上 下
69 / 323
第17章 開拓団の村

第127話 名の伝わっていない神々

しおりを挟む
 無理に目をあけようとしなくていい。周囲の声も聞きとらなくていい。見えてしまったステータスについても今は忘れて。

 ゆっくり呼吸をする事だけに専念する。ゆっくり吸って、いちど止めて、ゆっくりゆっくり吐いて。

 視界が戻った気配。目を開ける。うん、もう大丈夫。

「済まなかった。もう大丈夫」

「本当に大丈夫?」

「問題ない」

 やらかしてしまった。会った途端いきなり倒れるのは失礼だろう。ステータスを見てしまった事に気づかれたか気づかれなかったかは別として。
 立ち上がって埴輪に頭を下げる。

「申し訳ありませんでした」

「大丈夫でしょうか」

「ええ」

 良かった。取り敢えず今の件について怒ったりはしていないようだ。私、少しだけほっとする。

 リディナが埴輪に向き直る。

「突然訪問していきなりお騒がせして申し訳ありませんでした。私達は護衛の冒険者です。こちらの3名が村のセドナ教会の牧師さんに聞いて、こちらに入植希望という事で同行して参りました」

 リディナがそこまで説明した後、お母さんに目で合図する。
 お母さんが子供2人を連れて一歩前へ。

「アマゼノ村から参りましたタチアナと申します。この2人は私の子でミルコとアリサです。こちらがアマゼノ村のゼルカ牧師様からいただいた紹介状になります」

 封書を渡そうとしてお母さん、いやタチアナさんはとまどう。埴輪には装飾的な手はあるが土製で動きそうにないから。

「このゴーレムは手が動きません。ですので紹介状を開けて頂き、そのテーブルの上に広げて頂けますか。そうすれば読む事が出来ますので」

「わかりました」

 何か教会的に内輪のことが書いてあったらまずいのではないだろうか。そう思ってすぐタチアナさんは文字が読めない事を思い出した。なら問題ない。
 
 埴輪は椅子の上に乗り、穴だけの目を紙の方へ向ける。

「わかりました。タチアナさん、ミルコ君、アリサちゃん。私達はあなた方を歓迎いたします。それではここで少しお待ち頂けますか。案内する者がすぐに参りますから」

 そう言ってもゴーレムそのものはその場から動く様子はない。しかし何らかの魔力が動いた事を感じる。

 おそらく他のゴーレムを使って呼びに行っているか、何らかの魔法で連絡をとっているのだろう。
 
「それで冒険者さんはどうされますか。この時間にこの村を発たれますと、明るいうちに他の集落に着くことは困難だと思われます。
 体調も優れないようですし、もしよろしければ泊まられてはいかがでしょう。空いている部屋もありますから」

 どうしようかな、そう思った時だ。

「ありがとうございます。確かにその通りなので、お言葉に甘えさせて頂こうと思います」

 リディナがあっさりそう返答した。
 そして続ける。

「ですが部屋までお借りしては申し訳ありません。一応寝台付きの車を持ってきておりますからそちらを止めさせていただければ充分です」

「わかりました。それでしたらこの聖堂の横の馬車止めスペースを使って頂けばよろしいでしょう。石畳ですので車も停めやすいですから。広さがありますので開拓団でも半分以上使う事はまずありません。ですから遠慮せずお使い下さい」

「ありがとうございます。そうさせていただきます」

 この辺はうちあわせていなかった。確かに私はこの村が少し気になっていたけれど。
 リディナ、私のその辺の気持ちに気づいてくれたのだろうか。

 ほっとしたと同時に視線が神像の方に向いてしまう。あの覚えのある神像をもう少し見てみたい。

 どうお願いすればいいか、台詞を考えて口にする。

「もう一つお願いがあります。あちらの御神像を見学したいと思うのですが宜しいでしょうか」

 最初は礼拝という言葉を使おうかと思った。しかし他の神の信徒がそう言うのはまずいかもしれない。そう思ってあえて見学と言ったのだが大丈夫だろうか。

 リディナが一瞬だけ驚いた表情を浮かべたのが見えた。確かに普段の私ならこのような申し出はしない。

 ただどうしても向き合ってみたかったのだ。かつて私をここへと送り出してくれた存在と。本人ではなく像であるけれども。

「ええ、どうぞ。
 あちらの像はセドナ神やエールダリア神より更に古い時代に信じられたとされる存在です。一説には七柱とも全て同じ存在の別の顕現であると言われています。

 また現在祀られているセドナ神やエールダリア神、マーセス神やナイケ神といった神様ともやはり同じ存在であり、救いの形を別の顕現をとったものと言われています。

 いずれにせよ古い話で現在の聖典には記載されていません。この言い伝えを邪説だとする者もいます。
 ですが神様という存在と救いというものの性質を考えると、今言った古い説もあながち間違いではない。そう私は思うのです」

 なるほど、今信じられている神々より古い存在とされているのか。
 ならばという事で質問をもう一つ。

「あの神様が何と呼ばれていたか、もしご存知なら教えて頂けますでしょうか」

 名前というのは危険な存在ともされる事がある。本来の名を知られたら操られるなんて考え方も、少なくとも日本の古代にはあったようだし。

 だから名前ではなく、あくまで何と呼ばれていたかという形で尋ねてみた。

「残念ながらどのように呼ばれていたか、今ではもはや伝わっておりません。それほどに古い存在であり、またここも古い場所なのです」

「わかりました。ありがとうございました」

「この聖堂の扉は常に空けてあります。早朝日の出の後、半時間ほど修道士と希望者による説法会がありますが、それ以外は自由に入れる状態です。ですから見られるのでしたら何時でもどうぞ」

「重ね重ねありがとうございます」

 それなら後で1人で見に来ればいいだろう。夜でも灯火魔法を使えば問題ないし。
 
 ところで会話中に私、少し違和感を覚えた。埴輪に対してでも神像に対してでもない。私自身に対してだ。
 何だろう。
 しかしこの時の私はその理由に気づかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。