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高い所に立つものと低い所でひれ伏すもの

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 最弱になったウル。

 そんなウルは、アランの顔を見たのち、自分の顔を俯かせて寂しくアランの横を通り過ぎる。

 ウルの後ろ姿を見ていると、

 弱い自分なんかいらないでしょ。

 私はあなたの役に立たない。

 私はいなくなった方があなたのためだ。

 みたいな哀愁が漂っているようだ。

 アランはというと、

「……このアランから逃れると思うのか」
 
 必死に体を動かし、40センチほどのウルを抱きしめ、唱える。

「テイム」

 すると、二人が明るく光り始める。

 まるで、僕がぷるんくんをテイムした時の光を見ているかのようだ。

「ウル……」
「んん……」

 二人は互いを見つめる。
  
 それから、僕の方へ向き直り、二人は僕に土下座をした。

「俺の負けだ……」
「んん……」

 ぷるんくんは跪いた二人をじっと見つめる。

 一体ぷるんくんは何を考えているのだろう。

「ぷりゅん……」

 ぷるんくんは僕の方へ向き直り、両手を地面につける。

 すると、

 地面が隆起した。

「え、え!?ぷるんくん!?これは一体?」

 僕の問いにぷるんくんは何も言わず、ただただドヤ顔で僕を見つめた。

 直三角形のような形で隆起した地面。

 僕は最も高いところにいて、真ん中にはぷるんくん、そしてにはアランとウルがいる。

 ぷるんくんは僕に平伏した。

「ぷるんくん……」

 無言のぷるんくん。

 この構図はいろんな意味を含んでいる。

「……」

 また罪悪感が訪れてきた。

 それをなんとか誤魔化すべく、僕はぷるんくんの方へ降りてきた。

 そして、

 両手でぷるんくんを抱え、一番高いところへ向かう。

 僕はぷるんくんを高く持ち上げた。

「ぷりゅん?」

 僕に向けて、はてなと小首を傾げるぷるんくん。

「ありがとう。ぷるんくんのおかげで、僕は自由を手に入れた。ぷるんくんが僕の家族で本当によかった!」
 
 僕の言葉を聞いてぷるんくんは、気持ちよさそうに体を震えさせ、ドヤ顔をしながら観客を見つめる。

 雲の切れ間から太陽の光が差し込み、僕とぷるんくんを照らした。

 それと同時に、白い鳩たちが飛び上がる。
 
 微風が心地よい風を運んで、僕の鼻腔を通り抜けた。

 僕は見せつけるように、観客全員にぷるんくんの姿を見せる。

「嘘……」
「貴族が平民に平伏すだなんて……あり得ない……」
「アランは貴族の恥だ!」
「こんなの、馬鹿馬鹿しい……」

 僕とぷるんくんのことを好ましく思わない連中は多い。

 けど、

「っしゃ!!平民!よくやったぞ!」
「アランの高慢ちきな鼻っ柱をへし折るなんて、なかなかやるな!」
「アランのやつ、ざまみろ」
「すごい!」

 アランを貶す者もいる。

 だが、こんな人の評判なんか気にしない。

 人の評判なんか大衆心理によってコロコロ変わるものだ。

 今は、
 
 ぷるんくんと一緒にいるこの瞬間が、僕にとってかけがえのない尊い奇跡だ。

 この触感、感覚をいつまでも思い出せるようにじっくり感じていたい。

 そんなことを考えていたら、僕とルアナ先生と目が合った。

 僕は頷く。

 すると、ルアナ先生は微笑みを浮かべ高らかに叫んだ。

「勝者、レオ!」

 ルアナ先生の微笑む姿は初めて見る。

 けれど、ルアナ先生の瞳は、僕の行動の裏を読んでいるように見えてしまう。

 僕は不思議そうに彼女を横目に見てからぷるんくんと共に下へ降りてきた。
 
 これで、終わりだ。

 長年僕を束縛してきたプレッシャーの一端は消失した。

 そういえば、そろそろ晩御飯を作らないといけないんだった。

 ヤキトリ全部食っちゃったもんな。

 食材もないし、お金もない。

 しかし、心は軽い。

 僕が微笑んでいると、急に顔がマシュマロのような柔らかいものによって埋まってしまった。

「っ!?」
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