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無知がもたらした悲劇1

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『やっとついた……』

 僕が住んでいる集落が見えてきた。
 
 大人たちが絶対行ってはならないと口が酸っぱくなるほど言っていた危険地域から無事に脱出できた。

 奇跡だと思う。

 いつも問題ばかり起こすケルに振り回されない限り、僕は新しい世界へ足を踏み入れることはしない。

 僕は昔から元々怖がり屋で消極的な男の子だった。

 けれど、このちっこいぷるんくんがそばにいてくれるだけで、謎の力が湧いてきた。

 僕が胸を撫で下ろしながら辺りを見て安堵のため息をついていると、畑仕事をする大人たちと目がばったりあった。

 大人たちは僕に手を振るも、ぷるんくんの存在に気がつき小首をかしげる。

 僕はそんな大人たちに挨拶をして僕の右腕に収まっているぷるんくんを見る。

 ぷるんくんは大人たちを一瞥したのち、恐れをなし、僕の左胸のところにペチャっと引っ付いて震える。

「んんんんんんんんんん……」

 うめき声を出すぷるんくん。

 なぜこんなに遅れているんだろう。

 僕はぷるんくんの頭をなでなでしながら落ち着かせた。

「大丈夫だよ。ぷるんくん」

 最初こそ震えていたぷるんくんは徐々に落ち着きを取り戻しているようであった。 

 早く家に行かなければ。

 勇気を振り絞ってお母さんとお父さんに頼んでみるのだ。

 ぷるんくんを飼っていいですかと。

 ぷるんくんを家族にしてもいいですかと。

 僕は握り拳を作って歩調を早めた。

 家に着いた。

 ちょうど二人とも家にいたので、僕はお願いをした。

 だが、

『ダメだ』
『ダメよ』
『え?』

 僕の願いはあっさり幻の泡沫と化したのだ。

『な、なんでダメですか?』

 僕の問いにお父さんが難色を示して返答する。

『魔法が使えない平民はモンスターを飼うことができないんだ』
『で、できない?』

 僕が深刻な表情で続きを促すと、お父さんはため息をついて言う。

『ああ。まだ言って無かったな。僕たちみたいな平民は魔力を持たない。モンスターを飼うためにはテイムというスキルを使って手懐ける必要があるんだ。それをしないと、領主様と国王陛下から重い罰を受けてしまう』

 と言うお父さんは悲しい顔で僕から目を逸らした。

 今なら父がなぜ目を背けたのか、その理由を知ることができるが、当時の僕は何もできなかった。

 魔力なし平民として僕を産んでしまったという罪悪感。

 当時の僕は父の気持ちなんか気にすることなく、自分の心を優先した。

『いやだ!罰なら全部僕が受けます。だからぷるんくんと一緒にいさせてください!』
『ダメだって。それに、スライムだぞ。平民の子供でも簡単にやっつけるほど弱すぎるモンスターだ。仮に飼ったとしてもすぐ死んじゃうぞ』
『もうぷるんくんは僕の家族だから!』
『……』

 僕はぷるんくんを両手でぎゅっと抱きしめながら叫んだ。

 困り果てた父。

 当然だろう。

 僕がこんな反抗的な態度を取ったのは初めてだから。

 このちっこいスライムと一緒にいるだけで、僕はいつもと違う自分になれた気がした。

 そんな僕を見てお母さんはとても穏やかな顔で優しい言葉をかける。

『レオ』
『……はい』
『レオはきっといつか、この子をテイムできると思うの』
『え?』

 予想外すぎるお母さんの言葉に僕は呆気に取られた。

 そんな僕を見てお母さんはありし日に思いを馳せるように明後日の方を見つめて言う。

『レオを産んだ時、夢見てたんだ。レオが大きくなって、強い魔法を使う白馬の王子様になる姿を』
『……』
『レオの遠い親戚にテイムを使える貴族の方がいるの。つまり、レオも魔力覚醒して属性に目覚める可能性があるってことよ。だからね、テイムを使える日がくれば、その時ぷるんくんを飼おうね!』

 当時のお母さんが何を考えていたかはわからない。
 
 ただ単に罰を受けたくないからまことしやかな話で僕を懐柔させようとしたのか。

 それとも、本当のつもりで言ったのか。

 一つ確かなことは、

 6年前の僕はお母さんの言葉を完全に信じ込んだ。

 僕が救ったこの子を家族にできる希望に胸躍らされたのだ。

『僕がテイムを……はい!僕、絶対強くなってぷるんくんをテイムして見せます!』
『ふふ、えらいわね』

 お母さんは穏やかな表情で僕の頭を優しく撫でてくてた。

 そんな微笑ましい光景に父は頬を緩めていう。

『そんじゃ、ぷるんくんをに戻してきてな』
『元の場所……』

 またあそこに行かないといけないのか。

 だが、僕が魔力覚醒して属性に目醒めてテイムすればこの子は……

 僕は目力を込めて言う。

『わかりました!!』
 
 言った途端、僕はぷるんくんを抱えで猛ダッシュした。

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