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第22章 冒険者ではないお仕事

第186話 ローラッテの製鉄所

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 なるほど。そう思ったのは馬車の構造だ。

 今回乗車したのは上流階級用の2頭立て箱形馬車。路面からの突き上げを乗員に伝えないよう、革紐8本で客室を吊り下げた構造になっている。

 この仕組みそのものは百科事典で見たから知ってはいる。しかし実際に乗って動きを見るとまた理解が深まる物だ。

 確かに私のゴーレム車より揺れるが衝撃は抑えられている。構造だけでなく革紐というのもポイントなのだろう。

 あと1箇所につき2本の紐で吊る事で位置決めも出来ている。コイルバネ仕様のサスペンションだと複雑になってしまうところだ。すぐに使う予定はないが参考になる。

「大丈夫でしょうか。先程からずっと下を見ていらっしゃいますけれど」

 シモーヌさんが心配してしまったようだ。ここは誤解を解いておこう。

「大丈夫。空属性魔法で馬車の構造を見ていた。この型の馬車ははじめてだから」

「普段大型のゴーレム車に乗っていると伺ったのですけれど」

「あれは違う方法で振動を減らしている。私が以前いた国の方法。ただ構造が複雑になる。この馬車はその点、簡単な構造で直接的な振動を消している。実際に見ると参考になる」

「なるほど。ゴーレム製造者の方ですとそういった点も観察する訳ですね」

 一応頷いておく。厳密にはゴーレム製造者一般ではなく私が、なのだろうけれども。

 2頭立て馬車なのでそこそこ速い。時速4離8km程度は出ているだろう。だから1時間もかからずにローラッテに到着。
 製鉄所の玄関前に馬車を止め、シモーヌさんについて中へ。

 歩きながら周囲を偵察魔法も使って確認。ここはもう製鉄所の一部のようだ。

 そして煙突だと思っていた高い建物、実際には半分以上は煙突ではない。
 内部を観察すると魔法の術式を使った高炉のようなものだとわかる。鉄鉱石と木炭、石灰石を上から詰め込み、組み込まれた術式で温度を上げ、更に加熱して出たガスを燃焼させる仕組み。

 熱の術式だけではなく風の術式も使っている。更に水の術式で発生したガス中の危険成分を除去なんて事もしている。そうしてあの煙突状の建物の最下部から出来上がった鉄が流れ出てくる仕組み。

 流れ出て来た鉄はやはり術式で冷やされ、叩かれ、そして加熱してまた叩かれて。そして最後にこれは魔法道具らしいものを使って人の手で切り分けられる。これでインゴットの完成という訳だ。なかなかハイテクな仕組みだ。思わず感心してしまう。

 この世界の科学技術は地球の近世程度に見える。しかし実際に出来ている事は21世紀初頭の技術と比べてどうなのだろう。私ではわからないのが微妙に残念だ。

 なんて事を思いつつ廊下を歩いていく。
 そしてシモーヌさんは幾つ目かの扉を開けた。そこそこ大きい倉庫のような部屋だ。
 中には枕木セット済みのレール、レール単体、枕木単体、レール関係金具各種、そして牽引用に設計した鉱石運搬ホッパ車の完成品が並んでいる。

 フェデリカさんもこの部屋で待っていた。

「久しぶり。今日はよろしく」

「よろしく」

 軽く頭を下げる。

「それで今日はこれを設置する作業だけれどさ、まずは物を確認して貰っていいか? 一応見本通り、この指示書通りに作ってある筈だけれど、私ではどうもわからなくてさ」

 フェデリカさん、口調は男性っぽいが怖くはない。だから私でも大丈夫だ。

「わかった」

 早速検品作業の実施だ。指示書を受け取って数と形状、品質等を確認。うん、問題ない。赤錆を防ぐための黒錆びもしっかり全面にかかっているしむしろ期待以上。
 数も大丈夫だ。

「問題ない。品質も期待以上」

「なら良かった。それじゃ作業用ゴーレムに積むとするか」

 フェデリカさんは自在袋に収納していたらしいゴーレムを出す。これも外見的には初期バーボン君と同じようなダックスフンド型だ。
 ただ微妙に両前脚の先が違う。あと脚が長めで、偵察魔法で内部構造を見ると魔力導線の配置もやや異なる。

 おそらく歩行速度が速くなるようチューンナップされているのだろう。両前脚の先の違いはある程度手と同じような作業をする為。

 なら私が出すべきなのは作業しやすいゴーレムだろう。となるとやはりシェリーちゃんだな。小柄だから狭い坑内でも問題ないし。ライ君は万能だけれども坑内で使うには大きすぎる。

「おっと、人型ゴーレムか。はじめて見たな。流石ゴーレム製造者」

「私もはじめて見ます」

 どうやら人型ゴーレムは珍しいようだ。その辺の常識はいまひとつ私にはわからないのだけれど。

「この方が作業がしやすいから」

「それじゃ荷物を積むか。ただ設置するこの線路等、この量では両方のゴーレムに自在袋をつけても全部は積めない。だから作業手順を考えて最初はどれをどれだけ積むか、指示してくれると助かる」

 ふっふっふ、問題ない。

 ゴーレムと自在袋の両方を魔力を使って遠隔操作するのは難しい。
 よほど魔力が大きいか魔力操作に長けているかでないと、ゴーレムに使わせる事が出来る自在袋は1つだけだ。

 そして市販の自在袋は概ね400重2,400kgまで
 だからゴーレムに自在袋をつける方法では1ゴーレムあたり400重2,400kgを持ち運ぶのが限界となる。

 しかし私のアイテムボックススキルなら容量は事実上無制限。

 ただ今回は全部を収納するのはやめておこう。容量がバレるからではない。この領内なら私が収納できる量がバレても多分問題ない。

 考慮すべきなのはフェデリカさんに線路敷設作業を知って貰う事。だから基本的には私が持って、フェデリカさんには各種をバランスよく、400重2,400kg以下になるよう持ってもらうべきだろう。

 そんな理由で出ている資材の1割をバランスよく残し、後は全部私のアイテムボックスに収納する。

「えっ」

「私の自在袋は特別製。私専用に別の国で作ったもので、他の人には使えない」

 いつもの言い訳をしておく。

「それじゃ私は残ったものを収納でいいか」

 資材を全て収納し終えた後、フェデリカさんのゴーレムが立ち上がった。

「それじゃ設置に行こうか。案内するからご教示よろしく」

 私は頷く。
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