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第17章 開拓団の村

第134話 聖堂内での特殊魔法

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「この魔法は火属性、水属性、土属性の3属性を必要とします。貴方は3属性とも使えますね」

「はい」

 頷いてから気付く。

「司祭も3属性ともにお使いになられるのですね」

「エールダリア教会の司祭は基本5属性全てを使える事になっていました。無論例外もかなりありましたけれども」

 なるほど。あと気になったので聞いてみる。

「この魔法を私に教えていいのでしょうか」

「かまいません。秘密という訳ではありませんから。

 誰もが全ての魔法属性を持っている。このことがつい先日明らかにされました。これからは学び方次第で誰でも魔法を身に着けられるようになります。

 このゴーレム魔法も広まる事でしょう。農作業にもちょっとした連絡にも便利な魔法ですから」

 あっさり。
 本当にそれでいいのだろうかと私は思うのだけれども。

「魔法の要点は2点。イメージを形成することと魔力の流れを意識する事です。これからゴーレム起動魔法と呼ばれる魔法を行いますので、魔力の流れをよく見ておいてください。

 この魔法では、まず土と水から生命の源を作り出す作業を行います。

 具体的には魔力を込めた土人形を作ります。この人形の形はゴーレム素体と同じ形態がいいでしょう。今回は人型ですから人と同じ形に作ります。

 土を出して、水を魔力と共に練り込み、形にします。練り込む魔力は土属性と水属性です」

 どうやら実演だけではなく説明までしてくれるようだ。私は見逃さないよう注視する。

 司祭の前に握りこぶし2個程度の土が出現した。少量の水が合わせられ、魔法によって捏ねられる。

 これに水属性と土属性の魔力も注がれる。魔力そのものには属性以外の方向性は見えない。ただ土に練り込まれていくだけだ。
 
 小さい人の形をした粘土人形が出来上がった。

「次はこの人形に火の力を注ぎこみます。動物は熱の力で動きます。この人形も同じように動けるよう、生命を動かす火属性の力を注入する訳です。

 これで疑似的な生命の源が誕生します。これはかつて創成主と呼ばれた存在が、土をこねて形をつくり、命の息吹を吹き込んで人を作ったとされる昔話を真似た方法です。

 実際に人がそうやって創造されたとは、私も思っておりません。ですが古くからの言い伝えというものはそれなりに力を持ちます。知られているという時間と人数の為でしょうか。

 ですのでゴーレム起動魔法もこれを真似て命の源をつくります。それでは火の力をこの人形に注ぎ込みましょう」

 再び魔力が人形に注ぎ込まれる。今度は火属性の魔力だ。熱や光に変わる前の純粋に火属性の力としての魔力。
 それでも人形の中心が熱を帯び始めたのがわかる。
 
「人形内で魔力が生命のように脈打っているのが見えますでしょうか」 

 確かにそう見える。だから私は頷く。

「これでゴーレムの起動源となる生命の源は完成です。あとはこれをゴーレムの胸、外形的に心臓があると見える位置に置きます」

 司祭はゴーレム素体の胸の上へと土人形をのせる。

「仕上げです。土人形から素体へと生命の源を移します。ここは水属性の魔力を治療や回復と同じような形で出しながら、土人形を素体に押し込んでいきます。

 この時ゴーレムの名前を唱えます。名前はついていますでしょうか?」

 このゴーレムは司祭に使って貰う為に作ったものだ。だから名前は司祭が決めるべきだろう。

「いえ、司祭がつけてください」

「わかりました。それではイーノックと名付けましょう。
 それでは治療と同様の魔力を土人形の上から押し込むように与え、生命の源をゴーレムへと移します。見ていてください」

 土人形が水属性の魔力で押し込まれていく。
 脈動がゴーレム素体に移ったのを感じた。次の瞬間土人形が粉々に崩れる。

「ゴーレムよ。汝の名はイーノック。呼びかけに応えよ」

 素体だったゴーレムに明らかに魔力の鼓動が宿った。ゆっくりと右手を上に上げる。

「これでゴーレム起動の魔法は終わりです。あとは名付けた者が所有者として、普通のゴーレムと同様に管理すれば大丈夫です。動かし方も通常のゴーレムと同様です。
 概ね理解できましたでしょうか」

 私は頷く。大丈夫だ問題ない。そう言いそうになって慌ててやめる。
 この台詞は違う。別の世界の台詞だ。ついイーノックという名前に釣られてしまった。

 それでも理解はした。要は水と土の魔力を練り込み、火で脈動を起こして水の魔力で埋める訳だ。
 あとは実践練習あるのみだ。

「ありがとうございました。後は練習すれば大丈夫だと思います。それで時間は少々遅いのですが、もう1件お願いをして宜しいでしょうか」

「何でしょうか」

「司祭は痛覚遮断の魔法を使う事が出来ますでしょうか」

 一応聞いておく。これから私が使う魔法は結構痛みを感じる可能性がある。だからその予防の為だ。

「ええ。治療時に必要なのである程度は使う事が出来ます」

 よしよし、ならばだ。

「それでは必要な時は起動してください。少しばかり強い治療魔法を試させていただきますから」

 魔法の本を読んで気付いた事がいくつかある。そのひとつが治療魔法についてだ。

 この世界の治療魔法は自然治癒を強化したものだ。自然治癒力を最大最強かつ時間短縮して怪我等を治すという原理のもの。

 この方法では再生できない部分の怪我や病気は治療する事は出来ない。だからヴィラル司祭の故意に切られた腱等は治せない。

 しかし私はある程度日本の医学も知っている。勿論医者ではないし所詮は中学生の知識。プラスしてWebで漁った程度だ。

 それでも再生医療なんて単語も知っている。DNAの中に身体の情報が入っている事も、IPS細胞なんてどの方向にも分化可能な細胞を作れる事も知っている。

 だから魔法での治療に違うイメージで臨む事も出来る筈だ。今まではその必要が無かった。そのせいかこの方法を思いつかなかった。
 だから試すのは初めてだ。しかし試す価値は充分にある。

 さて、それではまず脚から行くとしよう。

「再生治療魔法!」

 私は魔法を起動した。 

 ◇◇◇

 腱や神経をつなぐのはそこまで難しくなかった。
 声帯と喉の怪我はまあ何とかなった。
 鼓膜と骨3つ、蝸牛と三半規管、神経をつなぐのは結構大変だった。
 抉られた眼を完全に再生するのは無茶苦茶魔力を消耗した。

 結果として私は魔力切れ寸前状態。しかし上手くいった手ごたえはある。
 本人に聞いてみよう。

「どうでしょうか。これでほぼ治療は出来たとは思うのですけれど」

「少し待ってください。情報量が多すぎて……」

 そうか。急に視力が回復しても脳がその刺激を認識できないなんて事はあるな。

「急な刺激ですので慣れるまではうまく使えないかもしれません」

「いえ、治療としては完璧です。我ながら予想外の事に戸惑っているだけです。まさか目まで治るとは……これはどのような魔法なのでしょうか」

 DNA情報を利用した再生治療だ。これをスティヴァレ語に置き換えつつ説明する。

「人を形作っている小さな細胞の一つ一つには、実は身体の設計図となる情報が含まれています。

 その情報がどう発現するかでその細胞の形、分化しての増え方が変わります。それを意識した上で、その場所に適した形に新しく細胞を増やしたんです。

 形のコントロールには私自身の身体の同じ部分の組織の構造も参考にしています。そうする事でよりイメージが確実になりますから。
 それ以外は普通の治療魔法と同じです」

 急激に疲労感に襲われていく。
 理由は明白、魔力切れだ。意識すら危うくなりつつある。これはまずい。意識がなくなる前にお願いしておこう。

「すみません。魔力切れでそろそろ駄目そうです。まもなく帰ってくると思うので、あの家からリディナを呼んできてください。それで……」

 意識の限界。周囲がふっと暗闇に閉ざされた。
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