昔助けた弱々スライムが最強スライムになって僕に懐く件

なるとし

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ぷるんくんは切なく泣く

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翌日

 目が覚めた。

 僕を苦しめる辛い現実が心を蝕む気がして発作をするように目を見開く。

「っ!!」

 喉に何かがつっかえたような心地悪さと、口の中に広がる苦い味にはいまだに慣れない。

 いつもの朝だ。

 また繰り返されるんだ。

 と、一瞬顔を顰める僕だったが、

「んん……」
 
 誰かがすやすやと寝息を立てる音が聞こえた。

 僕は視線を天井から下に向けると、

「ぷるんくん……」

 ぷるんくんが僕の左胸に引っ付いて眠っている。

 まるで赤ちゃんのようによく寝ている様子だ。

 窓から差し込む光によって黄色いぷるんくんがより光っているように見える。

 喉の違和感と口の中に広がる苦い味がなくなった。

「本当に、こんなちっこい子がキングレッドドラゴンを倒したのか……」

 とボソッと漏らしてから、僕はぷるんくんの左目の上にある十字傷を見つめる。

「……」

 僕は物憂げな表情をして、その十字傷に手をそっとおいた。
 
 その瞬間、ぷるんくんがギョッと体を震わせたが、やがてまたすやすや寝息をたてながら幸せそうに眠っている。

 今日は学院に行かないといけない。

 机にある魔法時計を見れば7時を指している。

「……早く支度しないと遅刻しちゃう」

 いつもは6時30分くらいに起きるが、昨日は疲れていたため、どうやら寝坊をしたようだ。

 僕はぷるんくんを左胸から離して、ゆっくりといった感じでベッドにそっと置いた。

 とりあえずシャツだけ新しいものに着替えて登校しよう。

 マホニア魔法学院での僕……

「……」

 ぷるんくんに見せるわけには……

 留守を頼んでもらおうか。
 
 僕は外に出て顔を洗ってからまた家の中に入って新しいシャツに着替えた。

 そしたら、
 
「ぷりゅん」
「あ、ぷるんくん。おはよう」

 支度をする僕の立てる音に目が覚めたらしいぷるんくんがベッドの上から僕を見つめた。

 ここから学院までは歩いて1時間ほどかかる。

 今日は早歩きで行こう。
 
 と、支度を終えた僕はカバンを引っ提げてぷるんくんに言う。

「昨日も言ったけど、今日は学院に行かないといけないんだ。だからね、ぷるんくん。留守を頼んでいいか?午後4時くらいには帰ってくるからさ」

 僕は作り笑いしてぷるんくんから目を逸らした。

「じゃ、僕、行ってくる」

 僕は握り拳を作って踵を返した。

 そして重たい足をなんとか突き動かしてドアを開けた。

 このまま外に出て一人で学院に行くのだ。

 いつものように。

 そう思っているのだけど、

 気の迷いか、僕は無意識のうちに後ろを振り向いた。

 そしたら

「……ぷるんくん」
「ぷりゅん……」

 地面にいるぷるんくんが僕を見上げていた。

 真っ直ぐなお目々で僕をじっと見つめている。

 だが、そのまん丸なお目々からは

 涙が流れ始めた。

 ぷるんくんは泣いている。

「……」
 
 心が痛くなった。

 6年前のことを思い出す。



 約束を守れなかった。
 
『また会おうな!ぷるんくん!』

 6年間会えなかった。

 ここで、離れてしまうと、また長らく会えないんじゃないだろうかと、そんな不安をぷるんくんは持っているのだろう。

 6年前の繰り返しになるかもしれないから、ぷるんくんは涙を流しているんだ。

「んんんんんん……」

 ぷるんくんが切なく僕を見上げている。

「……」

 もし、ぷるんくんが学院で僕がどのように過ごしているのかを見てしまったら……

 きっとがっかりすると思う。

 アランの連中にいじめられたり、魔法の才能がないから無視されたり……

 惨めな主《あるじ》を目の当たりにすると、間違いなく嫌いになる。

 約束を守れない上に、惨めな主だなんて……

 それは、アランたちにいじめられるより辛いことだ。

 だが、

 それよりもっと苦しくて辛いのは

 

 僕はしゃがみ込んでぷるんくんを見つめて

「ぷるんくん、一緒に行こうか?」
「ん!?」

 僕の問いかけに、ぷるんくんは泣くのをやめ、

「ぷりゅん!」

 ジャンプをして、僕の左胸に引っ付いた。
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