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第8章 強すぎる敵

59 久しぶりの彼

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 3人とも見えなくなってから、俺は松戸に尋ねた。

「それで何をする気だ?みらい以外には何となくばれているようだけれど」

「さっきの敵、作られたのは1体だけかしら?」

 えっ。

「おい、どういう事だ」

 松戸はどこからともなく新聞を取り出す。
 昨夕持っていた英字新聞ではなく、日本語の新聞だ。

「南米で発生した昼の地震、死者及び行方不明者は30万人以上となっているわ。そして先程戦った敵はおそらく5万人規模の魂を生贄にしたもの。そう思うと悪い予感がしない?」

 まさか……

「あの敵が他に最大5体いると……」

「最悪の場合の予想よ。でも可能性が無い訳じゃない」

「俺と松戸で戦えるか?」

「最悪に備えて偵察だけでもしておきたいの」

「でも現状把握の能力か何かでわからないのか」

 少なくとも俺の神眼では何もわからない。
 知識が不足しているせいもあるのだろうけれども。

「妙な反応はあるの。場所を念話で伝えるから神眼で見てみて」

 松戸から座標がくる。
 俺は神眼でその座標を見ようと試みる。
 だが、見えない。何か途方もない力で妨害されているのか?

 いや違う。これはきっと妨害じゃない。
 何かが爆発した際の爆炎や砂埃。そして渦を巻いている力場のせいで中が見えなくなっている。

「何かあったのは確かなようだな」

「でしょう。私はそれを確かめたい」

 松戸の言いたい事がようやくわかった。

 迷ったのは一瞬だった。
 松戸の事だ。俺が断っても1人で確認に行くだろう。
 元々こいつは自分自身の事を、一番使いやすい駒程度にしか思っていない。
 ならばついていった方が、少しはましだろう。

「わかった。場所も見当はついているんだな」

「ええ」

 松戸はベッドから身を起こして立ち上がる。
 取り敢えず怪我や火傷等は完治しているようだ。

「準備はいいかしら」

 俺は頷いた。

 ◇◇◇

 神眼がこの場所の情報を俺に告げる。
 ここは南米の某国第2の都市の郊外。通常空間より少しだけ普通の世界からずれた空間。
 学校があるのと同じような場所だ。

 巨大な体育館または工場のような建物があったのだろう。
 そして4階建てのビルのような建物も。
 だがそれらは既に……

「壊滅状態ね、ここは」

 松戸の言う通りだった。
 建物は全て分厚い鉄筋コンクリートの残骸と化している。所々に焼け焦げた跡がある。
 恐ろしい事に一部の地面は超高熱の衝撃でガラス化していた。

 今は風の音しかしない。
 そんな場所だ。
 神眼はここが、聖霊教会の研究施設だった事を告げている。

「俺達の前に誰かが襲撃した」

「そんな感じね。私達より遙かに強い存在が」

 神眼で見る限り戦闘での人間の犠牲者はいなかったようだ。
 とすると、戦闘に乗じて騎士団は逃げ出すことが出来たのだろうか。
 ならばまた犠牲者を集めて、あの敵を作り出す可能性もあるのだろうか。

「大丈夫、その心配は無い。関係者は全て記憶を抹消したからね」

 聞き覚えのある声がした。
 確かに彼なら、あの敵でもあっさり打ち砕く事が出来るだろう。

 俺達は声のした方を見る。
 上下ジーンズ姿のくすんだ金髪の少年が、そこだけ残った柱の上に腰掛けていた。

「久しぶりだね兄弟。思ったより早かったね」

 間違うはずも無い。
 夏の終わりに多間のビル屋上で会った彼だ。

「これをやったのは?」

 答は既に出ているが、あえて聞いてみる。

「僕さ」

 彼は事も無げにそれを認めた。

「君のところへ1体行っただろう。あれで気づいたんだ。この段階ならまだ大した事はないけれどね。これ以上段階が進むと厄介なので始末した。死傷者は出していないよ。主に記憶操作で対応したからね。だからあの存在を生み出した際の犠牲者だけかな、被害者は。もう少し待って、君達が来ないなら様子を見に行こうと思ったんだけどね。案の定無事あれを始末した訳だ。前に会った時より大分強くなったようで何より」

「あなたは誰ですか」

 松戸が尋ねる。あの敵ですら止めた視線で。
 彼はその視線をごくごく自然に受け止めた。

「僕は僕さ。そこにいる君の彼と同じ。人間ヒトに創られ人間ひととして生きようとする者。今では名前もある。ミシェル、ミシェル・メイヤーだ。まあアメリカ読みでマイケルやマイキーでもいい」

 松戸がふっと息を抜く気配。
 今の彼の台詞で納得したようだ。

 ふと俺は気づく。
 前に会った時のような威圧感が無くなっていた。

「前に会った時より何か人間っぽくなっているな」

「僕は人間さ。君と同じにね」

 雰囲気も随分と柔らかくなっている。
 そう。まるで普通の人間であるかのように。
 そして彼は随分と人間くさい、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「だけれどもまだ兄弟ほど人生をエンジョイしていないな。ステディもいないし。兄弟のように異性4人を侍らせて学校生活を謳歌するにはまだ経験が必要かな」

 何という事を言うんだ。
 人聞きが悪い。

「まあこれで用件は済んだな。それじゃあ僕は行くよ」

 彼はそう言って立ち上がる。

「ではまたな。本当は会わない方がいいんだろうけれど」

 彼は姿を消す。
 あたりに再び静寂が戻ってきた。
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