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第12章 急がない旅だから
第92話 ある崩壊
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その日はサンデロントの1離手前で宿泊。次の日朝6の鐘とほぼ同時に街に入る。
サンデロントは活気のある街だった。貿易港も漁港もあり、この辺の中心地として栄えている。人通りも多い。つまり私向きではない街だ。
それでも市場が充実しているのはありがたい。アコチェーノは必要なものは揃っていて安いのだがそれ以上では無かったから。
魚介類の他、卵も米も酢もオリーブ油もと買いまくる。正確にはリディナに御願いして買ってもらうのだけれど。流石に朝一番で活気がある中、私が自分からその中に突っ込むのは不可能だ。
ただ面白い情報も耳にした。
「そう言えば王家の紋章付きの早馬が走っているのを見たって奴がいるよな。あれ何なんだ」
「どうやら全国の男爵以上の領主が一斉に王都へ呼び出されるらしい。新聞に載っていたぜ」
そんな話が聞こえたのでリディナに頼んで図書館に寄り、新聞を3紙ほど購入。
図書館でも新聞は購入のみで読むだけという事は出来ないから仕方ない。お値段は1枚正銅貨1枚だから別にいいけれども。
なおこの国の新聞は日本でイメージするような大型で何枚もあるようなものではい。A3位の紙の両面にびっしりと文字が並んでいるという代物だ。
基本的には週刊で、他には大きなニュースがあった時に発行されるらしい。今回は大きなニュースに相当する模様だ。
気になったのでそのまま図書館で新聞3紙をリディナと2人で一気に読む。
「やっぱり大事になっている様ね」
記事は3紙ともおおむね予想通り。
冒険者ギルドが魔法適性とステータスについて発表した内容。
それについてのエールダリア教会による反論と国王による措置。
貴族の王都一斉召喚命令についても書いてある。これは各貴族がエールダリア教会側につかないよう踏み絵を迫る為ではないかという事だ。
「エールダリア教会、随分嫌われている」
私は元々無宗教的現代日本人。だから宗教というものにあまりいいイメージをもっていない。
しかし世界史の教科書等での印象ではもっと宗教って絶対的なものというイメージがある。国以上に権力を持っているなんてのも歴史の本の中では普通だ。
しかし新聞の記事を読んだ限りではエールダリア教会、少なくともこの国では相当に嫌われている。
まず今回冒険者ギルドが発表した内容を受け、国がエールダリア教会に対して活動停止命令を出している。更に国王査問及び最高審判会の開催を布告しエールダリア教会側に従うよう命じている。
勿論エールダリア教会も反撃している。
冒険者ギルドが発表した魔法の知識を『悪魔の教え』であり『神及び人間に対する絶対悪からの挑戦である』という意見書を教皇名で発出。
更に『悪魔の教え』によって起こった間違った行動に対し徹底抗戦するべきだという聖戦宣言まで出している。
しかし新聞では教会のこれらの動きは『噴飯もの』と書かれているし、国が活動停止命令を出したのも『当然』とある。
民間というか庶民の立場ではまだ理解できる。しかし王族や貴族は違う判断をしてもおかしくない。
今までの状態なら魔法適性の有無で庶民と貴族以上を差別化出来る。しかも教育にも携わっているなら思想的に教会の色に染められていてもおかしくないだろう。
だから国王や貴族は教会的価値観を維持する方を選んでもおかしくないと思うのだ。しかし実際は国王側も教会を非難し排除する方向へと向かっている。
「何故だろう」
「魔法適性の診断を独占しているのをいい事に、散々やらかしているからね。教育を独占したり王族や貴族の後継問題に口出ししたり。
しかも事あるごとに莫大な寄付金を要求する。だから貴族家でもまともなところなら嫌っている方が多いと思うよ。魔法の権威だったからこそ逆らえなかったというだけで」
リディナが教えてくれた。
彼女はここで一呼吸おいて、更に続ける。
「今の王家からも相当嫌われている筈よ。過去、王権に対しても教会からの介入は相当に強かったから。
国王は4属性以上の魔法適性を持っていないと国王位につけないって規定があってね。過去数回それで本来の皇太子ではなくエールダリア教会の推す者が国王位についていたりするし。
今の国王も皇太子時代散々横槍を入れられているからね。今の国王は幼少の頃から魔法の才能があったからエールダリア教会得意の『魔法適性が無いから国王と認めない』は使えなかったけれど。
それでもやれ神のお告げ的にはふさわしくないとか事あるごとにやっていたという話だしね。教会は当時第二王子殿下を推していたから。理由は馬鹿で扱いやすいからだろうって言われていたかな。
そう言えば今の国王の次女、第二王女殿下は魔法適性がないという事で王族から一般籍へ下らされていたなんて事もあった筈。あれも単にエールダリア教会の嫌がらせだったのなら、なおさら教会に苛烈な態度をとってもおかしくはないよね」
リディナにここまで言わせるという事は相当なものなのだろう。エールダリア教会の悪行は。
それにしてもリディナ、第二王女の事を知っていたのか。それともそういう事があったという事そのものは有名な話なのだろうか。
気になるのでちょっとその辺を突っ込んで聞いてみる。
「その第二王女殿下、その後どうなったのか知っている?」
「ううん知らない。王族なのに魔法の適性が無いというのは恥だとされるからね。公にしなかったのよ。
それでも今の王の実の娘だしね。殺されるとか本当に庶民として暮らしているって事はないんじゃないかな。多分何処かの貴族か何かの預かりになっているんだろうと思う」
なるほど。リディナはその辺の事情は知らないと。つまりその辺は一般には明らかにされていないという事か。
私は少しだけほっとする。
一方で本件についてのリディナの解説は続く。
「エールダリア教会は金持ちと貴族以上しか相手にしなかったからね。庶民の支持者はほとんどいない。その上で国王にも嫌われていて、かつ今までの力の拠り所を完全に否定された。
勿論エールダリア教会の全てが悪いという訳じゃない。学校の先生の中にはいい人もいたし、修道士さんにも真面目な人は大勢いたしね。本当の意味で信心深い人もそれなりにいたとは思うよ。
ただ教団上層部の姿勢が長年そんなだったからね。少なくともこの国でエールダリア教会が組織として存続するのは無理じゃないかな。
多分ある程度以上の幹部は本拠地であるアエルダリス教国へと追放。それ以外は他の教団に吸収されるか新しい別の教団として活動する事になると思うよ。実際修道士とかは教団外に生活場所がないしね。
今までの特権や大都市の一等地にあった教会施設の土地や建物、学校施設を没収。その代わりに新規の開拓地でも与えられてそこで一から出直し。
その辺が妥当な落としどころになるんじゃないかな。きっと他の国でも似たような事になると思うよ」
なるほど。
そう言えばリディナの説明を聞いて、ひとつ思い出した事がある。
「リディナが魔法を使えないと言ったのも教会?」
「あの学校も勿論、運営はエールダリア教会よ。考えてみれば貴族以外は全員そういう判定だったな。庶民は少ないから気付かなかったけれどね」
とりあえず新聞記事とリディナの説明でエールダリア教会については理解した。組織としては救えないし救う価値は無さそうだと私は思う。むしろこうなったのが正しいとさえ感じる。カレンさんも正常化と言っていたし。
下々の良心的な専従員は可哀そうだとは思うけれども。
サンデロントは活気のある街だった。貿易港も漁港もあり、この辺の中心地として栄えている。人通りも多い。つまり私向きではない街だ。
それでも市場が充実しているのはありがたい。アコチェーノは必要なものは揃っていて安いのだがそれ以上では無かったから。
魚介類の他、卵も米も酢もオリーブ油もと買いまくる。正確にはリディナに御願いして買ってもらうのだけれど。流石に朝一番で活気がある中、私が自分からその中に突っ込むのは不可能だ。
ただ面白い情報も耳にした。
「そう言えば王家の紋章付きの早馬が走っているのを見たって奴がいるよな。あれ何なんだ」
「どうやら全国の男爵以上の領主が一斉に王都へ呼び出されるらしい。新聞に載っていたぜ」
そんな話が聞こえたのでリディナに頼んで図書館に寄り、新聞を3紙ほど購入。
図書館でも新聞は購入のみで読むだけという事は出来ないから仕方ない。お値段は1枚正銅貨1枚だから別にいいけれども。
なおこの国の新聞は日本でイメージするような大型で何枚もあるようなものではい。A3位の紙の両面にびっしりと文字が並んでいるという代物だ。
基本的には週刊で、他には大きなニュースがあった時に発行されるらしい。今回は大きなニュースに相当する模様だ。
気になったのでそのまま図書館で新聞3紙をリディナと2人で一気に読む。
「やっぱり大事になっている様ね」
記事は3紙ともおおむね予想通り。
冒険者ギルドが魔法適性とステータスについて発表した内容。
それについてのエールダリア教会による反論と国王による措置。
貴族の王都一斉召喚命令についても書いてある。これは各貴族がエールダリア教会側につかないよう踏み絵を迫る為ではないかという事だ。
「エールダリア教会、随分嫌われている」
私は元々無宗教的現代日本人。だから宗教というものにあまりいいイメージをもっていない。
しかし世界史の教科書等での印象ではもっと宗教って絶対的なものというイメージがある。国以上に権力を持っているなんてのも歴史の本の中では普通だ。
しかし新聞の記事を読んだ限りではエールダリア教会、少なくともこの国では相当に嫌われている。
まず今回冒険者ギルドが発表した内容を受け、国がエールダリア教会に対して活動停止命令を出している。更に国王査問及び最高審判会の開催を布告しエールダリア教会側に従うよう命じている。
勿論エールダリア教会も反撃している。
冒険者ギルドが発表した魔法の知識を『悪魔の教え』であり『神及び人間に対する絶対悪からの挑戦である』という意見書を教皇名で発出。
更に『悪魔の教え』によって起こった間違った行動に対し徹底抗戦するべきだという聖戦宣言まで出している。
しかし新聞では教会のこれらの動きは『噴飯もの』と書かれているし、国が活動停止命令を出したのも『当然』とある。
民間というか庶民の立場ではまだ理解できる。しかし王族や貴族は違う判断をしてもおかしくない。
今までの状態なら魔法適性の有無で庶民と貴族以上を差別化出来る。しかも教育にも携わっているなら思想的に教会の色に染められていてもおかしくないだろう。
だから国王や貴族は教会的価値観を維持する方を選んでもおかしくないと思うのだ。しかし実際は国王側も教会を非難し排除する方向へと向かっている。
「何故だろう」
「魔法適性の診断を独占しているのをいい事に、散々やらかしているからね。教育を独占したり王族や貴族の後継問題に口出ししたり。
しかも事あるごとに莫大な寄付金を要求する。だから貴族家でもまともなところなら嫌っている方が多いと思うよ。魔法の権威だったからこそ逆らえなかったというだけで」
リディナが教えてくれた。
彼女はここで一呼吸おいて、更に続ける。
「今の王家からも相当嫌われている筈よ。過去、王権に対しても教会からの介入は相当に強かったから。
国王は4属性以上の魔法適性を持っていないと国王位につけないって規定があってね。過去数回それで本来の皇太子ではなくエールダリア教会の推す者が国王位についていたりするし。
今の国王も皇太子時代散々横槍を入れられているからね。今の国王は幼少の頃から魔法の才能があったからエールダリア教会得意の『魔法適性が無いから国王と認めない』は使えなかったけれど。
それでもやれ神のお告げ的にはふさわしくないとか事あるごとにやっていたという話だしね。教会は当時第二王子殿下を推していたから。理由は馬鹿で扱いやすいからだろうって言われていたかな。
そう言えば今の国王の次女、第二王女殿下は魔法適性がないという事で王族から一般籍へ下らされていたなんて事もあった筈。あれも単にエールダリア教会の嫌がらせだったのなら、なおさら教会に苛烈な態度をとってもおかしくはないよね」
リディナにここまで言わせるという事は相当なものなのだろう。エールダリア教会の悪行は。
それにしてもリディナ、第二王女の事を知っていたのか。それともそういう事があったという事そのものは有名な話なのだろうか。
気になるのでちょっとその辺を突っ込んで聞いてみる。
「その第二王女殿下、その後どうなったのか知っている?」
「ううん知らない。王族なのに魔法の適性が無いというのは恥だとされるからね。公にしなかったのよ。
それでも今の王の実の娘だしね。殺されるとか本当に庶民として暮らしているって事はないんじゃないかな。多分何処かの貴族か何かの預かりになっているんだろうと思う」
なるほど。リディナはその辺の事情は知らないと。つまりその辺は一般には明らかにされていないという事か。
私は少しだけほっとする。
一方で本件についてのリディナの解説は続く。
「エールダリア教会は金持ちと貴族以上しか相手にしなかったからね。庶民の支持者はほとんどいない。その上で国王にも嫌われていて、かつ今までの力の拠り所を完全に否定された。
勿論エールダリア教会の全てが悪いという訳じゃない。学校の先生の中にはいい人もいたし、修道士さんにも真面目な人は大勢いたしね。本当の意味で信心深い人もそれなりにいたとは思うよ。
ただ教団上層部の姿勢が長年そんなだったからね。少なくともこの国でエールダリア教会が組織として存続するのは無理じゃないかな。
多分ある程度以上の幹部は本拠地であるアエルダリス教国へと追放。それ以外は他の教団に吸収されるか新しい別の教団として活動する事になると思うよ。実際修道士とかは教団外に生活場所がないしね。
今までの特権や大都市の一等地にあった教会施設の土地や建物、学校施設を没収。その代わりに新規の開拓地でも与えられてそこで一から出直し。
その辺が妥当な落としどころになるんじゃないかな。きっと他の国でも似たような事になると思うよ」
なるほど。
そう言えばリディナの説明を聞いて、ひとつ思い出した事がある。
「リディナが魔法を使えないと言ったのも教会?」
「あの学校も勿論、運営はエールダリア教会よ。考えてみれば貴族以外は全員そういう判定だったな。庶民は少ないから気付かなかったけれどね」
とりあえず新聞記事とリディナの説明でエールダリア教会については理解した。組織としては救えないし救う価値は無さそうだと私は思う。むしろこうなったのが正しいとさえ感じる。カレンさんも正常化と言っていたし。
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