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第12章 急がない旅だから

第95話 一時滞在の後に

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 あの海岸を脱出するのに3日もかかってしまった。リディナが釣りに目覚めてしまった為だ。

 本日出発できた理由は天気のおかげ。
 早朝からそこそこ激しい雨模様で波も高い。つまり釣りには厳しい天気だった訳だ。
 これが晴れなら更にもう少し滞在が続いたに違いない。

「この釣りって遊び、面白いよね。今まで知らなかったけれど。でもこれ、知られればきっと流行ると思う。週に一度の休息日なんてやる事無くて昼寝している人も多いんだから。

 やっぱり自由にならない海の中の魚相手に餌と知恵で戦いを挑むところが楽しいよね。釣った魚は美味しく食べられるし。道具を売り出せば絶対売れると思う」

 此処へ来た初日の夕方、リディナにそう力説されてしまった。そして実際、翌日も翌々日も朝ぎりぎり明るくなりはじめた頃からリディナはずっと釣りをしていたのだ。

 問題はエビだ。最初にエビを餌に使ったから、餌=エビと思ってしまったのだろう。放っておくとせっかく大量に購入したエビの全てが釣り餌に使われそうだ。

 それではあまりに悲しすぎる。だから途中から私が獲った貝や釣れた魚の切り身などを餌に変更させてもらった。
 おかげで無事エビマヨも食べる事が出来た。めでたしめでたし。

 勿論リディナだけではない。私もかなり楽しんだ。調子にのって仕掛けだの釣り道具だのいくつも作ってしまったし。
 原始的だけれど投げ釣りもできるリールつき竿セットとか、投げ用天秤おもりとか、コマセかご付き飛ばしウキとか。

 リディナは釣り専業だが私は魚以外も採取している。ウニとか貝とか海藻とか。
 服が濡れても魔法で乾燥できるし真水だって出せる。だから濡れるのは怖くない。なので多少涼しくても思い切り海へ入っていける。採取に必要な道具は無ければ作るまでだ。

 たが残念ながら作れなかったものもある。水中眼鏡だ。
 勿論作ろうとはしたのだ。しかし砂浜の砂とその辺の草、貝殻では透明で頑丈なガラスを作ることが出来なかった。

 もうすぐ寒くなるから来年までには作ろう。そんなしょうもない決意をしたりもする。

 更にゴーレムのバーボン君の分解整備もやった。これで仕組みはおおよそ理解できた。材料が揃えば改良も出来そうだ。
 今度行った街で金属材料を買っておこう。そう私は決意。

 ここにいる間、食事には困らなかった。
 朝食や昼食は購入したテイクアウトや移動中に作ったおにぎり、握りずし、軍艦、太巻き、細巻きがある。

 そしてリディナ、釣った魚は味をみたいという事である程度釣ったら調理しまくる。だから夕食も困るどころかむしろおかずが多くて楽しい位。

 私も採取した貝だの海藻だのを出した。怖かったけれど生牡蠣にも挑戦。新鮮だからかアイテムボックスで殺菌殺ウィルスしたからか当たらずに済んだ。

 リディナは牡蠣の形が気持ち悪いと言って最初は食べなかった。だが私が生や焼いたのをレモン汁で食べているのを見て挑戦。

 結果的にはかなりお口にあった模様で私が採取した20個ちょいが全滅した。なおリディナの好みは生より焼ガキだそうだ。
 
 さて、そんな訳で本日は曇り時々雨。
 しかし天気が悪くても魔物討伐は捗る。雨だとスライム系の魔物が出易くなるのだ。
 スライムは乾燥が苦手で気温低めが好き、明るすぎたり暗すぎたりするのが苦手だから。

 しかしスライムはいつものゴブリンと同じ戦法では倒せない。上から木材を落としても死なないのだ。妙な弾力性がある為、落とした丸太等を跳ね返すか、スライム自身が無傷のまま跳ね飛ばされるか。

 だから鋭い刃物で相手をするか魔法で攻撃する必要がある。

 攻撃魔法があれば簡単に倒せる。スライム系は概ね熱線魔法や冷却魔法に弱いから。しかし私のレベル3程度の魔法では狙いをつけて発動するまでの間に逃げられてしまう。

 重い岩で潰す、熱した岩を落とす等の試行錯誤した結果、私はスライムを効率よく倒すために専用の槍を開発した。

 これは先端に鋭くて重い穂がついて後部には矢のように羽根がついている代物だ。使い方は簡単。この槍をスライムの上1腕2mのところに槍の穂の部分を下にして出現させるだけ。

 この槍は矢じりの重さと後ろにつけた羽のおかげで真っすぐ下へと落ちる。結果重く鋭い槍の穂部分が重力でスライムにぶすっと突き刺さるという仕組みだ。

 スライムの討伐褒賞金はゴブリンと比べても安い。ゴブリンは1体小銀貨3枚3,000円なのに一般的なグリーンスライムでは1体正銅貨5枚500円。素材も取れないので儲けはこれだけだ。

 その代わりこんな日はとにかくスライムが出まくる。旧街道のように人通りが少ない癖に集落からそう遠くない道ともなるとなおさら。多い場所では10腕20mに1匹くらいの割合で湧いていたりもする。

 こうなると私も忙しい。ゴーレム車のゆっくりな速度でも私の作業がてんてこまいになる。でもその分儲かる。それはそれで悪くない。

 小さい集落の近くを通り過ぎ、数えるのも面倒なくらいスライムを倒して収納。
 そんな事をしていたらリディナに言われてしまった。

「やっぱりフミノ、何処ででも生きていけそうだよね」

 いやリディナ、それは違う。

「人が多い所は無理」
「それもそうか」

 そうなのだ。あと冒険者ギルドに一緒に行ってくれる人も必要。
 混んでいるか怖そうな人がいないかとか、中の様子は偵察魔法でもわかる。ただ受付が若い女性でも初対面だとうまく話せない。何か言いたい事があっても口に出せない。

 うん、やっぱり私、まだまだ駄目駄目だ。
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