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メディチ家

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舞踏会の前夜

カリンの母の部屋

「……」

 枯れ果てた一人の女性は暗がりの部屋のベッドの中で横になっている。

 亜麻色の髪の毛には水分がなく、皮膚は枯れた葉っぱのようだ。

 そして、

「ん!」

 これまで、一定の小さな呼吸を繰り返してきたが、いきなり体が痙攣し出す。

「死……死の影が……」

 何者かに怯えるように、彼女は骨と皮しか残ってない自分の体を必死に動かす。

「私は呪われた存在……私の奏でる旋律は呪いの言葉……私はいらない存在……」

 そう呟いた彼女の体からは黒い光が出たり入ったりする。

 部屋の隅っこには調整されてないヴァイオリンが置かれている。

 弦はとっくに錆びついている。

X X X

 舞踏会当日

 いよいよやってきた!
  
 アランとの一件が一段落ついて、上級マナー草の採取の依頼も頻繁に受け、やっと生活が安定したかと思えば、一大イベントが僕を待ち受けていた。
 
 王室主催の舞踏会。

 上位貴族や王族たちが集うアツアツな行事。

 ここで僕はカリナ様の執事として、彼女の守り役を果たすことになる。
 
 緊張しまくりだ。

 僕が歩きを止めると、カタツムリのように這っていたぷるんくんが異変に気づいて後ろを振り向いた。

「ん?」
「あ、ぷるんくん。ごめんよ。行こうね」
 
 僕とぷるんくんはカリナ様が住むメディチ家の屋敷へと向かった。

 メディチ家は王都の中にあるため、歩いても十分いける。

 メディチ家は僕に絶大な影響を与えてきた。

 平民でも王立中央図書館を出入りできるようにしてくださった宰相のキュロス様と僕とずっと助けてくださったカリナ様。

 頭が上がらない。

 なので、カリナ様には今までの恩もあるから無給で働くと強く主張したが、カリナ様は絶対ダメだとおっしゃって、結局給料をもらう運びとなった。

 お金をもらうからには、失敗は許されない。

 いや、お金より、僕をずっと助けてくださったカリナ様のことだ。

 何があっても執事としての役割を果たして見せる。

 と、闘志を燃やしながら前を進む。

 メディチ家の屋敷の正門に辿りついた。

 そこにはイカツイ門番二人が待機しており、僕とスライムを睨んできた。

「あの……」
 
 僕が話しかけると、門番のうち一人が納得顔で問う。

「名前は?そのスライムも含めて」
「僕の名前はレオです。そして、この子はぷるんくんです」
「ふむ。よろしい」

 言って、門番は頷いてからドアを開けてくれた。

 なので、僕は門番二人にお辞儀をして、ぷるんくんと共に中に入った。

 ここはまるで別の世界が広がっているようだった。

 メイドさんたちが芝生を管理したり、庭で水やりと落ち葉を箒で掃いている。

 動作一つ一つに無駄がなく、服装だってほつれ一つ見当たらずとても洗練されていた。

 途中、僕の存在に気がついたメイドさんたちは軽く頭を下げたのち、また作業に戻る。
 
 名門家に仕えるメイド一人とってもこんなに立派な方が多いんだ。

 僕なんかが、カリナ様の執事を務めても良いのだろうか。

 もっとこう、背が高くイケイケしそうな優しいお兄さんのようなスタイルも良くてテキパキ働く優秀な執事が似合っていると思う。

 なんか不安になってきた。

 すると、

 多くのメイドのうち、異彩を放つ存在が見えてきた。

 カリナ様の専属メイドであるサーラさんだ。

 サーラさんは僕を見つけた途端に、早足でやってくる。

「レオさん、ようこそおいでくださいました」
「サーラさん……こちらこそお邪魔します」
「ぷるんくんも、こんにちは」
「ぷりゅん」

 挨拶を済ませた僕たち。

 サーラさんは落ち着いた口調で、話す。

「先日話した通り、執事服とその他もろもろは、こちらで用意してあります。さ、こちらへ」
「は、はい……」
 
 サーラさんに案内されるがまま、僕たちは奥の方へ進んだ。

「す、すげえ……」

 目の前に広がっているのは、

 二階建ての立派な豪邸だった。

 サーラさんはその立派な豪邸の大きなドアを開け、僕とぷるんくんを見てちょいちょいと手招く。

「カリナ様はすでにおめかしをされているところなので、レオさんとぷるんくんも中に入って、準備をお願いします」

 僕はこの非現実的な瘴気にあてられ、無言のままぷるんくんを抱えて中に入った。

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