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第16章 三人の目的地

第124話 三人の目的地

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「わざわざ平民の私達を救うために、本当にありがとうございました」

 中年の女性は深々と頭を下げる。どうやら勘違いをしているようだ。
 まあその辺はリディナに任せておけばいいだろう。

「いえ、私達も平民ですよ。単なる冒険者です。討伐専門で、移動しながら仕事をする関係でこういった車を使うだけで」

「しかし魔法を使えるのは貴族様か、あとはエールダリア教会の方くらいしか……ひょっとして教会の方でしょうか」

 この台詞で私は完全に気付く。この人達にはまだ魔法についての冒険者ギルドの発表が伝わっていない事を。
 
「いえ、教会も関係はありません。単なる討伐専門の冒険者です。ただ魔法を教わって使えるようになっただけですから」

「そうなのですか。いずれにせよ本当にありがとうございます。おかげで助かりました。まさかこんな魔獣が出るとはおもいませんでした」

 女性はもう一度深々と頭を下げる。2人の小さい子供も一緒に。うん、いい子達だ。
 ちらっと見えたステータスで3人は親子と確認。父親がどうしたとかはあえて見ない。今は一緒にいないという事だけわかればそれで充分。

「ところでどちらまで行かれる予定ですか。こちらの道をこの季節に通る事はあまりお勧めできないのですけれど」

 お勧めできないどころではない。街壁や村壁の外に出るなら、働き盛りの大人が最低でも3人以上は必要だ。さもないとゴブリン程度ですら命取りになる。

 ましてや雨期に、こんな人通りの少ない道を通るなんてのは自殺行為に近い。護衛を雇った商人でもまずやらないだろう。

 雨期は魔物出没情報が入るのも遅いし討伐系冒険者があまり動かない。結果として雨期以外より遥かに危険だから。
 なんてのは全てリディナからの受け売りな知識だけれども。

 まあその辺の事情聴取なり教示なりは私の出る幕ではない。
 全面的にリディナにお任せだ。
 
「この先の開拓村まで行くつもりだったのです。ぎりぎりで日のあるうちに着けるので何とかなるかと思っていました。甘い考えだったと思っています」

 この先に開拓村があるのか。知らなかった。
 もっとも新しい開拓村は地図に載っていない場合も多い。だからわからなくて当然と言えない事も無い。

「なら雨もパラついていますし一緒に乗って行きませんか。3人位でしたら十分乗れる余裕がありますから。
 速度は歩くのとそう変わりません。ですが濡れないだけ楽ですし、魔獣や魔物も気にしないで行けますから」

 うちのゴーレム車は3人乗り。しかしテーブルは6人分の広さがあるし、当然椅子もそれくらいには長い。更に言うと最後部のリディナ用ベッド(まだ未使用)を座席代わりに使えば更に3人位は乗る事が出来る。

 流石に大人の男性が9人乗ったらバーボン君の足を一番短いモードにしてゆっくり歩かなければ進まないだろう。
 でもこのお母さんと子供2人程度なら問題ない。

「すみません。助けて頂いた上大変申し訳ないのですが、お願いしていいでしょうか」

「ええ、勿論です。どうぞ」

 リディナはテーブルより後ろ部分、つまりリディナとセレスがいつも使っている座席とリディナのベッド部分に乗せるようだ。

 私がテーブルの前部分を独占する形になってしまうのが少々申し訳ない。私は他人が苦手なので仕方ないのだけれども。

 ゴーレム車はゆっくりと動き始める。

「軽く間食でも食べましょうか。フミノ、適当にお願いしていい」

「わかった」
 
 リディナの軽くは私の重く、というのは半ば冗談で実は事実。まあそんな感じで以前購入した揚げ焼きフリーツァとパンザロットをあわせて人数分出す。

 今回はどっちも中身は肉トマトチーズ。本来、私の好みは林檎&バターとかマーマレード等の甘いもの。しかし今回乗せた3人を見て栄養をとれそうなものを選択。

 あと飲み物も人数分。雨の中歩いていた3人が疲れているだろうから甘い乳性飲料で。なお濡れていた3人の服装はリディナが何気なく魔法で乾かしている。

「どれでもどうぞ」

「いえ、ですけれど載せて貰った上でこれでは申し訳ありません」

「気にしないで下さい。魔獣退治は仕事ですし、こういった物は行動食として大量に買ってありますから。あと飲み物もどうぞ。甘いので疲れが取れますよ」

 本当に冗談ではない位に大量に買ってある。実際に見せてやりたい程だ。しかしそれはそれで洒落にならないのでやめておく。多すぎて身動きがとれなくなるから。

「はい、君達も1個ずつどうぞ。焼いてある方と揚げてある方どっちがいい? 中身はどっちもトマトとお肉とチーズのミックスだよ」

「うーん、なら私、こっち。お兄ちゃんはもう1つの方で半分こしよう」

 小さい女の子がそう言って2個取って、片方を男の子に渡す。うんうん、仲がいい兄妹のようで宜しい。
 ちなみの男の子の方が6歳、女の子が4歳だ。ステータスをさっと見たところでは。
 
 そんなこんなで間食、開始。

「ところでこの先に開拓村が出来たのですか。まだ地図には載っていませんでしたけれど」

「この先ラテラノの丘陵地帯にあるそうです。生命の神セドナ教会の運営で、エールダリア教会から移った修道士さん達が中心になって開拓を進めているそうです。そこでは他で暮らせない者も迎え入れてくれると聞きました」

 おっと、エールダリア教会がこんなところに出てきたか。思わず大丈夫かなと思ってしまう。何せエールダリア教会の悪い評判は何度も聞いているから。

 勿論悪そうな大幹部は国外追放になっただろう。下々にはまっとうな専従員もいるだろう。どうしてもその辺心配になってしまう。

「その開拓村の話、初めて聞きました。どちらから聞かれたのですか?」

「アマゼーノ村にある生命の神セドナ教会の牧師さんからです」

 生命の神セドナ教会についても一応程度の知識はある。確か農村部を中心に定着している教会だ。困窮者に対する救護等もやっている。

 知識の神エールダリアと生命の神セドナは同じ神の別の顕現だなんて話もあった。以前エールダリア教会について百科事典で調べた時にそんな事が書かれていたのだ。
 そういう意味では合流したのは正しいのかもしれない。神学的には。

 しかし具体的にどんな性格の宗教なのか、私は知らない。それに私は元日本人、どうしても宗教と聞くと身構えてしまう。
 その辺は後にリディナに聞いてみよう。少なくとも私よりは知っていると思うから。
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