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無知がもたらした悲劇3

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松明を引っ提げて走ってくるケルの姿が見えた。

『ぐ、ぐうう……』

 ジャイアントベアは明るく光る松明とケルの殺気立つ顔に驚いたらしく、凄まじいスピードで逃げてゆく。

 ケルは後ろにいるエミリに松明を渡して、僕の方へ走ってきた。

 彼は血を大量に流す僕を抑えて泣き始めた。

『レオ……全部俺のせいだ。俺が大人たちの話を嘘だと決めつけて、レオをここに連れてきたから……う、うう……俺は口だけ一人前な悪いやつだ……全部……全部俺のせいだ!!』
『ケル……』

 ケルの泣き顔の後ろには松明を握っているエミリの泣き顔。

『レオくん……レオくん……』

 僕はそんな二人に向けて言う。

『僕を助けてくれてありがとう』

 言い終えた僕に聞こえるのは耳鳴りの音。

 僕は気を失った。

 目を覚めたのは七日後だった。

 この事件があってから、僕は告げ知らされた。

 僕が行ってきた場所は、

 スライムが住む最弱Fランクのダンジョンではなく、最強種が集うSSランクのダンジョンであると。

 僕は数日間食事ができないほど嘆き悲しんでした。

 ダンジョンの入り口付近にはおそらくぷるんくんのように弱いモンスターがいるはずで、ぷるんくんはそいつらを倒して強くなるんだと勝手に信じていた。

 だが、僕の予想は完全にはずれ、あそこは強力なモンスターだけが棲息する最強ダンジョン。

 あんな最弱スライムがSSランクのダンジョンで生き残るはずがない。

 僕はとても悲しく泣いた。

 モンスターは冒険者や貴族だけが知る分野だと勝手に決めつけて、ダンジョンやモンスターについて知ろうとしなかった僕の無知がもたらした悲劇だ。

 だから僕は領主様の家に行き、ダンジョン、魔法、モンスターに関する書籍を借りて読んだ
 
 領主様は快く僕に協力してくれた。

 ぷるんくんへの罪悪感を忘れるために、僕は領主様が持っている書籍を読みふけ、気がつくと、全ての書籍を読むことができた。

 僕は領主様のおすすめで王都へ向かい、王立中央図書館でもっとたくさんの本を借りることができた。
 
 宰相を勤めるメディチ家の偉い方の働きのおかげで、領主様の許可をもらったら、平民でも王立中央図書館に行って書籍を借りることができるようになったらしい。

 僕の無知がぷるんくんをSSランクのダンジョンに置くという悲劇を招いたのだ。

 だから僕は知識を蓄えるべく、足繁く王立中央図書館に通っていろんな本を読んだ。

 一年が過ぎた。

 僕は魔力覚醒することに成功した。

 魔力覚醒とは魔力の源が体に宿ることを意味する。

 魔力覚醒をすれば余程のことがない限り、属性に目醒めることになる。

 僕と両親は大いに喜んだ。
  
 僕の心の片隅にはいつもぷるんくんの存在がいて、僕の背中を押し続けている。

 僕とぷるんくんが一緒に暮らす姿。

 ぷるんくんが生き残っている可能性はゼロに近いが、小さな希望とぷるんくんへの罪悪感のおかげで僕は前に突き進むことができた。

 強くなろう。

 僕は約束をしたのだ。

 だが、

 時間が経っても、僕は属性に目醒めることはできなかった。

 かてて加えて、僕が名門マホニア魔法学院に合格してすぐ、

 両親が事故で亡くなった。

 親の財産は親族のおじさんが全部持って行って、僕が無事にマホニア魔法学院に卒業できるよう面倒を見るようにという両親の遺言も守ってくれない。

 約束した仕送りもほとんどもらったことがない。

 そして入学してからは地獄が始まる。

 アランと二人の友達による執拗ないじめ、金欠、親の死による悲しさ、属性に目醒めない弱い自分、無力な自分。

 約束を守れない自分。

 こんな惨めな僕だが、

 一つだけ譲れないものがある。

 それは、

 ぷるんくんとの思い出。

 それは絶対否定されてはならない追憶だ。

 いくら伯爵系の長男であるアランでも、これだけは断じて譲らない。

 だから僕はここにやってきたのだ。

 そして出会えたのだ。

 ぷるんくん。

 ぷるんくんは相変わらず僕の左胸に引っ付いたまま泣いている。 

 僕はそんなぷるんくんを抱き抱えた。
 
 昔と比べたら体は大きく、表面には凸凹が少々ある。

 そして、体が冷たい。

 昔も冷たかったけど、ぷるんくんの体が大きくなったせいか、冷たさがより際立つ。

 そして最も気になるのは

 左目の上にある十字傷。

 一体ここでどんな凄惨な生活を送ってきたんだろう。

 そのことを考えると、

 痛い。

 痛い。

 僕の心が締め付けるように痛い。

 十数分が経つと、ぷるんくんは泣き止んで、僕の顔を真っ直ぐ見つめる。

「ぷりゅ……」
「ぷるんくん……」

 ぷるんくんは手を生えさせ、僕の頭の上に自分の手をそっと置く。

 すると、

「な、なんだこれは……」

 僕とぷるんくんの体が黄色く光った。

 一体ぷるんくんは僕に何をしたと言うのか。

 戸惑いの中、僕の目の前に文字が現れた。


ーーーー

スキル移転

スライムはあなたにスキル移転を行いました。

移転されるスキル

鑑定
収納
異世界料理
テイム

ーーーー

「スキル移転?鑑定……収納……異世界料理?……え?」

 僕は驚くしかなかった。
 


「て、!?!?!?!?!?!?!」


「ぷりゅん!!」
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