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第3章 神聖騎士団の襲撃

17 俺、墜落……

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『敵車両全台撃破、確認しました。敵残存、術者2。いずれも野塩峠方向へ逃走開始』

「手応えが、無さ過ぎますね」

 馬橋先生がそう呟く。

「ああ、これだけとは思えない」

 校長がそう応じるとともに、みらいがまた指示を出す。

『避難誘導中の高浜先輩応答願います』

「ん、みらいちゃんや三郷先輩は校長と能力でリンクを張っているの。思考速度で指示がやりとり出来る訳」

 委員長が解説してくれる。

『高浜先輩コンタクト成功』

 これはみらいの隣の三郷先輩だ。

『高浜先輩に指令です。原罪の避難誘導を引き継ぎ次第、敵の撃破ポイントの偵察に向かって下さい。術式展開の恐れがあります』

「高浜先輩は変人だけれど、空間術式については先生方並みかそれ以上の知識があるわ。瞬間移動も可能だし。だから偵察をお願いしたんだと思う」

 なるほどな。
 委員長が解説してくれるので色々と助かる。
 俺1人なら訳がわからないところだ。

 しばらくして今度は知らない男の声。

『高浜だ。儀典術式特有のゆがみを確認した。おそらくティクン・オーラムの儀式かその発展系統だ。消していいか』

『指揮所了解、消去願います。宝物倉庫の使用許可も出ました』

『高浜了解。聖釘を6本借りる』

 そこで声は途絶える。

「ティク何とかって何だ?」

「ん、ごめん、それは私もわからない」

 委員長でもわからない事があるのか。
 なら俺でもわからないな。

 そう思ったら後ろから声がした。

「ティクン・オーラムの儀式。かつて17世紀の偽メシア、サバタイ派が開発したとされる儀式よ。イスラエル12氏族代表を犠牲にして世界を書き換える内容の。ティクン・オーラムとは本来は、悪行をやめ善行を行うことにより、この世界を修復し神の祝福に満ちた世界を取り戻そう、という意味なんだけれどね」

「実際はこの学校のある空間を、浄化と称して崩壊させようという事だ。まあ高浜君なら解除くらい余裕で出来るだろうけれどな」

 馬橋先生と校長が説明してくれた。
 ここにいる皆に説明しようという意図があったのかもしれない。

『高浜から指揮所。儀典術式は無効化した。他に仕掛け等は見当たらない』

『了解しました』

『それでは非常事態措置は解除致します。繰り返します。非常事態措置は解除致します。なお、本日の授業にあっては小、中、高等部それぞれ休校と致します。本日は休校です』

 この感じは、ひょっとして。

「終わりか、これで?」

「ん、そうだね」

 委員長はそう言って立ち上がる。

「お疲れ様でした」

 そう挨拶して階段を下へ。

「あれ、上に戻るんじゃないのか」

「ん、お兄とか神立先輩は当分戻ってこないよ。多分、今回の侵攻についてのミーティングがあるから。それに今日は学校が休みでしょ。思い切りよく訓練できるね」

 えっ、今聞きたくない事を聞いたような気がしたけれど……

「ん、今日みたいな機会があるとわかるでしょ。訓練は大切。まあ実戦部隊は射撃以外は出なかったみたいだけれどね。という訳で早く着替えてきて」

 えっ、やっぱり……

「俺は吸血鬼だから日の出以降は苦手なんだけれど」

「ん、ハイブリッドだから大丈夫だって、言っていたわよね」

 ああ……

 ◇◇◇

 二時間後。
 例によって地獄の訓練がひととおり終わり、クールダウンのランニング中。
 ただ最近は、この訓練にも大分慣れた気がする。
 少なくとも、帰りに歩くのも辛いという状態は無くなった。

「ん、そう言えば飛行能力の方はどう。大分上がった?」

「一応」

 飛行の訓練はしている。
 まあ飛ぶのが楽しいから、というのもあるけれど。

 この前は十分以上、飛んでいる事が出来た。
 速度も最初に比べて大分速くなっている。

 どうも一度発現した能力は、訓練で簡単に伸びるようだ。
 ある程度の処まで伸びたら別なのだろうけれども。

「ん、何なら私も一緒に飛べる?」

「多分」

 やった事は無いが、多分大丈夫だろうという気がする。
 その辺りの能力の具合は、何か感覚的にわかるのだ。

「ん、どうすればいい」

 おい、今かよ。
 まあいいけどさ。

「手をつなげば、多分大丈夫」

「ん、じゃあ」

 右手を出される。
 俺が左手を出すとぎゅっと掴まれた。

「これで大丈夫?」

 チョップの時と違って普通に握ると委員長の手って結構柔らかい。
 それに思ったより小さいし。
 そんな余計な事を考えてしまう。

 いかんいかん、今回は空を飛ぶ為だけなんだ。
 それに見た目はともかく、相手は暴力女だぞ。

「じゃあ行くぞ」

 そう言って、浮き上がるイメージを思い浮かべる。
 1人の時と同様、あっさりと俺も委員長も空へと舞い上がった。
 腕を引っぱるとか、そういう余分な力は必要ない。
 委員長ごと一緒に、という感じだ。

「ん、これって限界が来たら急に落ちるの?」

「限界近いと高度が下がっていくから大丈夫だ」

「ん、便利だね。じゃあちょっと学校の北の方に行ってみていい。あっちはあまり知らないから」

「OK」

 ゆっくりと北へ向かう。

 高度はだいたい街の一番高いビルと同じ位。
 速度は委員長がいるので加減して、まあ60km/h位。
 団地や住宅、公園等を上からのんびりと見やる。

 住宅とかは多いけれ、ど基本的には人は住んでいない筈だ。
 学校を中心とした一体は、普通の空間と少し位相を変えているから。
 住んでいるのは学校関係者だけ。
 本来人が住んでいるのはちょっとだけ離れた別の空間。

 でも、あれは……

「委員長、この辺は人は住んでいないはずだよな」

「ん、そうだよ」

「ならあれは学校の誰かかな。あの公園の角」

 委員長がそっちの方へ視線を動かす。

「ん、本当だ。誰かトレーニングでも……んっ、違う!」

 何か委員長が妙な反応をした。

「どうした」

「急いで、低空飛行に変更。方向は学校へ」

 言われるまま一気に高度を落とす。

「どうした」

「あれは敵よ。神聖騎士団の術者!」

 何だって。
 その次の瞬間、何か強烈な衝撃が走った。

 不味い、力が抜けていく。
 意識が薄れそうになる。

「委員長まずい、落ちる。適当なところで手を離して離脱しろ」

 必死に意識を集中して、何とか落下速度を殺す。
 意識が途切れる寸前、何とか委員長の手を握ったまま、着地には成功した。

 しかしもう意識が薄い。
 何だ、何があったんだ……
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