上 下
16 / 95

守られる小さな存在2

しおりを挟む
 僕は座り込み、スライムを下ろした。

『はあ……はあ……うええ……』

 ずっと走ってきた疲れが一気に押し寄せてくる。

 体全体に電気が走っているような不快感に襲われ、心臓は飛び出るほどバクバクする。

 加えて、口の中から強烈な血の匂いがしてきた。
 
 吐き気もするし、気持ち悪い。

 落ち着くまでに10分ほどかかった。

『ぷりゅん』

 そんな僕をスライムは不思議そうに見つめている。

 僕が下ろしたところから動くことなく、ただただ僕の顔を見上げて見つめているのだ。

『……』

 正直に言って僕はスライムのことをあまりわかってない。

 知ってるのはこの子が最弱モンスターとして知られるスライムだということだけ。

 僕はマナを持たない無能力者で、両親もまた無能力者だ。

 なので、超能力や特殊能力と言われる魔法を使いながらモンスターを倒す魔法使いのようにダンジョンやモンスターのことは詳しくないし、別に知りたいとも思わない。
 
 だからなおさら僕はこの子にどう接すればいいのかがわからないのだ。

 にしてもかわいいスライムだ。

 ちっこくてもちもちしてて、プリンみたいに柔らかい。

 僕はスライムに微笑みをかけてサムズアップした。

『よかった!無事に抜け出せて』
『ぷる……』

 気のせいかもしれないが、スライムの目が潤んでいるように見える。

 しばし心地いい雰囲気が流れる。

『ぷるん!』

 ずっと僕を見つめていたスライムは、いきなり僕の胸に飛んできた。

ペチャ!

『え!?』

 びっくりした僕だが、スライムが目を瞑って気持ちよさそうに体を震わせる。

 なぜか心が温かくなる。

 僕はそんなちっこいスライムをなでなでしながら口を開いた。

『入り口の付近は多分安全だからな。他のモンスターに食べられないように注意してね』
『ぷりゅん?』

 僕はスライムを下ろした。

 この子を連れて行くわけにはいかない。

 きっとお母さんとお父さんに叱られる。

 ここならきっと安全のはずだ。

 ダンジョンのことはあまり詳しくないから断ずることはできないが、入り口付近はこのスライムのように弱々なモンスターがいるのだろう。

 奥深いところに行くにつれてさっきのバケモンみたいな強いやつが棲息しているんだ。

 と思った僕は立ち上がった。

『良いしょっと!』

 そして入り口に向けて歩くこうとした。

 すると、

『ぷるん……』

 スライムは僕の足にくっついてきた。

『どうした?』
『ぷるん……ぷるん……』

 スライムは僕の左胸まで登ってきて目を瞑った。

 体を震わせている。

 おそらくまだ怖がっているのだろう。

 僕はスライムをまた抱き抱えてなでなでしてあげた。

 するとスライムの震えは徐々に減り始める。
 
 僕はゆっくり口を開いた。

『一緒に僕の家に帰る?』
『ぷるん』

 おそらく帰りたいと言っているようだ。
  
『じゃ……うん……ぷるんくん!お前はぷるんくんだ!一緒に帰ろうね!』
『ぷるるん!!』

 僕は自分の胸に顔を激しく擦るぷるんくんを抱えながらドアの隙間を通って外へ出た。
 
 目の前には茂みが広がっている。

 逃げるようにここまでやってきたのだが、このちっこいぷるんくんが一緒にいるおかげか、僕の足はとても軽く、どこまでも行けそうな気がした。

 もちろん、さっきのように、でかいクマに襲われないために僕は慎重に動いた。

 ぷるんくんをぎゅっと抱えながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

引退した嫌われS級冒険者はスローライフに浸りたいのに!~気が付いたら辺境が世界最強の村になっていました~

微炭酸
ファンタジー
嫌われもののS級冒険者ロアは、引退と共に自由を手に入れた。 S級冒険者しかたどり着けない危険地帯で、念願のスローライフをしてやる! もう、誰にも干渉されず、一人で好きに生きるんだ! そう思っていたはずなのに、どうして次から次へとS級冒険者が集まって来るんだ!? 他サイト主催:グラスト大賞最終選考作品

処理中です...