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第22章 冒険者ではないお仕事

第187話 線路敷設

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 私たちは倉庫から動かないまま、ゴーレム2体で廊下を通り、入ってきたのと反対側の外へ。
 なおシモーヌさんは偵察魔法に似た魔法が使えるそうだ。視点を私達のゴーレムと一緒に動かして、一緒に状況を確認するとの事。

 さて、外へ出た場所から見えるのは巨大な池と、幅の広い大きな何か。
 この何かは大きな岩に木や焼き土の建物を貼り付けたような代物だ。下に出入口があってゴーレムが出たり入ったりしている。

 これは何だろう。建物前にいるシェリーちゃんの視界からではわからない。だから偵察魔法の視界で上から確認。

 野球スタジアムみたいな建物だった。中のグラウンドにあたる部分は巨大な中華鍋形で、水が溜まって池のようになっている。
 この池の中で土砂を含んだ水が渦を描くように回っていた。これは何の意味があるのだろう。

 球場もどきの出入口前でフェデリカさんのゴーレムは立ち止まる。

「此処が選鉱場だ。掘った鉱石は中にある水槽へ投入する。あの線路はその水槽の縁まで設置するつもりだ」

 なるほど、中華鍋に見えるのは水槽で、水流を使って比重によって土砂から鉱石を選り分けているのか。そう考えるとなかなか良くできた施設のように思える。

 フェデリカさんのゴーレムに続いて選鉱場の中へ。石造りの頑丈な階段を50段ほど上ると中華鍋の縁部分に出た。採掘用ゴーレムが腹部分を開いて土砂を中へ投入しているのが見える。

 縁部分を歩いて階段とは反対側へ。こちら側は縁がそこそこ広く出来ている。幅も3腕6m強はありそうだ。土台も石というか岩でしっかりしている。

「出来ればここの縁に線路を作って、荷車から直接中へ鉱石や土砂を投入できるようにしたい。出来るか?」

「土砂も一緒にここで下ろす?」
 
 確かにゴーレムは土砂を投入しているように見える。あれは土砂に鉱石が混じっているからだと思ったのだが、土砂だけのものもあるのだろうか。
 
「ああ。土砂に有害な物が含まれる事もあるからさ。ここで全部下ろして、鉱石とそれ以外を水の力でわけるんだ。

 わけた後、更に幾つかの工程で、選鉱場で使用した水や坑道から出てきた水から土砂や余分な成分を取り除く。
 その後、排水は最終的には外にあった大きな池に流し込み、ゆっくり成分を沈殿させて固める。
 そうやって有害な物質が敷地外に出ないようにしているんだ。

 水から除去した土砂や鉄鉱石以外の成分、外の池で沈殿した物質は圧縮して固め、最終的には岩盤化して煉瓦にする。こうすると元の土や泥の20分の1近くまで小さくなるし、外部に有害物質が染み出るなんて可能性も低くなる。

 この煉瓦はこの製鉄所の建物の他、坑道を埋め戻す際等にも使う。こうやって土やその他の物質を処理している訳だ」
 
 なるほど、公害対策にもそれなりに気を配っているようだ。煙突というか高炉の方もそうだったし、やはりこの世界、進んでいる部分は結構進んでいる模様。

 さて、それなら答えは簡単だ。中華鍋の縁というか選鉱場の外側部分は十分に広い。円も直径が50腕100m近くある。

「問題無い」

 ただ敷設前に一応確認だ。

「この幅は思い切り使って問題無い? あと使っていい長さはどのくらい?」

「階段の近く30腕60m程度以外は全部使っても構わない。線路を使った運送方法がうまくいけば、選鉱場の周囲全部をぐるっと線路で囲ってしまってもいいと思っている。フェルマ家の意向としてはそうだ。

 あと此処から坑内へ入る部分は先に見える斜面を使ってくれ。坂は緩めにしてくれという事で新しい坑口や坑道を作ったから」

 確かにこの鍋の縁に向かって洞窟からまっすぐ伸びている道がある。わざわざ専用にそんな物まで作ってくれたのか。

「感謝。これで楽に出来る」

 それではまず道床部分からとりかかろう。線路を敷く位置に土を……あ、出さなくてもいいか。フェデリカさんは魔法で土や岩を自由に変化させられるから、枕木込みの線路セットさえ出せばあとはどうにでもなる。

 そんな訳でまずは最初、分岐器ポイントのついた線路セットから。あとは線路セットを出して接続してを繰り返すだけ。

 何せ軌間15インチ381mm以下で6kgレール。だから直線で作ったセットでも直径50腕100m位のカーブ用に魔法で曲げるのは簡単だ。

「こうやって線路を設置していくのですね」

 シモーヌさんのそんな台詞で気づいた。私だけがやるのではなく、フェデリカさんにもやってもらった方がいいだろうと。私がいなくなった後はフェデリカさんがこの作業をするのだろうから。

「この程度の曲線なら直線のセットを加工しても問題無い。この間の幅だけ一定になるよう注意して曲げ、接続していくだけ。長さが変わる分は内側の鉄部分をやや太くする事で」

「わかった。やってみよう」

 何処かで購入した魔法の本に書いてあった。魔法属性としてかね属性というものがあり、これは土属性と火属性の合成属性であると。

 だから土属性のレベルが高ければかね属性のレベルもそこそこ高い筈。

 そしてフェデリカさんは高レベルの土属性持ち、更に言うと鉄鉱山で金属を扱う事も多い筈。だからこれくらいは多分、大丈夫。

 案の定フェデリカさんはあっさり加工し、線路を接続した。

「なるほど。このセットさえ作ってあればそう難しい事はない訳か」

 その通りだ。私は頷いてそして気づく。私はゴーレムの視界と偵察魔法の視界、自分の視界全てを同時に確認出来る。けれどフェデリカさんがそうだとは限らない。

 もし確認可能な視界が1つならば、ゴーレムの視界がメインだろう。だから声に出して返答した方がいい。

「その通り。消耗した部分を取り替える時も基本的に同じ」

 途中ポイントをもう1箇所はさみ、更に引き込み線部分を作ってからまた線路を延ばしていく。

「だいたいわかった。それじゃ線路の木の枕部分、下の土台に土魔法で固定していいか。完全に岩盤化させて動かない形で」

「頼む。私は出来ないから」

 ここからはもうルーティンワーク的な作業に突入だ。私が線路を出して敷き、接続部分を留める。その後にフェデリカさんが土魔法で固定する。ひたすらその繰り返し。

 そして作業が予想以上に速く進む。敷設場所を他のゴーレムが通らないし、カーブの曲率や傾斜が抑えてあるから。
 これはフェデリカさんが線路を敷く為の坑道を新たに作ってくれたおかげだ。

「難しそうに感じたけれど、思ったより簡単な作業なんだな」

「事前に専用の坑道を作ってくれたおかげ。普通は既にある部分にあわせて設置するからもっと大変な作業になる」

「そうなのか。私としては穴を掘るのは簡単な作業だからさ。地層や地盤にもよるし、掘った土を運び出すのが結構面倒だけれども」

 とするとだ。

「この新しい坑道のルートは、線路を敷くことになってから考えた?」

「いいや。元々あの辺の坑道はごちゃごちゃとなりすぎて、整備する必要があったんだ。あまり無茶苦茶に掘ると落盤も起こりやすくなるしさ。

 だから強度とか考えて、この鉱区全体を作り直す案を出してたんだ。大分前にさ。

 その結果、曲線が少なく傾斜も最小限になった。それならこの線路を使うのにちょうどいいだろう。そう上が判断したんじゃないか」

 なるほど。でも元から坑道がある場所全体を作り直すなんて事が出来るのだろうか。もしやるとするなら……
 思いついた方法でいいのか、聞いてみる。

「坑道を全部埋めた後、別の坑道を掘った訳?」

「新しく坑道を掘り、出た土砂で古い坑道を埋めていったんだ。掘った土を外に運び出す作業さえ無ければ、土属性の魔法でどうにでもなる。この辺は変な帯水層とかも無くて掘りやすいしさ」

 そんな事が出来るのか。いや実際にやったのだろうけれども。

「とんでもない技術」

「でもない。この辺は慣れって感じかな」

 いや、とんでもない魔法使いだと思う。そこまで土属性魔法を使いこなす事が出来る訳か。私にはまだまだ無理だ。あ、でもアイテムボックスを使えば似た事は可能かな。まだ土質改良魔法は自在に使えないけれども。

 さて、その辺はともかく線路の敷設は完了した。分岐器ポイントも整備して稼働可能な状態だ。
 なら試してみるべきだろう。実用に足るかを。

 私はシェリーちゃんの前、今さっき敷設したばかりの線路上に鉱石運搬ホッパ車と制御台車を出す。

 専用ゴーレムの05君は私の目の前で起動する必要がある。だから今は使わない。しかしシェリーちゃんでも鉱石運搬ホッパ車と制御台車1両ずつなら余裕で動かせるだろう。

 非常ブレーキ機構は手動でもアンロック出来る。故障した際の復帰用だ。これを使えばシェリーちゃんで牽引しても問題無い。

「この車に鉱石や土砂を積むのですね」

 これはシモーヌさん。

「そう。実際にこれを曳いて確認してみる」

「なら曳く役は私に任せてくれないか。どれくらいの力で運べるのか実際に試してみたい」

 おっと、それはありがたい。それならシェリーちゃんはブレーキ制御に専念できる。

「荷物はどれくらい載せる?」

「とりあえずは普通の採掘用ゴーレムが運べる重さより少し重めで。自在袋は最大容量を装着すると仮定して、キリのいいところで700重4,200kgくらい」
「わかった」

 なら鉱石運搬ホッパ車は5両か。概ね1両160重960kg位のつもりで作っているから。
 ホッパ車を出した後、確認する。

「荷物は私が用意する? そっちで積む?」

「ついでに選鉱場へ出す作業まで試したいからさ。私が積むよ」

 どこからともなく土や岩が出てきて鉱石運搬ホッパ車に積まれる。どうやらこの辺の岩や土を動かす魔法も土属性のようだ。私の知らない高度な魔法だけれども。
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