81 / 95
胡椒にまつわるなにか
しおりを挟む
レオside
満足していたアデルさんのことを思い出したら、不思議と足がとても軽くなるようであった。
僕の隣にはぷるんくんがカタツムリのように這ってついてきてくれている。
僕は笑顔を浮かべてクザンさんがいるLa Vitaへと向かった。
喫茶店La Vita
「いらっしゃ……レオくんだったのか」
僕を迎えてくれたのはクザンさんだった。
長い金髪を結って、左目の下には泣きぼくろが一つ。
筋肉質で顔には貫禄があるが、イケメンだ。
彼は感情を表に出さないタイプの人間で、その落ち着いた感じが、女性客たちから好評らしく、平民貴族問わず主に女性客が訪れる。
昼間だと、主にマダムたちがやってくる。
厨房を覗き込むと洗ってない皿が結構ある。
「手伝います」
いうと、クザンさんは安堵のため息をついた。
「助かる。ん?スライム?」
クザンさんはぷるんくんの存在に気がつき、不思議そうにぷるんくんを見つめた。
「はい!僕の家族ぷるんくんです!」
「ぷりゅん!」
「そうか……なるほど」
そして、何かを納得したように微笑む。
ひとしきり客を捌いて、落ち着いたところで、僕とクザンさんはお客用テーブルで向かい合うように座っている。
ぷるんくんはというと、カウンターに座りながら、コーヒーサイフォンやらコップやら皿やらを興味津々な目で見つめている。
僕は早速クザンさんに借りたお金と利息分のお金をテーブルに広げて差し出した。
「借りたお金と利息です。受け取ってください」
「今はいらないかな」
「え?」
クザンさんは大人の笑みを見せながら断った。
アデルさんと同じ反応をされてしまった。
「出世払いでいいさ。レオくんは学生だから」
「……本当に、いいんですか?」
「ああ。君のことは信頼している。私は帝国の金貸し屋みたいにがめつくはないよ」
「……」
クザンさんはまた大人の笑顔を見せてくれた。
申し訳ない。
僕はクザンさんが信頼するほどできた人間じゃないから。
「僕は信頼できる人間じゃありません……」
「信頼できない人は雇わない。だから、うちの店の店員は君一人だ」
「……なぜ僕なんかを雇ったんですか?」
アデルさんのおかげで住む場所が決まった直後に僕は金を稼ぐために王都を転々とした。
そんな中、クザンさんに見つけられ、僕は即採用となった。
僕の問いに、クザンさんは昔を思い出して懐かしむように、儚い微笑を浮かべた。
そして僕を見つめ、口を開く。
「それは、あの時のレオくんの表情が昔の私と似ていたからだよ」
「……そうですか」
小さくため息をつくクザンさん。
僕はそんな彼のため机の上に紙に包まれた何かをそっと置いた。
「ん?なに?」
クザンさんの問いに、僕は言う。
「胡椒です。もらってください。今までのお礼です」
「!?」
クザンさんは早速紙の包みを開けた。
すると、
量は少ないが上質な胡椒が姿を現した。
「これを一体どこから手に入れたんだ!?」
「それは……スキルの一種と言いましょうか、でも大量には作れませんので……」
「まさか……レオくんが私に胡椒を……胡椒の件はあの馬鹿野郎のせいで全てが台無しになったはずだが……」
「え?」
クザンさんは訳のわからないことを呟いている。
「レオくん……」
「はい」
「これ、売ったら大問題になる」
「これは売りませんよ」
「いや、もし君がこれ以外の胡椒を誰かに売ってしまったら、大問題になる。闇業者もだめだ」
「え?」
「これは命に関わる問題だよ。絶対売ってはならない」
クザンさんがこんなに深刻な顔をしたのは初めてだ。
僕は彼が漂わせる雰囲気に圧倒され、そのまま頷いた。
肉が好きなクザンさんに胡椒をあげたらきっと喜ぶと思っていたが、
どうやら彼は胡椒そのものじゃなく、胡椒にまつわる何かを警戒しているように思える。
クザンside
レオとぷるんくんが去った後、クザンは仕事をしている。
けれど、顔はいつもと違って強張っていた。
「私はLa Vitaの店主。それ以上でも以下でもない」
自分を戒めるように言って深呼吸をしたクザンは、仕事に戻った。
満足していたアデルさんのことを思い出したら、不思議と足がとても軽くなるようであった。
僕の隣にはぷるんくんがカタツムリのように這ってついてきてくれている。
僕は笑顔を浮かべてクザンさんがいるLa Vitaへと向かった。
喫茶店La Vita
「いらっしゃ……レオくんだったのか」
僕を迎えてくれたのはクザンさんだった。
長い金髪を結って、左目の下には泣きぼくろが一つ。
筋肉質で顔には貫禄があるが、イケメンだ。
彼は感情を表に出さないタイプの人間で、その落ち着いた感じが、女性客たちから好評らしく、平民貴族問わず主に女性客が訪れる。
昼間だと、主にマダムたちがやってくる。
厨房を覗き込むと洗ってない皿が結構ある。
「手伝います」
いうと、クザンさんは安堵のため息をついた。
「助かる。ん?スライム?」
クザンさんはぷるんくんの存在に気がつき、不思議そうにぷるんくんを見つめた。
「はい!僕の家族ぷるんくんです!」
「ぷりゅん!」
「そうか……なるほど」
そして、何かを納得したように微笑む。
ひとしきり客を捌いて、落ち着いたところで、僕とクザンさんはお客用テーブルで向かい合うように座っている。
ぷるんくんはというと、カウンターに座りながら、コーヒーサイフォンやらコップやら皿やらを興味津々な目で見つめている。
僕は早速クザンさんに借りたお金と利息分のお金をテーブルに広げて差し出した。
「借りたお金と利息です。受け取ってください」
「今はいらないかな」
「え?」
クザンさんは大人の笑みを見せながら断った。
アデルさんと同じ反応をされてしまった。
「出世払いでいいさ。レオくんは学生だから」
「……本当に、いいんですか?」
「ああ。君のことは信頼している。私は帝国の金貸し屋みたいにがめつくはないよ」
「……」
クザンさんはまた大人の笑顔を見せてくれた。
申し訳ない。
僕はクザンさんが信頼するほどできた人間じゃないから。
「僕は信頼できる人間じゃありません……」
「信頼できない人は雇わない。だから、うちの店の店員は君一人だ」
「……なぜ僕なんかを雇ったんですか?」
アデルさんのおかげで住む場所が決まった直後に僕は金を稼ぐために王都を転々とした。
そんな中、クザンさんに見つけられ、僕は即採用となった。
僕の問いに、クザンさんは昔を思い出して懐かしむように、儚い微笑を浮かべた。
そして僕を見つめ、口を開く。
「それは、あの時のレオくんの表情が昔の私と似ていたからだよ」
「……そうですか」
小さくため息をつくクザンさん。
僕はそんな彼のため机の上に紙に包まれた何かをそっと置いた。
「ん?なに?」
クザンさんの問いに、僕は言う。
「胡椒です。もらってください。今までのお礼です」
「!?」
クザンさんは早速紙の包みを開けた。
すると、
量は少ないが上質な胡椒が姿を現した。
「これを一体どこから手に入れたんだ!?」
「それは……スキルの一種と言いましょうか、でも大量には作れませんので……」
「まさか……レオくんが私に胡椒を……胡椒の件はあの馬鹿野郎のせいで全てが台無しになったはずだが……」
「え?」
クザンさんは訳のわからないことを呟いている。
「レオくん……」
「はい」
「これ、売ったら大問題になる」
「これは売りませんよ」
「いや、もし君がこれ以外の胡椒を誰かに売ってしまったら、大問題になる。闇業者もだめだ」
「え?」
「これは命に関わる問題だよ。絶対売ってはならない」
クザンさんがこんなに深刻な顔をしたのは初めてだ。
僕は彼が漂わせる雰囲気に圧倒され、そのまま頷いた。
肉が好きなクザンさんに胡椒をあげたらきっと喜ぶと思っていたが、
どうやら彼は胡椒そのものじゃなく、胡椒にまつわる何かを警戒しているように思える。
クザンside
レオとぷるんくんが去った後、クザンは仕事をしている。
けれど、顔はいつもと違って強張っていた。
「私はLa Vitaの店主。それ以上でも以下でもない」
自分を戒めるように言って深呼吸をしたクザンは、仕事に戻った。
10
お気に入りに追加
1,644
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる