昔助けた弱々スライムが最強スライムになって僕に懐く件

なるとし

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どうかこの奇跡が夢ではなく、現実でありますように

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カラアゲを全部体内に取り込んで吸収した。

 カラアゲはぷるんくんの黄色い体の中であっという間に吸収されてゆく。

 ぷるんくんが天啓に打たれたように目を丸くした。

「んんんん!!!んんんんん!!!んんんんんん!!!!」

 体を震わせるぷるんくんは、急にテーブルから降りて僕の周りを凄まじいスピードで駆け巡る。

「ぷ、ぷるんくん!?」

 ぷるんくんの突然すぎる行動に戸惑う僕だが、ぷるんくんはやがて僕の方にジャンプをし、

ペチャ!

 僕の左胸に引っ付いた。

 ぷるんくは僕の顎に必死に自分の体を擦り付けながら「んんんん」と気持ちよさそうに音を出す。

「そんなに美味しいか?」
「ぷりゅん!」

 目を輝かせて明るい表情を向けるぷるんくん。

 眉毛っぽいものも、目も『^^』に似た形をしていて、僕まで微笑んでしまう。

 僕は自分に引っ付いているぷるんくんの頭を優しくなでなでしてあげた。

 すると、

 グウウウウウウウウ!!!! 

 ぷるんくんのお腹が鳴った。

「ぷりゅん……」

 ぷるんくんはまた落ち込む。

 どうやらこれだけじゃご満足いただけてない様子。

「よし!今日はぷるんくんが満足するまでカラアゲをいっぱい作ってやるぞ!!」

 僕はぷるんくんに熱い視線を向けた。

 正直に言って結構疲れている。

 創立記念日にライデン村まで行ってきたんだ。

 結構過酷の旅だった。

 キングレッドドラゴンから攻撃されたこともあって、食材の召喚により結構な魔力を使った。
 
 けれど、
 
 この左目の上に十字傷がついているぷるんくんを見ていると、切ない気持ちと罪悪感とそれらを誤魔化すための熱い気持ちが漲ってきた。

 だから僕は必死にカラアゲを作った。

 ぷるんくんの食欲は常識を逸していた。

 おそらく平民男性の100倍は食べるんじゃなかろうか。

 そう思うほどぷるんくんはすごい量を食べる。
 
 途中、足りなくなった食材を再び召喚したり、油を入れ替えたりしながら作っていくこと数時間。

「ぷりゅん……」

 ぷるんくんがとても幸せそうな表情を浮かべて皿の中に収まっている。

「はあ……はあ……」
 
 僕はというと、重労働による疲労で力が尽きた。

 頭が回らない。

 魔力切れギリギリまで魔力を使って食材を召喚したからな。

 もう色々限界だ。

 制服姿の僕は頭を押さえて、おぼつかない足取りで部屋へと歩き、そのままベッドで横になる。

「……」

 しんどい。

 でも、

「ん」

 いつしか僕の隣にきたぷるんくんを見ていると、心が温かくなる。

 横になっている僕は両手を伸ばしてぷるんくんを抑え、高く持ち上げた。
 
「ぷるんくん、お腹いっぱいになった?」
「ぷりゅん!」

 ぷるんくんはドヤ顔で頭を激しく縦に振った。
   
 僕は明るく笑った。

「よかった!ふふ」

 言って僕はぷるんくんを下ろし、目を瞑った。

「ぷるんくん、僕、もう寝るね。明日学校なんだ」
「ぷるん?」
「だから……蝋燭の火、消してくれないか」
「ん」

 もう火を消す体力も残ってない。

 僕が言ってから数秒後に、周りが暗くなるのを感じた。
 
 どうやらぷるんくんが消してくれたようだ。

 とても賢いスライムだ。

「ありがとう。ぷるんくん。おやすみ」

 月光が差し込む薄暗い部屋。

 古い木造の建物固有の幽玄な香り。

 フクロウの鳴き声……

 そして

 金欠

 学院

 イジメ
 
 無力

 無能

 寂しさ

 まだ僕を縛り付けるプレッシャーはたくさんある。
 
 けれど、

 今日だけは……

 今夜だけは……

 何かもを忘れて今を味わいたい。

 肉体的にも精神的にも疲れ切っているけれど、ぷるんくんと出会えたこの出来事は……

 まるで朽ち果てた切り株から芽が出るような奇跡のようで、

 僕に罪悪感と本物の安らぎを与えていた。

 僕は心の中で静かに願うのだった。
 
 (どうかこの奇跡が夢ではなく、現実でありますように)

 僕は何かを探るように手を動かした。

 そしたら、手先に柔らかい感触が伝わってくる。

 僕は眠りに落ちた。
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