯を深皿に取り、上に刺身を並べる。こうすると刺身の味が悪くなるという意見があるのは勿論承知。しかし雰囲気というのも重要なのだ。

 これに魚醤ベースで作ったリディナ特製刺身たれにすり下ろしたホースラディッシュを溶いて、海鮮丼の上にささっとかけて一気にかっ込む。
 うん、日本でも正しくない食べ方だけれど美味しいから正義だ。

 本当はこのまま生魚全種類を思い切り海鮮丼形式でかっ込みたい。でも私の胃袋容量は悲しいほど小さい。
 だからその辺の身の丈にあわない野望は諦める。

 次は分厚いアジフライ的なもの。うん、美味しい。この身の旨さとジューシーさがあるからこそ外側のサクサク感が活きるのだ。
 前世いや日本時代に食べた薄くて小さいのとは完全に別物。まあ異世界だし魚種が違うかもしれないけれど。
 
 この辺で早くも満腹中枢が刺激される。悲しい。でも諦めたらそこで試合終了だ。だからバター焼きを少しだけ。うん、良い。白身魚とバターって本当に合う。

 そろそろ限界。でも誰かが言ったような気がする。『限界は挑むものじゃない、超えるものだ!』と。
 だから私は果敢にも挑戦する。でも本当に限界だからあと一品だけ。天ぷらをとるか南蛮漬け風をとるか、それとも……

 よし、今日は玉砕覚悟で。今度は酢飯ではなく白飯を取る。そして茶色くなった煮魚の身部分を汁ごと上にかけて……
 ああ、楽園はここにあった。

 ただ完全に限界は突破した。姿勢をさらに崩しお腹を楽にした状態で私は機能停止する。もう動けない。動くとまずい事態になる。動かせるのは視線と思考だけ。

 その動かせる思考で考える。胃袋も鍛えれば大きくなるのだろうかと。ただ私の身体ではそもそも容量が足りない気がする。自在袋とかアイテムボックスとかを組み込まないと。

 俺の胃袋は宇宙だ! そういう台詞も何処かであったような気がするな。宇宙なら次元拡張とかも出来るのだろうか。そうすればもっと食べられるのに。

 ただ食べるとその分太りそうではある。そうすると当然重くなる。結果これ以上動けなくなるのは避けたい。

 なお今日食べた分のカロリーは明日消費すればいいだろう。明日は歩くつもりだから。
 船でサイクル運動はまだ私には早かった。まずは基本、ウォーキングだ。人間は考える足であるらしいから。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 セレスが出てこない……一応いるんですけれどね。
 さて、今回はネタ系発言が多いので、注釈です。

 ※ 『諦めたらそこで試合終了』 漫画『SLAM DUNK』の安西先生の台詞から。『SLAM DUNK』著 井上雄彦 集英社

 ※ 『限界は挑むものじゃない、超えるものだ!』 似たような台詞は各所でみられるが、今回はゲーム『Apex Legends』のオクタンの台詞。
   Apex Legendsはエレクトロニック・アーツから2019年に販売されたシューティングゲーム。

 ※ 『俺の胃袋は宇宙だ!』 TVドラマ『フードファイト』における、主人公の決め台詞。2000年頃日本テレビ系列で放送。主人公役は草彅剛。

 ※ 『人間は考える足である』 本当は、『人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である』。間違えても『足』ではない。フランスの数学者・物理学者・思想家であるパスカルの遺稿集『パンセ』の中に出てくる一節。

 フミノの知識はネットや図書館で得たものが中心です。原作は知らないけれどネットミーム的に知ったというものも多いです。

 ですが最近の図書館は漫画やDVDまで置いてあったりもするのであなどれません。『何でこんなの読んでいるの』と思うようなものでも揃っているところには揃っていたりします。ベルセルクとか……これって司書の趣味なのだろうか……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君に、最大公約数のテンプレを ――『鑑定』と『収納』だけで異世界を生き抜く!――

eggy
ファンタジー
 高校二年生、篠崎《しのざき》珀斐《はくび》(男)は、ある日の下校中、工事現場の落下事故に巻き込まれて死亡する。  何かのテンプレのように白い世界で白い人の形の自称管理者(神様?)から説明を受けたところ、自分が管理する異世界に生まれ変わらせることができるという。  神様曰く――その世界は、よく小説《ノベル》などにあるものの〈テンプレ〉の最頻値の最大公約数のようにできている。  地球の西洋の中世辺りを思い浮かべればだいたい当てはまりそうな、自然や文化水準。 〈魔素〉が存在しているから、魔物や魔法があっても不思議はない。しかしまだ世界の成熟が足りない状態だから、必ず存在すると断言もできない。  特別な能力として、『言語理解』と『鑑定』と『無限収納』を授ける。 「それだけ? 他にユニークなスキルとかは?」 『そんなもの、最頻値の最大公約数じゃないでしょが』  というわけで、異世界に送られた珀斐、改めハックは――。  出現先の山の中で、早々にノウサギに襲われて命からがら逃げ回ることになった。  野生動物、魔物、さまざまな人間と関わって、『鑑定』と『収納』だけを活かして、如何に生き抜いていくか。  少年ハックの異世界生活が始まる。

物語は始まらずに終わる

杜野秋人
恋愛
第一皇子への接触を試みる男爵家令嬢は、自分の今いる世界が転生前に日本でハマっていた乙女ゲームの舞台だと信じていた。 そして、自分はそのヒロインとして生まれ変わったのだ、とも。 彼女は皇子とお近づきになるべく行動を開始する。 そして皇子の待つ生徒会執務室の扉を開けようとしたところで、何者かによって昏倒させられ連れ去られた。 以後、彼女の姿を見た者はいない。 彼女はどこへ消えてしまったのか。何故連れ去られたのか。 その疑問に答える者は、誰もいなかった。 ◆乙女ゲームのヒロインがいとも簡単に皇子(王子)に近付けるのって基本的にはあり得ないよね。というところから書いてみました。 サックリと頭カラッポで読めます。乙女ゲームは始まりませんでした。 ◆恋愛要素薄めですが一応恋愛ジャンルで。乙女ゲームなので。 違和感あればご指摘下さい。ジャンル変更など対応します。 ◆前後編の二編でお送りします。 この物語は小説家になろうでも公開します。例によってあちらは短編で一気読みできます。 ◆いつも通りの惑星アリウステラの、ラティアース西方世界の物語ですが単品でお楽しみ頂けます。他作品とは特に絡みませんが、のちのち上げる作品には絡むかも知れません。

死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… まったりいきます。5万~10万文字予定。 お付き合いいただけたら幸いです。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

【完結】悪役令嬢を期待されたので完璧にやり遂げます!

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のマリアンヌには第一王子ジャルダンという婚約者がいた。 しかし、ジャルダンは男爵令嬢のロザリーこそが運命の相手だと豪語し、人目も憚らずに学園でイチャイチャしている。 ジャルダンのことなど好きではないマリアンヌにとってはどうでもいいことだったが、怒った父の公爵が婚約破棄の準備を進める中、マリアンヌは自分の噂話の現場に出くわしてしまう。 思わず聞き耳を立てると、最初はジャルダンとロザリーの非常識な振舞いに腹を立てているありきたりな内容は、次第にマリアンヌが悪役令嬢となってロザリーにお灸をすえて欲しいという要望に変わっていき―― 公爵令嬢として周囲の期待に応えることをモットーとして生きてきたマリアンヌは、完璧な悪役令嬢となってロザリーに嫌がらせを行うことを決意する。 人並み外れた脚力と腕力を活かしてヒロインに嫌がらせを行い、自分のアリバイをばっちり作って断罪返しをする悪役令嬢……を期待された公爵令嬢のお話です。 ゆるい短編なので、楽しんでいただけたら嬉しいです。 完結しました。

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

聖火の番人(キャラクター習作集)

三枝七星
ファンタジー
その国の王城には「聖火番」と言う役職がある。詳細は不明だが、どうやら建国神話で王家が神から授かった火を守るらしい。しかし、その実情は悪霊と化した死せる王族の魂を鎮める役職だった(表題作)。 ※低速更新なので、一旦完結済みにしてできしだい追加していく形を取っています。 (※キャラクター習作用の掌編集です) (※リアルの社会情勢を反映しておりません) (※職業についての考察は詳細に行なっておりません) (※現実的な法律、道徳、倫理、人権、衛生の面で「誤り」「加害的」「差別的」であることも描写されますが、これらを「是」とするものではありません) (※随時修正する可能性はあります)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。