上 下
63 / 323
第15章 予想外の視点?

第121話 変身 

しおりを挟む
 図書館に寄って本を買い込んだ後、街の西門から出る。

 ラツィオはここから西、中央山地を抜けて150離300km程。改良バーボン君が牽くゴーレム車なら昼間ずっと移動し続けて5日間の距離だ。

 急ぐ旅ではない。何かあれば立ち寄ってもいいし、いい狩り場があれば滞留してもいい。狼魔獣の討伐依頼なんてあったらしめたものだ。あれは盗賊よりいい金になる。
 そんな不埒な事まで考えつつのんびりゴーレム車を操縦。

 ただしゴーレム車内はいつもと様子が少し異なる。

 ゴーレム車内のレイアウトを変更した結果、後部に少し空きスペースが出来た。セレスのベッドの下にあたる位置だ。

「この場所使っていい? 塩漬けや魚醤漬けの肉、長期発酵のパンなんかを寝かせておきたいの。自在袋やアイテムボックスの中に入れておくと時間経過がなくて熟成しないから」

 リディナに言われてなるほどと思う。確かにそういう使い方もあるなと。
 しかしその場所を使っていいか決めるのは私ではない。

「そこはセレスの寝場所。だからセレスと相談」

「何ならセレス、寝る場所代わらない? 私はこっちの方が食べ物の面倒見れるから」

「それは構いませんけれど、いいでしょうか」

「勿論。どうせフミノの事だから寝心地は3カ所とも同じにしてあるでしょ。それに普段はお家を出して寝ると思うし」

 私は頷く。勿論その通り作ってあるし、本人同士の了解があれば別に構わない。
 そんな訳でリディナはゴーレム車後方のレイアウト整理を始めた。更にはパン種なんて捏ねたりもしはじめる。

「ところでフミノさん。この車を動かしている間は本を読んだり出来ないんですよね。なら今のうちに髪や眉を整えたり服をあわせたりしてもいいですか。
 フミノさんは座ったまま動かなくて大丈夫です。作業は全部私がやりますから」

 セレスがそんな事を言った。正直私の苦手分野だ。でも嫌とは言いにくい。
 せっかくセレスがやってくれるというのだ。ここは恐怖耐性(2)で何とか耐えるとしよう。

「わかった。お願い」

「前髪や眉に手を加えてもいいですか」

 私の前髪は長めに揃えている。理由は単に面倒だからだ。日本にいる頃は家からお金を貰えないのでセルフカットしていたなんて事もある。後ろを伸ばしているのも同じ理由。特にこだわりとかはない。
 ただ少し気になる事がある。

「切るのは大丈夫。でもはさみとか刃物、ある?」

 セレス、そういった持ち物は持っていなかった気がするのだ。

「大丈夫です。毛を抜いたり切ったりするのは魔法で出来ますから。生物関係だから水属性で出来ないかなと思って試したら出来たので。何度も自分でやってみたので大丈夫です」

 そんな技、いや魔法があるのか。興味が無いから全然気がつかなかった。

「それじゃ頑張りますね」

 魔法でやるなら動いているゴーレム車内でやっても怪我とかの心配は無いだろう。それにどうせ元が悪いから上手くいっても失敗しても大した事はない。そう思いつつも私は目を閉じる。

 セレスであってもすぐ近くで私に対して作業をするというのは結構怖い。目で直接見ると更に怖いから目をつむって耐えようという訳だ。

 顔に触れたり髪を切ったり整えたり、すぐ近くで魔法が発動している感覚は消せないけれど、出来る限り無視の方向で。

 バーボン君と偵察魔法の視界をメインにする。努めて自分そのもののすぐ近くから意識を遠ざけ、バーボン君操縦と魔物討伐に専念だ。

 幸いセレスにもかなり慣れたのだろう。恐怖耐性(2)が塗りつぶされるような感覚は無い。しばしこのままで何とかなりそうだ。

 ◇◇◇

 やはり海側より山側や台地側の道の方が討伐が捗る。勿論この道がそれほど人通りが多くないという事もあるのだろうけれど。

 ゴブリンも多いし猪魔獣なんて大物もたまにいる。角兎も魔羚羊もいい感じで多い。討伐だけなら海沿いより内陸部へ入った方が成果が多い模様だ。

 ゴブリンは半身を埋めた後、丸太を上から出して撲殺的処理。魔獣は埋めて窒息死させるのが基本だ。

 魔獣は普通の獣より生命力が強い。完全に埋めても死ぬまで5分位はかかる、

 しかしこのゴーレム車は遅い。道が上り坂だから脚を短くしているというのもある。

 だからそのくらいの時間なら余裕で回収範囲内だ。場所さえ忘れなければ問題ない。

 自分がメイクアップ中という現状から逃避しつつ、操縦と狩りを続ける。

 中ボス格を発見。熊魔獣だ。単独行動中のオスだな。これはいいお金になる。さくっと殺っておこう。

 正面から向かって倒すのは大変だ。しかし遠隔討伐なら他の魔獣や魔物とやる事はほぼ同じで穴を掘って埋めるだけ。

 熊魔獣とは言え窒息死するまでの時間は他の魔獣と大差ないだろう。そう思ったのだが予想以上に粘る。死なない。

 大丈夫だろうか。折角倒したのに回収できないと悲しい。
 最悪の場合は理由を話して少し待とう。そう思ったが何とか制限範囲ぎりぎりで無事死亡。回収出来てほっと一息。

 うん、今日は午後だけでなかなか儲かった。この調子なら魔法金属資金も結構貯まりそう。そう思った時だ。

「うーん、こんな感じでどうでしょうか。フミノさん、確認して頂けますか」

 すぐ近くで声がした。おもわずびくっとしてしまう。それでも何とかバーボン君に影響しないで済んだ。
 大丈夫、セレスが私のメイクアップを終えただけ。それはわかっているのだけれど。

 念の為ゴーレム車を脇に寄せて停車する。

「ありがとう」

「どうしますか。鏡を出すなら私が持ちますけれど」

「大丈夫。偵察魔法で見る事が出来る」

 所詮素材は私だ。変身しても毒虫程度だろう。そんな文学かぶれみたいな事を思いつつ目を開ける。偵察魔法の視界を私の正面に持って来る。

 女の子が2人、視界に入った。1人は以前のやつれていた状態から回復して表情も変化し、可愛くなったセレス。

 もう一人は何処かで見覚えのある女の子。それが誰かは理性ではわかっている。セレスの位置と背景で自明だ。
 しかし印象は私の知っているものとかなり違う。

 念の為試しに左手を上げてみる。彼女の左手も上がった。論理的に私だ。顔のパーツに見覚えもある。

「どうですか?」

「思った以上。かなり変わった」

 正直自分でも驚いている。

「メインは髪型なんです。これだけでかなり印象が変わります。以前の髪型はちょっと重い感じがしたので前髪の長さをすこし短くしてさっぱりさせました。髪全体も少しだけ短くして揃えました。あとは産毛をそってまつ毛と眉毛を整えただけです。

 勝負の時はこれに加えて服も少しアレンジします。フミノさんの場合は今の色合いより本来は群青等の青系統の服が似合うと思うんです。上にこれを軽く羽織るだけでももっと印象が変わると思います」

 そう言ってセレスは私の服の上に群青色の簡単な上着を重ねる。着せるのではなく前にあわせただけだ。

 それでも明らかにまた印象が変わった。たしかにこれは可愛いかもしれない。ただふわっと可愛い系ではなく、意志の強さも感じる。

 なるほど。私はセレスが言っていた事をやっと理解した。

『お洒落すると少しだけ自分に自信を持てる気分になりますよね』

 確かにそうかもしれない。いやそう思える。

「予想以上だった。正直驚いた」

「かなり変わるんだね、本当に。あとで私がやってもらうのも楽しみかな」

「ええ、任せて下さい」

 確かにこれなら少し自分が変わった気になれる。もう少しだけ人が平気になれるような気もする。

 ならステータスはどうだろう。見てみて思わず笑いそうになった。恐怖耐性が(3)にアップしていたのだ。

 私、やっぱりセレスの作業にかなりストレスを感じていた模様。勿論これは言わぬが花だけれど。

 いや、今の変身で持てた自信のおかげで耐性がアップしたという可能性もあるかな。
 うん、今日はそういう事にしておこう。とりあえずは。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。