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悪役令嬢でも死んじゃだめぇ~!1

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リマード王国は、温暖で実り豊かな国である。

この国は、王家に続く権力として三大公爵家が存在する。
その三大公爵家の一つに、ハロル公爵家がある。
ハロル公爵家は、貴族達を中立な立場から監視して不正を暴き、貴族同士の派閥争いの調停などもする。

私、エミリー・ルキラは、そんなハロル公爵家の分家筋、ルキラ子爵家の3女。

ルキラ子爵家は、実質、ハロル公爵家の下請けのような存在。
丁度、ハロル公爵家のご令嬢アンジェリカ様は、私と同じ12歳のため、彼女の遊び相手になるようにお父様から指令を受けた。
アンジェリカ様の遊び相手になるため、きちんと手紙で約束をとりつけた上で、ハロル公爵家を何度も訪れている。
ハロル公爵家は、立派なお屋敷で、遊びに行くのが楽しみになる位、素敵なお庭もある。
けれども、いつも私がハロル公爵家を訪れるたびに、アンジェリカ様は不在。なんで!?
そして、何故か迎えてくれるのは、アンジェリカ様の兄、イザーク様だった。

「よく来たね、エミリー」
「こんにちは、イザーク様。
アンジェリカ様はいらっしゃいますか?」
「すまない、エミリー。
アンジェリカはまた出かけてしまったみたいだ……」

え?また不在?
お約束したのに?
ご都合が悪いなら、知らせくださればいいのに。
一度だけならまだしも、こう、何度もだと、もしや………。

ちなみに、イザーク様は、黒髪で紫の瞳の麗しい顔立ちをされていて、私より4歳上である。
イザーク様は、ハロル公爵家の長男で、性格はハロル公爵家独特のクールな性格をしているらしい。
でも、私には何故か、とても優しいから不思議。

「代わりに私でよければ、お相手するよ」
「えっ、よろしいのですか、イザーク様?」
「ああ、私はエミリーと過ごすのが楽しいから、役得だよ」
「私も!イザーク様と遊ぶの大好きです!」
「だ、大好きか、そうか……」と、いつもはクールなイザーク様がやや頬を赤らめながら「笑顔、かわっ………!」とぶつぶつとしばらく呟いていた。
そのイザーク様の発作がおさまるまで、しばらく待たされたが、その後、楽しく遊んでくれた。

ハロル公爵家に来る度に、いつもアンジェリカ様が不在なのは、意図的に避けられているのだろうか。
代わりにイザーク様がいて、一緒に遊んだり、美味しいお菓子を食べさせてくれたり、勉強を教えてくれたりと、凄く楽しかったが……。
お父様からの指令とはいえ、無駄にハロル公爵家の訪問を重ねるのも失礼だし、代わりにお相手してくださるイザーク様には、申し訳なかった。

そうしているうちに、イザーク様は、隣国へ留学に行くことが決まった。
イザーク様となかなか会えなくなってしまう。さみしい。
留学前に一度、お会いして、今までのお礼をしたいと思って、初めてイザーク様宛に手紙を書いてみた。
すると、お忙しいはずなのに、隣国に出発される前日に、イザーク様にお会いすることができた。
壮行の言葉とお世話になったお礼の品を渡した私に、イザーク様は、ため息をついて話始めた。

「……エミリー。
私はあと数年は、こちらに帰ってこられない。
だから、君にお願いというか、約束して欲しいことがある」
「はい、イザーク様。
どんな約束でしょうか?」
「君に自覚があるかわからないが……。
むやみやたらに、笑顔を振りまかないで欲しい。
特に、男性に対して!
心からの無邪気な笑顔を向けないこと。
いいね?」
「……え?笑顔?
私の笑顔を……?
それが約束ですか?」
「そう、絶対に守って欲しいお願いだ。
君の笑顔を男性に向けないと約束してくれ。
女性にはやむを得なくても、男性には絶対、駄目だ!」
「え、えっと、はい……」と意味がわからなかったが、イザーク様の勢いが何だか怖くて、頷いておいた。

何だろう?
ハロル公爵家として、クールに仕事するように注意したかったの?

こうして、私に謎の約束をさせられて、イザーク様は、隣国に留学に行ってしまった。

イザーク様になかなか会えなくなって、ちょっと寂しい。
でも、今度、ハロル公爵家で開かれるお茶会(子供版)で、本命のアンジェリカ様にやっと会えそう。
イザーク様が、あんなに優しかったので、アンジェリカ様も同様に、良い方かな?
イザーク様が隣国に行っても、お手紙をくれるそうなので、こちらも失礼のないように、お返事をするつもり。

後に、意外と筆まめなイザーク様の手紙に対して、返事が遅れがちになるエミリーであった。
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