23 / 64
番外編 IF 野猿な囚人 7.能力
しおりを挟む
ミランダは凄い。
リーリアはミランダと友達になってから、ミランダの凄さを実感する。
一見、月の女神のような可憐な容姿をしていて、もし自分が男だったらすぐにでも結婚を申し込みたいくらい美しいうえに、聡明で明朗な性格をしていて、とても有能である。
リーリアは、魔力を封じる腕輪の使用説明書が欲しく、それが保管されていると思われる場所を探索してくれるようにミランダにお願いしていた。
すると、数日後……。
夕食後のいつもの自由時間にリーリアの部屋でミランダと二人で、ひそひそと脱獄の打つ合わせをしようとした時であった。
「はい、リーリア」とリーリアはミランダから紙を渡された。
「うん?これは……」とその紙をみて、リーリアは驚愕した。
「ふふふ」と綺麗に微笑むミランダ。
「な、何で?何でこれが!?」
「凄いでしょう?それは原本ではなく写しなんだけどね。
ちょうどタイミング良く見つけられたのよ」
何とミランダは、リーリアの魔力を封じる腕輪の使用説明書の写しを持ってきたのであった。
「す、凄すぎる!!どうやったの?」
「ふふふ。まあ、実は私の魔法能力の一つを使ったのよね。
数枚くらいの紙なら瞬時に別の紙に写し取れるの。
この前、新人の看守が入って来たでしょう?
新人の彼女のためにあなたの腕輪の使用説明書について先輩看守が教えている場面にたまたま居合わせてね。それでちょっと写せる機会があったのよ。
だから、本当に運が良かったわ!」とさらっと言うミランダ。
本当はその新人の看守に教えるとの情報を入手したミランダは、この数日、その新人看守にできる限り近づき、写すための用紙と共に、その説明書が新人の前にでてきて、ミランダが写せるようにずっと隙を狙っていたのであった。
確かに移す作業までできたのは、運が良かったが、タイミングを計る努力もしていたミランダ。
そんなミランダに、リーリアは「おぉ!そんな能力があるなんて、凄い!ミランダはやっぱり女神なのね!!」と感嘆の声がでた。
そして、早速、リーリアは、その説明書をじっくり読みこんだ。
それこそ暗記できるレベルまで読みこんだ。
「どう?これでその腕輪は外れそう?」とミランダは、リーリアが読み終えてしばらく考え込んだ様子なので、話しかけてみた。
「うーん。それが思っていたよりやっかいだけど……」とリーリアがミランダに相談しようとした時であった。
「へー、思ったよりやっかいって何が?」とリーリアの部屋に、アウスフォーデュ修道院の囚人達のボスであるルクレナが入ってきた。
「まあ、ルクレナ様!」
「……ルクレナ様!?」と驚いた二人は、さりげなく説明書をルクレナから隠した。
「やあ、子猫ちゃんと野猿!最近、二人してやけに仲が良いけど、何をしているのかな?」
「リーリアが最近、ホームシックなので慰めていただけですわ」とさらりとかわすミランダ。
「へー、野猿がホームシックね……」といいながら、含みのある微笑みを浮かべるルクレナ。
「ルクレナ様が、わざわざこちらにいらしたのは何か御用ですか?」と聞くリーリア。
「最近、二人が私に構ってくれないから、癒しが足りなくてね~」といたずらっ子のような顔になったルクレナは、リーリアのほっぺをぴょ~んと伸ばしたり、ムニムニとこねたりしだした。
「いひゃい、いひゃい、りゅくれなしゃま~!はーなーしぃてー!!」と文句を言うリーリアは、(くっ、こういうところがセリウス様っぽくていや~)と思うのであった。
一方、ルクレナが何か怒っていると気づいたミランダ。
「ルクレナ様?何かございましたか?」
「……ミランダは、ここから出たくないのかな?」
「え?は?もちろん、出たいですよ!」
「じゃあ、ここ最近、何で看守に目をつけられるような行動をしていた?」
「え?何のこと……」
「とぼけても無駄だ。今日は特に、あの新人の看守につきまとっていただろう?」
「そ、それは……」
「……大方、この野猿のためだろうがね」と言って、さらに強くリーリアのほっぺをぴよっと引っ張った後、「ぐぅ、ぶにゅっ」とリーリアの声がでるまで両手で挟みリーリアの顔を潰してみるルクレナ。
「ルクレナ様、看守から何かお聞きになったのですか?」と心配して聞くミランダ。
「……まあね。しかも、ミランダが嬉々として頻繁に野猿のところへ来ていたのもまずかったね。
これから、二人の接触は禁止だ。
二人とも看守から目をつけられ、当分の間、監視が厳しくなるみたいだ。
だから、しばらくは、大人しくしていること。いいね?」とルクレナからきつく言われて二人は驚き、そしてしょんぼりするのであった。
「ほら、ミランダはすぐに自分のところに戻りな。
当分の間、ここに来たら駄目だし、他の奴のところにも行くな。
これは命令だ」とルクレナに、リーリアの部屋を追い出されるミランダ。
「……ごめんね。リーリア」と悲し気に言って、去るミランダ。やはり、説明書入手のために頑張りすぎたかと反省するミランダであった。
ミランダが去った後、ルクレナはリーリアのほっぺをやっと放してくれた。
「……野猿は、余計なことをしてくれたな」
「え?あ、ミランダが看守に目をつけられて危険なんですか?」
「まあ、目をつけられただけで、まだ危険というほどのことではないが、さっき隠した紙を見せな」
「え?何のことでしょう?」ととぼけるリーリアであったが、さりげなく隠したつもりの紙をあっさりルクレナに奪われた。
「……ふーん、なるほど。これをミランダが野猿のために奪取したのか。
ちっ、余計なことを。
その腕についている魔力封じを外して、どうしたいわけ?
脱獄したいのか?」
「え?いや、そういうわけでは……。
いざという時に外せる方法が知りたく。
この腕輪は下手な扱いをすると腕がちぎれるという物騒なしろものですから、怖いので対策をしたくて……」
「ふん、そんな言い訳は不要だ。
野猿の考えていることなんて、単純でわかりやす過ぎるな」と忌々し気に言うと、ルクレナは、せっかくミランダが取ってきてくれた魔力封印の腕輪の説明書の写しを瞬時に火の魔法で燃やし、灰も残らない位に跡形もなく消え去った。
「ああっ!何てことを!!」と衝撃を受けるリーリア。
「当然だろう。
これが残っているとミランダの罪がどんなに重くなるか、わかっているのか?」
「……う、そうですよね。
しかも、看守達に疑われていたのなら、確かに証拠になってしまう……。
やっぱり危なかったのですね」
「そうだ。たぶん今夜にでも二人の部屋を看守達にあらためさせる予定だそうだ。
最近、ミランダと頻繁に接触していたのはホームシックのためだと言っておけ。
とりあえず、何も知らないと言い張れ、看守相手の言動には気をつけろ」
「はい。ありがとうございます」
「あと、これはミランダには秘密だが、お前には話しておかないと予想外に行動されてやばそうなので言っておこうと思う」
「え?何のお話ですか?」
「いいか?一応、ミランダには秘密なのだが、守れるか?」
「はい!」
「私はね、実はミランダの護衛でここに入ったのだ」
「え?ええ!?ミランダの護衛ってどういうことですか?
ルクレナ様は、ミランダの家の方だったのですか?」
「いや、ミランダの家の者ではないが、ミランダの父親であるローエリガー伯爵の依頼でね。
私はもとから裏の世界で生きている人間だが、ミランダの父親には情報関係の仕事で知り合って、彼には恩があってね。
その恩を返すためにここにいて、ミランダを守っているのさ」
「ほえー、そうだったのですね。
あ、そういえば、先程、ルクレナ様は火の魔法とかあっさりお使いでしたが、魔法も自由自在に使えて、実はルクレナ様が誰よりも強いのって、元々の強さだけでなく、魔法も使っていますか?
火属性の魔法以外も使えたりしますか?」
「その通りだよ。
火属性の魔法も得意だが、それ以外も便利な能力が備わっているぞ。
もっとも、看守側には私が魔法を使えるとは思われていないから、野猿のような制御をされていないがな」
「もしかして、ルクレナ様の取り巻きの方々って、元々の部下でいらっしゃいます?」
「ああ。私1人ではうまく動けない場合もあるから、部下達も使っている。
私はミランダが入所する2~3日前にここにわざと入所して、部下達と共に、ここの囚人どもを束ねた。
そして、ミランダがこの修道院で無事に生きていけるように環境を整えたり、ミランダが新人の洗礼を受ける際も怪我させないように手配したりしていた。
ミランダは冤罪だから、それが晴れて出所したら、すぐに私もここから部下達と脱獄する予定だ。
もしくは、ミランダに暗殺とかの危険があった場合、ミランダを暗殺者から守り、万が一の事態では連れて脱獄する可能性もある。
実は、野猿が入所する前に、既に真犯人から送られてきた暗殺者達を部下達と共に始末している」
「ひぇ、そうだったのですね」
「ああ。ミランダをすぐに私が脱獄させて保護するのが手っ取り早いのに、ミランダの父親は娘を罪人のままにしたくないと冤罪を晴らすべく活動をしているから、いまだに待ちの状態なんだ。
だから、ミランダの罪が晴れる前に、もしくはミランダの父親の指示もなく、勝手な行動されると困るのは、野猿でもわかるな?」
「……はい、そうですね。
そういうことなら、私もミランダをできれば罪人のままにしたくないし、守りたいです」
「そうか、それなら野猿も仲間に入れてやろう。
ミランダの冤罪が晴れるまでの我慢だ。
ミランダが出所したら、すぐに一緒に脱獄させてやるから、待てるな?
もし、お前が先に脱獄すると、今のところ確保している脱獄ルートを変えて、やり方を変更しないといけないから面倒だ」
「あ、でも、私も早くここをでないと私の父や、家族の命が危ないかも知れないのです。
だから私だけでも先に脱獄したいのですが、駄目ですか?」
「駄目だ。お前が脱獄すると、その後きっと結界の構造が変えられて複雑になるから、こちらが脱獄するのにやっかいだからな」
「でも、私が外にいたら、ルクレナ様達が脱獄する際は、たとえ複雑になっていても結界もトラップも全部私が破れますから、その確保ルートもいらないかも知れませんよ?」
「は?何だと!?野猿は結界破りの能力があるのか?」
「ええ、まあ。
実は、数年前から父親の関係で、この国の防衛関係で使われている結界やトラップは、兄や私の案で作られたものがほとんどなので、破るのも簡単です。
この制御がなければ……」と魔力封じの腕輪を見せるリーリア。
「本当か!?ああ、でも、そういえば、野猿はメナード公爵家の娘だったな。
……そうか。
この国の結界やトラップが数年前、突然、レベルが高くなったのはメナード公爵の功績とは聞いていたが、お前らのせいだったのか。
それなら本当なんだな……」とため息をつくルクレナ。
「はい。本当です。ですから、いかがでしょうか?」
「……家族のことが心配なのはわかるが、とりあえず、脱獄は保留にしろ。
こちらもお前の使い道を含めて考えるから、返事を待っていろ。
あと、ミランダの父親と連絡を取るから、その時にお前の父親や家族の情報も得るようにしよう。
その情報を得てから動いた方がお前にとっても良いと思う。
だから、待てるな?」
「……その情報が早めにいただけるのなら、お待ちいたします。特に父の情報を……」
「ああ、もう、わかったよ。
優先的にお前の父親の情報を得ると約束するから、待て!
絶対に待てよ。いいな?」
「はい。それならお待ちいたします」
「うん。それでいい。
じゃあ、ミランダを巻き込まずに、大人しくしていろよ」とくぎを刺して、ルクレナがリーリアの部屋を出て行った。
1人残されたリーリアは、ルクレナから聞いた話を整理した。
ルクレナがミランダを特別扱いしていると思っていたが、そんな事情があるとはと驚くリーリア。
また、ルクレナに燃やされてしまったが、腕輪の説明書の内容は、既にほぼ暗記していたので、その内容を忘れないように繰り返し頭の中で読み返すようにしてみた。
ルクレナの返事待ちだが、まだルクレナ自身を信用しきれないため、不安にかられるリーリアは、脱獄の準備を、看守だけでなくルクレナにもばれない範囲で、継続するのであった。
リーリアはミランダと友達になってから、ミランダの凄さを実感する。
一見、月の女神のような可憐な容姿をしていて、もし自分が男だったらすぐにでも結婚を申し込みたいくらい美しいうえに、聡明で明朗な性格をしていて、とても有能である。
リーリアは、魔力を封じる腕輪の使用説明書が欲しく、それが保管されていると思われる場所を探索してくれるようにミランダにお願いしていた。
すると、数日後……。
夕食後のいつもの自由時間にリーリアの部屋でミランダと二人で、ひそひそと脱獄の打つ合わせをしようとした時であった。
「はい、リーリア」とリーリアはミランダから紙を渡された。
「うん?これは……」とその紙をみて、リーリアは驚愕した。
「ふふふ」と綺麗に微笑むミランダ。
「な、何で?何でこれが!?」
「凄いでしょう?それは原本ではなく写しなんだけどね。
ちょうどタイミング良く見つけられたのよ」
何とミランダは、リーリアの魔力を封じる腕輪の使用説明書の写しを持ってきたのであった。
「す、凄すぎる!!どうやったの?」
「ふふふ。まあ、実は私の魔法能力の一つを使ったのよね。
数枚くらいの紙なら瞬時に別の紙に写し取れるの。
この前、新人の看守が入って来たでしょう?
新人の彼女のためにあなたの腕輪の使用説明書について先輩看守が教えている場面にたまたま居合わせてね。それでちょっと写せる機会があったのよ。
だから、本当に運が良かったわ!」とさらっと言うミランダ。
本当はその新人の看守に教えるとの情報を入手したミランダは、この数日、その新人看守にできる限り近づき、写すための用紙と共に、その説明書が新人の前にでてきて、ミランダが写せるようにずっと隙を狙っていたのであった。
確かに移す作業までできたのは、運が良かったが、タイミングを計る努力もしていたミランダ。
そんなミランダに、リーリアは「おぉ!そんな能力があるなんて、凄い!ミランダはやっぱり女神なのね!!」と感嘆の声がでた。
そして、早速、リーリアは、その説明書をじっくり読みこんだ。
それこそ暗記できるレベルまで読みこんだ。
「どう?これでその腕輪は外れそう?」とミランダは、リーリアが読み終えてしばらく考え込んだ様子なので、話しかけてみた。
「うーん。それが思っていたよりやっかいだけど……」とリーリアがミランダに相談しようとした時であった。
「へー、思ったよりやっかいって何が?」とリーリアの部屋に、アウスフォーデュ修道院の囚人達のボスであるルクレナが入ってきた。
「まあ、ルクレナ様!」
「……ルクレナ様!?」と驚いた二人は、さりげなく説明書をルクレナから隠した。
「やあ、子猫ちゃんと野猿!最近、二人してやけに仲が良いけど、何をしているのかな?」
「リーリアが最近、ホームシックなので慰めていただけですわ」とさらりとかわすミランダ。
「へー、野猿がホームシックね……」といいながら、含みのある微笑みを浮かべるルクレナ。
「ルクレナ様が、わざわざこちらにいらしたのは何か御用ですか?」と聞くリーリア。
「最近、二人が私に構ってくれないから、癒しが足りなくてね~」といたずらっ子のような顔になったルクレナは、リーリアのほっぺをぴょ~んと伸ばしたり、ムニムニとこねたりしだした。
「いひゃい、いひゃい、りゅくれなしゃま~!はーなーしぃてー!!」と文句を言うリーリアは、(くっ、こういうところがセリウス様っぽくていや~)と思うのであった。
一方、ルクレナが何か怒っていると気づいたミランダ。
「ルクレナ様?何かございましたか?」
「……ミランダは、ここから出たくないのかな?」
「え?は?もちろん、出たいですよ!」
「じゃあ、ここ最近、何で看守に目をつけられるような行動をしていた?」
「え?何のこと……」
「とぼけても無駄だ。今日は特に、あの新人の看守につきまとっていただろう?」
「そ、それは……」
「……大方、この野猿のためだろうがね」と言って、さらに強くリーリアのほっぺをぴよっと引っ張った後、「ぐぅ、ぶにゅっ」とリーリアの声がでるまで両手で挟みリーリアの顔を潰してみるルクレナ。
「ルクレナ様、看守から何かお聞きになったのですか?」と心配して聞くミランダ。
「……まあね。しかも、ミランダが嬉々として頻繁に野猿のところへ来ていたのもまずかったね。
これから、二人の接触は禁止だ。
二人とも看守から目をつけられ、当分の間、監視が厳しくなるみたいだ。
だから、しばらくは、大人しくしていること。いいね?」とルクレナからきつく言われて二人は驚き、そしてしょんぼりするのであった。
「ほら、ミランダはすぐに自分のところに戻りな。
当分の間、ここに来たら駄目だし、他の奴のところにも行くな。
これは命令だ」とルクレナに、リーリアの部屋を追い出されるミランダ。
「……ごめんね。リーリア」と悲し気に言って、去るミランダ。やはり、説明書入手のために頑張りすぎたかと反省するミランダであった。
ミランダが去った後、ルクレナはリーリアのほっぺをやっと放してくれた。
「……野猿は、余計なことをしてくれたな」
「え?あ、ミランダが看守に目をつけられて危険なんですか?」
「まあ、目をつけられただけで、まだ危険というほどのことではないが、さっき隠した紙を見せな」
「え?何のことでしょう?」ととぼけるリーリアであったが、さりげなく隠したつもりの紙をあっさりルクレナに奪われた。
「……ふーん、なるほど。これをミランダが野猿のために奪取したのか。
ちっ、余計なことを。
その腕についている魔力封じを外して、どうしたいわけ?
脱獄したいのか?」
「え?いや、そういうわけでは……。
いざという時に外せる方法が知りたく。
この腕輪は下手な扱いをすると腕がちぎれるという物騒なしろものですから、怖いので対策をしたくて……」
「ふん、そんな言い訳は不要だ。
野猿の考えていることなんて、単純でわかりやす過ぎるな」と忌々し気に言うと、ルクレナは、せっかくミランダが取ってきてくれた魔力封印の腕輪の説明書の写しを瞬時に火の魔法で燃やし、灰も残らない位に跡形もなく消え去った。
「ああっ!何てことを!!」と衝撃を受けるリーリア。
「当然だろう。
これが残っているとミランダの罪がどんなに重くなるか、わかっているのか?」
「……う、そうですよね。
しかも、看守達に疑われていたのなら、確かに証拠になってしまう……。
やっぱり危なかったのですね」
「そうだ。たぶん今夜にでも二人の部屋を看守達にあらためさせる予定だそうだ。
最近、ミランダと頻繁に接触していたのはホームシックのためだと言っておけ。
とりあえず、何も知らないと言い張れ、看守相手の言動には気をつけろ」
「はい。ありがとうございます」
「あと、これはミランダには秘密だが、お前には話しておかないと予想外に行動されてやばそうなので言っておこうと思う」
「え?何のお話ですか?」
「いいか?一応、ミランダには秘密なのだが、守れるか?」
「はい!」
「私はね、実はミランダの護衛でここに入ったのだ」
「え?ええ!?ミランダの護衛ってどういうことですか?
ルクレナ様は、ミランダの家の方だったのですか?」
「いや、ミランダの家の者ではないが、ミランダの父親であるローエリガー伯爵の依頼でね。
私はもとから裏の世界で生きている人間だが、ミランダの父親には情報関係の仕事で知り合って、彼には恩があってね。
その恩を返すためにここにいて、ミランダを守っているのさ」
「ほえー、そうだったのですね。
あ、そういえば、先程、ルクレナ様は火の魔法とかあっさりお使いでしたが、魔法も自由自在に使えて、実はルクレナ様が誰よりも強いのって、元々の強さだけでなく、魔法も使っていますか?
火属性の魔法以外も使えたりしますか?」
「その通りだよ。
火属性の魔法も得意だが、それ以外も便利な能力が備わっているぞ。
もっとも、看守側には私が魔法を使えるとは思われていないから、野猿のような制御をされていないがな」
「もしかして、ルクレナ様の取り巻きの方々って、元々の部下でいらっしゃいます?」
「ああ。私1人ではうまく動けない場合もあるから、部下達も使っている。
私はミランダが入所する2~3日前にここにわざと入所して、部下達と共に、ここの囚人どもを束ねた。
そして、ミランダがこの修道院で無事に生きていけるように環境を整えたり、ミランダが新人の洗礼を受ける際も怪我させないように手配したりしていた。
ミランダは冤罪だから、それが晴れて出所したら、すぐに私もここから部下達と脱獄する予定だ。
もしくは、ミランダに暗殺とかの危険があった場合、ミランダを暗殺者から守り、万が一の事態では連れて脱獄する可能性もある。
実は、野猿が入所する前に、既に真犯人から送られてきた暗殺者達を部下達と共に始末している」
「ひぇ、そうだったのですね」
「ああ。ミランダをすぐに私が脱獄させて保護するのが手っ取り早いのに、ミランダの父親は娘を罪人のままにしたくないと冤罪を晴らすべく活動をしているから、いまだに待ちの状態なんだ。
だから、ミランダの罪が晴れる前に、もしくはミランダの父親の指示もなく、勝手な行動されると困るのは、野猿でもわかるな?」
「……はい、そうですね。
そういうことなら、私もミランダをできれば罪人のままにしたくないし、守りたいです」
「そうか、それなら野猿も仲間に入れてやろう。
ミランダの冤罪が晴れるまでの我慢だ。
ミランダが出所したら、すぐに一緒に脱獄させてやるから、待てるな?
もし、お前が先に脱獄すると、今のところ確保している脱獄ルートを変えて、やり方を変更しないといけないから面倒だ」
「あ、でも、私も早くここをでないと私の父や、家族の命が危ないかも知れないのです。
だから私だけでも先に脱獄したいのですが、駄目ですか?」
「駄目だ。お前が脱獄すると、その後きっと結界の構造が変えられて複雑になるから、こちらが脱獄するのにやっかいだからな」
「でも、私が外にいたら、ルクレナ様達が脱獄する際は、たとえ複雑になっていても結界もトラップも全部私が破れますから、その確保ルートもいらないかも知れませんよ?」
「は?何だと!?野猿は結界破りの能力があるのか?」
「ええ、まあ。
実は、数年前から父親の関係で、この国の防衛関係で使われている結界やトラップは、兄や私の案で作られたものがほとんどなので、破るのも簡単です。
この制御がなければ……」と魔力封じの腕輪を見せるリーリア。
「本当か!?ああ、でも、そういえば、野猿はメナード公爵家の娘だったな。
……そうか。
この国の結界やトラップが数年前、突然、レベルが高くなったのはメナード公爵の功績とは聞いていたが、お前らのせいだったのか。
それなら本当なんだな……」とため息をつくルクレナ。
「はい。本当です。ですから、いかがでしょうか?」
「……家族のことが心配なのはわかるが、とりあえず、脱獄は保留にしろ。
こちらもお前の使い道を含めて考えるから、返事を待っていろ。
あと、ミランダの父親と連絡を取るから、その時にお前の父親や家族の情報も得るようにしよう。
その情報を得てから動いた方がお前にとっても良いと思う。
だから、待てるな?」
「……その情報が早めにいただけるのなら、お待ちいたします。特に父の情報を……」
「ああ、もう、わかったよ。
優先的にお前の父親の情報を得ると約束するから、待て!
絶対に待てよ。いいな?」
「はい。それならお待ちいたします」
「うん。それでいい。
じゃあ、ミランダを巻き込まずに、大人しくしていろよ」とくぎを刺して、ルクレナがリーリアの部屋を出て行った。
1人残されたリーリアは、ルクレナから聞いた話を整理した。
ルクレナがミランダを特別扱いしていると思っていたが、そんな事情があるとはと驚くリーリア。
また、ルクレナに燃やされてしまったが、腕輪の説明書の内容は、既にほぼ暗記していたので、その内容を忘れないように繰り返し頭の中で読み返すようにしてみた。
ルクレナの返事待ちだが、まだルクレナ自身を信用しきれないため、不安にかられるリーリアは、脱獄の準備を、看守だけでなくルクレナにもばれない範囲で、継続するのであった。
0
お気に入りに追加
1,012
あなたにおすすめの小説
【完結】くま好き令嬢は理想のくま騎士を見つけたので食べられたい
楠結衣
恋愛
お転婆だけど超絶美少女の伯爵令嬢アリーシアは、ある日宝物のくまのぬいぐるみにそっくりなガイフレートに出逢い、恋に落ちる。
けれど、年下のアリーシアを妹のように扱うガイフレートとの恋は、一筋縄ではいかないようで。
さらに、アリーシアを溺愛する兄の妨害や、真実の愛をぐいぐいアピールする王太子も現れて、アリーシアの恋はますます前途多難!
「アリー、大人を揶揄うのは良くないな」
歳の差を理由に距離を置く侯爵令息のガイフレートと、一途なアリーシアの恋の結末は?!
ちょっぴり天然な美少女伯爵令嬢と、伯爵令嬢を大切に守ってきた大柄騎士の溺愛あまあまハッピーエンドストーリーです。
◇期間限定でR18を公開しています(♡の話)
◇表紙と作中イラスト/貴様二太郎さま
◇題名に※表記があるものは挿し絵があります
*本編、番外編完結(番外編を気まぐれに投稿しています)
*アルファポリス第14回恋愛小説大賞「奨励賞」
*第9回ネット小説大賞一次選考通過作品
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
貴族としては欠陥品悪役令嬢はその世界が乙女ゲームの世界だと気づいていない
白雲八鈴
恋愛
(ショートショートから一話目も含め、加筆しております)
「ヴィネーラエリス・ザッフィーロ公爵令嬢!貴様との婚約は破棄とする!」
私の名前が呼ばれ婚約破棄を言い渡されました。
····あの?そもそもキラキラ王子の婚約者は私ではありませんわ。
しかし、キラキラ王子の後ろに隠れてるピンクの髪の少女は、目が痛くなるほどショッキングピンクですわね。
もしかして、なんたら男爵令嬢と言うのはその少女の事を言っています?私、会ったこともない人のことを言われても困りますわ。
*n番煎じの悪役令嬢モノです?
*誤字脱字はいつもどおりです。見直してはいるものの、すみません。
*不快感を感じられた読者様はそのまま閉じていただくことをお勧めします。
加筆によりR15指定をさせていただきます。
*2022/06/07.大幅に加筆しました。
一話目も加筆をしております。
ですので、一話の文字数がまばらにになっております。
*小説家になろう様で
2022/06/01日間総合13位、日間恋愛異世界転生1位の評価をいただきました。色々あり、その経緯で大幅加筆になっております。
乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる
レラン
恋愛
前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。
すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?
私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!
そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。
⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎
⚠︎誤字多発です⚠︎
⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎
⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる