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ワイルドなギルド会館にちっこいスライム

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王都にあるギルド会館
 
 タイリア市場からちょっと離れたところにあるギルド会館。

 僕が長期間休んでいる喫茶店La Vitaでは、ぷるんくんのための食材費を稼ぐことができないため、ここにやってきた。
 
 狙いは一攫千金。

 そのお金でぷるんくんの食事のための材料を買うって魂胆だ。

 この間ぷるんくんが倒したレッドドラゴンの素材を売ればいいんじゃないかって突っ込んでくる人もいるかもしれない。

 だけど、それは困る。

 第一に、僕はFランクの底辺冒険者だ。

 そんなやつがいきなり「国家権力を駆使しても倒せないレッドドラゴンの素材です~」って言っても、絶対疑われて厄介なことになってしまう。

 第二に、なんの基盤もない状態でSSランクのモンスターを倒せることが知れ渡ったら、危ない人たちが接近してくるに違いない。

 もし、反国家勢力とかそんな類の人と関わってしまったら、一巻の終わりだ。

 つまり、僕は低レベルでも大金が稼げる都合のいい依頼を探しているわけだ。

 金をいっぱい稼いだら、タイリア市場で香辛料や食材などを大量に買って、異世界料理をいつでも大量に作れる体制を整える必要がある。

「きっとあるはずだよ!都合のいい依頼!」

 と、意気込んで僕は自信満々にギルド会館の扉を開けた。

 受付の優しいお姉さんが僕のことを歓迎してくれるはずだ。

 学院の生徒たちの会話を小耳に挟んだことがある。

 ギルド会館のお姉さんはとても優しくて美人であると。

 僕は目を輝かせて中を見渡した。
 
 そこには

「おいくっそがああ!!俺の取り分が足りないんだろうが!!!」
「んだと!?てめえはなんの役にも立たなかったろ!!もらえるだけでもありがたく思え!」
「役に立たなかったんだと!?ふざけんな!ずっと俺の尻馬に乗って美味しいとところ全部持って行ったくせして!」
「んだと!?」

 中は騒然としていた。

 どう考えてもやばい大人たちが、依頼報酬の分配の仕方で揉めていたり、

「ぷあああ!!!やっぱり朝っぱらから飲むビールは最高だぜ!!んくんくきゃああ!!ここはきゃわいい受付のお姉さんがいるからもっと最高だもんだ!えっと、今日は……」

 おっさんがビールを飲んでよがっていたり、

「へーい、そこのきゃわいい嬢ちゃん、俺と一緒に遊ばない~」
「はあ?もうちょっとセリフ考えてから話しかけろ。うざい」

 チャラすぎる冒険者お兄さんが、気の強い女性冒険者をナンパしたり……

 まさしく阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 怖い……

 これが野生味あふれるザ・ギルド会館ってわけか。
 
 ライデン村、王立図書館、マホニア魔王学院しか知らない僕にとってはここはまさしくカオスそのものだった。

「ぷりゅん……」

 僕の隣にいるぷるんくんも、この殺風景を目の当たりにして戸惑っているようだ。

 すると、僕と同じ年くらいの不良っぽい男二人が、不満そうに何かを呟く。

「なんで今日はギルドのお姉ちゃんいねーんだよ。お姉ちゃんの代わりにツルッパゲがいるし」
「あはは、そうだな。ツルッパゲ。ずっと俯いているけど、新米かな。だったら、あんなツルッパゲじゃなく、綺麗な女の子にしろよ」

 不良たちは不満たらたらで受付のところを睨む。

 確かに受付席にいるのはハゲた男だ。
 
 顔を俯かせているため、顔までは見えないが。

 その瞬間、

 そのハゲた男は頭を上げた。

 すると、この場にいるみんなが驚愕した。

 傷だらけの顔、鍛えられためっちゃ強そうな筋肉、そして

 怒り狂った表情。

 見た目だけだと百戦錬磨もAランク冒険者っぽい。

!!!!!!



 受付男の叫びに、取り分で揉めていた男、酒を飲んでいたおっさん、ナンパ男、不良二人は、脱兎の如く逃げ去る。

 ものすごい迫力だ。

 一瞬、僕の足が震えた。
 
 怖い……
  
 怖いよ!!

 と心の中で叫んでいると、受付男は咳払いをし、呟く。

「ったくよ!こんな連中ばかりだから妹が病んだのか……」

 と、ため息をついた受付男は周りを見渡して、大声で言う。

「依頼を受けたいやつがいれば早くこい!」

 受付男の問いに、誰もが目を伏せて冷や汗をかく。
 
 受付男は不満げにため息をついてから、僕の方に視線を向けた。

「おい、そこの制服の子、用があるならさっさと来い」

 真っ先に僕が呼ばれてしもうた!

 なので、僕はぐるぐる目になりながら受付カウンターへと行く。

「で、なんだ」
「え、えっと……依頼を探しているんですけど……」
「どんな依頼?」
「そ、それはですね……短時間でいっぱい稼げるやつがあれば……」
「へえ、お前ランクは?」
「……Fです」
「……ない」
「でででですよね……でも、僕の使い魔は強いんで、上位ランクのクエストでも受けられるとおおお思います……」
「お前、テイマーだったのか……」
「はい!」
「どんな使い魔だ?」

 と、顔が傷跡だらけの怖いお兄さんに問われて、僕は下で僕を見上げているぷるんくんを持ち上げた。

 僕は最強スライムの主だ。

 ビビるなよ。

 堂々と振る舞え!

 なので、僕はドヤ顔で、ぷるんくんをめっちゃ強そうな受付のお兄さんに突き出して

「この子は、僕の家族、ぷるんくんです!」

 緊張しながら僕が放った言葉に返事でもするかのように、ぷるんくんがちっこい両手を生えさせ、受付のお兄さんに向けてパンチをする(手が小さすぎるので届かない)。

「ぷる!ぷるる!ぷるるるるん!ぷりゅん!!」

 ずっと怖い顔の受付のお兄さんだったが、今は魂が抜かれたような表情で口を半開きにしている。

「は?」

 周りにいる他の冒険者も反応は同じだった。

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