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「なんで何も言わないの?私のドレス姿ってそんなに変かしら?」
「いいえ!とんでもございません!」

 僕は両手を必死にブンブン振りまくる。

「じゃ、なんで?」

 カリナ様が眉間に皺を寄せて、問うてきた。

 これは素直に言ったほうがいいだろう。

「……あまりにもお美しいので……見惚れてしまいました」
「あ……そ、そういうことだったのね……心配したじゃない……」

 安心したように深いため息をつくカリナ様はふいっと顔を逸らして踵を返す。

 それから優雅な足取りで歩き始めるが、やがて半分ほど振り返って僕を横目で見る。

「レオくんも、似合っているわ。あと……ぷるんくんもね」

 恥ずかしそうに肩を竦めるカリナ様の頬は薄いピンクに染まっている。

「あ、ありがとうございます……」

 いつの間にかぷるんくんは僕を盾代わりに隠れてカリナ様を覗き込んだ。

 ぷるんくんとカリナ様はまだ打ち解けてないようだ。

 サーラさんは後ろで手を組んで微笑んでいる。

 それから、サーラさんはカリナ様を馬車に誘導し、乗せる。

 サーラさんは馬車から顔をぴょこんと出して僕にジト目を向けてきた。

「降りる時は、レオさんが直接カリナ様の手を握って降ろしてください」
「はい!?」
「じゃ、宮殿までよろしくお願いします」
「……」

 取り残された僕とぷるんくん。

「ぷりゅん……」

 僕のことを心配そうに見つめるぷるんくん。

「……」

 何戸惑ってんだ。

 カリナ様は僕のことを信頼してこの仕事を任せたんだ。

 真面目に行くぞ。

「ぷるんくん、行くよおお!」
「ぷりゅん!!」

 ぷるんくんはドヤ顔で答えてくれた。

 僕は馬の手綱を握ってメディチ家を後にした。

 ぷるんくんは僕の頭の上に乗った状態で王都の周りを警戒している。

 タイリア市場を抜けてさらに進むと、貴族やランクの高い冒険者が住む居住区域が出てくる。

 さらにそこを真っ直ぐ進むと、宮殿が出てくるのだ。

 厳しい警備が敷かれており、馬車もたくさん見えてくる。

 生まれて初めてみるこの光景に、謎の恐怖が僕を襲うが、その度にぷるんくんを撫でてそれに打ち勝った。

 宮殿の広場で馬車を止めた。

 そして僕は馬車のドアを開けて、右手を差し伸べる。

「カリナお嬢様、着きました」
「え、ええ」

 言ってカリナ様は僕の右手をご自分の左手で強く握りしめ、降りる。
 
 地面に足を踏み締めた途端、カリナ様はバランスを保つために、ご自分の右手で僕の肩を強く当てた。

 そのはずみに、僕の胸と、カリナ様の豊満な胸が当たってしまう。

「……」

 平常心!

 平常心だ!!

「ありがとう」
「どういたしまして……」

 どうやら第一関門はクリアしたようだ。

 サーラさんは素早く馬車から降りて、僕を褒めてくれた。

「ふふ、よくできました」

 とりあえず仕事だ。

 広場を駐車場代わりに使うって言ってたから僕はぷるんくんに命ずる。

「ここに防御膜を張ってくれ」
「ぷるん!」

 ぷるんくんは手で敬礼し、早速馬車に防御膜を張ってくれた。

「よくできた!」
 
 と、腰を屈めてぷるんくんをひと撫で。

 にしても、本当に素晴らしい3階建の宮殿だ。
 
 レンガ一つ一つが芸術の域で、屋根の色はコバルトブルー。

 圧倒的な規模に驚くばかりだが、僕は歯を食いしばってカリナ様とサーラさん、ぷるんくんと共に舞踏会が開かれる会場へと向かう。

 すると、

「カリナ様だ……」
「美しい……」

 舞踏会に参加している貴族の人々がカリナ様を見て嘆息を漏らした。

「カリナ様、新しい執事を雇われたかな?」
「スライム?」
 
 貴族たちは僕に怪訝そうな視線を向けてくる。

 やがて、会場に差し掛かった僕たち。

 中には美味しい食べ物や飲み物がビュッフェのような感じで陳列されていて、みるからに美味しそうだ。

「ぷりゅん……」

 物欲しそうにそれらを見つめるぷるんくん。

「ぷるんくん、あれは貴族の方々が食べるものだよ。ぷるんくんは後で僕がいっぱいあげるから」
「んん……」

 残念そうにぷるんくんは頭を俯かせるが、気を取り直して、眉毛を『\ /』にして警戒体制に入る。

 カリナ様の人気は想像以上だった。
 
 若い男性はもちろんのこと、女性、年老いた老人まで、美しくなっただの、キュロス様にはいつもお世話になっているのだと、たくさん喋っている。

 マホニア魔王学院の生徒たちの姿もちらほら見える。
 
 ぷるんくんと僕とサーラさんは離れたところから彼女を見守っていた。

 こうして見ると、やっぱりカリナ様は国の中枢を担う人であることがわかる。

 貴族同士の談笑が一通り落ち着くと、舞台の壇上の上で王冠を被った方が葡萄酒が入ったワイングラスを手に持って周りを見渡す。

 すると、会場には冷や水を差したようにシーンと静まり返る。

 実際に見るのは初めてだが、この方は……

「ようこそ。王室主催の舞踏会へ」

 ルドルフ4世。

 ラオデキヤ王国に君臨する軍部のトップにして王。
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