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第13章 事件発生

第101話 日本で見たような料理

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 本日の夕食は肉煮込み。定番だなと思ったら少し違う。

「鹿肉が減ってきたから今日のは羚羊肉。調理法も変えてみたよ。煮込みじゃなくて焼き煮って言うんだけれどね。味付けもかなり濃いめ。
 セレスの口にあわないようなら言って。他のメニューのストックもあるから」

 確かに汁が少な目で色も濃い。こんな料理は過去に作っていない筈。という事はだ。

「私が出た後、料理したの?」
「帰ってくるのが遅くなりそうだと思ったから」

「ゴブリンを倒したり盗賊を見はったりしながら?」
「最初に来たゴブリン2匹を倒した時言っておいたの。『うるさいと魔物が寄ってきやすいよ。あと私の攻撃魔法はもう1人と違ってこれしかないから大人しくしていて』って。そうしたら後は静かなものよ」

 完全に脅しだ。風の刃ヴェントス・ファルルムでゴブリンをすっぱりやった後にこんな事を言われたら、確かに黙るしかない。
 リディナ、逞しくなったな。

「それより早く食べよ。フミノの感想も聞きたいし」

 そんな訳で早速いただく。あれ、甘い。そして肉がやっぱり違う。牛肉っぽい?

「牛の肉っぽい」
「うん、羚羊は牛に似た味なんだよ。食べ比べると少しだけ味が濃い感じかな。だから味付けは濃い目がいいの」

 それで今までと違って濃い目の甘辛味という訳か。
 あと何か似た味を知っているような気がする。気のせいだろうか。

 そうだ、思い出した。すき焼きだ。
 調味料はかなり違う。醤油ではなく魚醤で砂糖ではなく水飴、なおかつ香草類も入っている。
 しかし全体としては間違いなくすき焼きの味だ。

 見かけはすき焼きではない。1人ずつ皿に盛ってあるし豆腐も白滝もない。しかし舌がすき焼きだと訴える。

 よろしい。ならばこうしてやろう。
 私は適当な深皿を7枚、平皿を1枚出す。深皿の1つには卵を6個入れ、平皿にはご飯を軽く盛る。こっちのご飯は共用分。
 あと自分用に小さめの深皿1つに軽くご飯を盛ってと。

 出した生卵は『生みたてすぐに自在袋に入れたので生でもOK』という触れ込みのもの。なお鶏ではなくアヒル系の鳥の卵だ。この国では鶏ではなくアヒルが一般的だから。
 大量に買ってあるのでこれくらい使う分には問題ない。

「フミノ、それどうするの?」
「こうする」

 1枚深皿をとって卵を割って入れてかき混ぜる。煮込みの味がたっぷり染みた肉をとって生卵につけ、ご飯と一緒にいただく。

 美味しい。高級なすき焼きの味がする。そんなの食べた事は無いけれど。

「それってフミノの国の食べ方なの?」
「よく似た料理がある。それ専用の食べ方」

 まさかこんな処で本格的すき焼き……ではないけれど似たようなものを食べるとは思わなかった。でも美味しい。ああ食が進む。

「セレスも遠慮しないでどうぞ。フミノの食べ方は真似してもしなくてもいいからね。あと口にあわなかったら言ってね」
「私が食べていいんですか?」
「勿論。お金もかかっていないしね。お肉はフミノや私が狩った時に傷つけちゃって高く売れないものを使っているから。遠慮しないでどうぞ」

 リディナの風の刃ヴェントス・ファルルムを使うと獲物が両断されてしまう。そうなると売値が落ちてしまうので自家消費となる訳だ。

 鹿や羚羊、オーク等の肉や皮に価値がある魔獣や魔物を討伐する時は出来るだけ私の土埋め作戦で仕留める。それでも移動速度が速かったりすると狙えない場合もある。

 結果として自家消費用のストックはたまっていく。しかしそれも悪くない。こうやって食事が豊かになるのだから。

「ありがとうございます」
 
 セレスはそう言ってから、まずはパンをそのまま口にする。

「美味しいです。柔らかいし風味も良くて」
「ありがとう。それ私が焼いたんだ。買うより安く出来るし材料も好みのを選べるしね。あとはおかずもどうぞ。ラルドも自由に使って」
「でも申し訳ないです。服も借りてしまっていますし、返せる当てもないですから」

「気にしないで。フミノは確か5着は同じ服を持っている筈だし。取り敢えず今日は食べてぐっすり寝て」
「ありがとうございます」

 よしよし、セレスもおかずを食べ始めた。

「この焼き煮という料理も美味しいです。初めて食べました」
「ここより北の中央山地の方、パスタライ地方の料理なんだ。あの辺は羚羊が結構出るから。
 羚羊が獲れたら大きくて平たい鉄鍋でこの焼き煮を作るの。最初に脂を入れて焼いた後、香草と酒とお肉を入れて焼いて、タレを入れて、最後に野菜を入れて煮えたら完成」

「よく食べられるんですか」
「この前までは鹿肉を使っていたから作っていなかったな。これは羚羊のお肉で作るものだから。あと丁寧に話さなくていいよ、普段の話し方で」
「わかりました」

 うーむ、これが地なのだろうか。あとやっぱり声や表情に感情が感じられない。
 あとセレスが今後どうするかという心配もある。家族や頼れる親戚とかがいるかどうか。

 ステータス表示での年齢は11歳。この齢では孤児院等の保護施設に入るのは無理だろう。
 かといってちょうどいい仕事がすぐに見つかるとは限らない。

 今のところはリディナ、セレスに細かい事を聞かない方針のようだ。ならとりあえずリディナに任せよう。対人技能が私とリディナでは天と地ほどの差があるから。

「うーん、やっぱり卵を生で食べるのって抵抗あるよね。試すかどうか迷うな」

 リディナが私の食べ方を見てそんな事を言う。
 よし、それならば次の提案だ。

「こういう料理法もある」

 もう一つ皿を出す。焼き煮のおかずを皿に並べるように載せて汁をかけ、上に溶き卵を回しかける。焼き煮の方から熱を通して沸騰したら卵の表面だけさっと熱をかけて軽く固める。

 深皿にごはんを軽く盛る。この上に今作った卵とじを汁ごとかければ完成だ。

 すき焼きの卵とじ丼、いや開化丼というべきだろうか。その辺の厳密な定義は私も知らない。ここは日本ではないから関係ないけれど。
 念のため試食。うん間違いない味だ。

「食べてみて。こんな感じ」

 皿ごとリディナに渡す。
 リディナ、受け取ってまずは卵部分から口に運ぶ。次にご飯と一緒に。更にはお肉やおかずの入った部分とご飯を一緒に。

「あ、これ美味しいかも。これもフミノの国の食べ方?」
「そう」
「ならやってみるね」

 ならという事で深皿を追加で4皿出す。早速リディナが調理を開始。
 やはり私よりリディナの方が手つきも魔法も上手だ。この辺は料理技能の差なのだろう。

 リディナは作った卵とじ丼をセレスに渡した。

「試しに食べてみて。お米の料理はあまり一般的じゃないからあわないかもしれないから。
 駄目なら私が食べるし、好きならもう1個私分を作るから。ただ無理して食べないでね。好みもあるし」
「ありがとうございます」

 セレスは最初の一口をゆっくり口に運び、そして更に二口食べて頷く。

「美味しいです。クスクスとはまた少し違った味と食感なんですね。上のおかずとよく合います」
「味をつけないまま米をふっくらさせるのがフミノの国のやり方なんだって。私もわりと好きだからうちの夕食はこのお米を出す事も多いんだよ」

 リディナはセレスが更に食べるのを見て、自分用の卵とじ丼を作り始めた。

 それにしても物凄く久しぶりだ。甘い料理を食べるのは。
 フルーツ系とかおやつ系なら確かに甘い味のものもあった。しかしおかず系の料理ではおそらくこの世界に来て初めて。

 これは何かに応用が出来そうな気がする。丼系だけではない。他にも何か甘味を使えそうな気が。
 今すぐには思いつかない。しかし何かあったような気がする……
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