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第二の試験は危険区域

見たらわかるはずなのに

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食事担当の方とはいろいろありましたが…

「まぁ、人には適材適所というものがございますものね。」

私は気にしないことにいたしました。

元々リーブ様はお料理に心得のある方、食事当番の方のことがよくわかっていて当然ですわ。
それなら、私は他にやるべきことをやるだけですわ。

先ほどのことなど、これ以上頭に留めておく必要がございませんわ。
そんなことより、この先やるべきことをやりましょう

食事以外にも解決しなければいけないことが山積みなのですもの。

私は教会の中に戻ると、あちこち動きまわるハロルドを見つけたので声をかける。

「現状は?」

「先ほどローズ様が指示されたことは、すでに実行されています。
氷の手配は少し時間がかかりそうですが、ストーブの準備は始めております。
しかし、換気をしなければならないので教会中を温めるのは難しいかもしれないということで
薬師が『摩擦草』を使うのはどうかと提案されていますが…」

摩擦草、これはこの世界特有の植物で、草と草をこすり合わせると程よくあったかくなるという効果がある。
食べるというよりは、寒い地域で体に張り付けて暖を取るという使い方が一般的。

つまり、地球で言うカイロみたいなもの。

「…なるほど、あれなら草を擦るだけで暖かくなるものね
数に問題がなければ準備させなさい。」


「かしこました。」

「それと…備品の在庫についてなのですが…」


とにかく、由々しき問題だと思った私はハロルドにそれを伝えようとしたのですが


「ローズさまぁ!」


ここで邪魔が入ってしまいました。

リリー様ですわ。

リリー様は私を見つけるなり、こちらの方に駆け寄ってきて私の腕に絡みつきました。


「どちらに行かれていたのですか!?私もう不安で不安で!」


それはもう、目に涙を浮かべて…。
きっとこのようなかたを気にいる方もいらっしゃるのでしょうが…私には鬱陶しいだけです。

全く、あのようなおもてなしができて、看病の一つもできないなんて…本当に呆れますわ。
私は思いっきり腕を振り解くと、手でシッシとやりながら


「リリー様、邪魔ですわどこかにいってくださいまし」


と言って、現場から離れるように忠告する。
この場所で、何もしない人間など必要ないのです。

それで泣きだけばまだ可愛げもあるのですが、彼女は私の言った言葉と行動には傷つきませんでした。
ムッとした表情を作ると、不貞腐れて私にこう言いました。


「なぜ私とはお話ししてくださらないのですか?ハロルドとは楽しそうなお話をしているのに」


楽しそうなはずがあるわけないですわ。
お仕事の話をしているんですもの、深刻化つ密接になって当然ですわ。


「リリー様、今私はこの現場において重要な話を彼としているのです。
お話は後にしていただけませんか」


もう一度だけ忠告する、しかし、リリー様は聞いてくださいませんでした。


「私、ローズ様がいない間寂しくて一人でずっと…」

「リリー様、いい加減にしてくださいまし!」


だから、私はブチギレても仕方がないことだと思うのです。
なんのために私たちがここに来たのか、リリー様は考えるべきですわ。


「今、この現場のことが見えておりませんの!?
このような状況で、ボーッと突っ立っていられるのも、くっついてこられるのも邪魔なのです!
リリー様がどのようなおつもりでつくまとうのか存じませんが、状況をお考えいただいて動いてください」

「しかし、私何をしていいのか全くわかりません」


だからなんだというのだろうか。
彼女は一般人ではない、聖4貴族で妃候補なのだ。
このような緊迫した現場でオロオロされては困るのです。


「何がわからないのです!?見れば見るほどやることしか見つからないではありませんか!」

「そんなこと言われましても…このような状況は初めてで…」


だから馬車の中で資料を見ろと言ったではありませんか。
仕事前に、遊んでいるからこうなるのです、自業自得ではありませんか。

そう思った私に、怒りを抑えるなんてもう無理でした。


「そんなに理解が難しいのであれば、掃除でもなさいなさいな!
あなたにだって、そのくらいはできるでしょう!」

「…」

「さっさとお行きなさい!!」


私がそういうと、トボトボとどこかに歩いていくのでした。

全く呆れますわ、私はみんなに聞こえるような盛大なため息を吐き腕を組みました。


「よろしいのですか?」

「視察に来て、あのような醜態を晒すなど妃候補失格ですわ」


ハロルドが私にそう質問して来たので、なんでもないように返答を返した。
強く言ったことを気にしているとでも思ったのだろう、生憎ですが私はそのような感情は持ち合わせておりませんわ。

しかし、それに対するお返事は思いがけないものでした。


「あなただって、視察という割には手を出しすぎなのでは?
貴族の視察は、基本的には現場に行き言葉を交わし支給品を渡す、これ以上のことはしません」


それを言われて私は気がつきました。
確かに、私がやっていることはまるでボランティアですわ。

この世界においての公務は、たいてい民と話し、その地域を収めるものと話し、
その議題を会議に持っていくのが仕事。
前世だって、公務と言ってテレビで映し出されるのはそんな感じでしたわ。
見えないところではいろいろやってたのでしょうけど…。

でも、だからなんだという話でもある。


「じゃあ、二次試験の発表の際にそう説明するべきでしたわね。
ご自由にと申されたのは、そちらですわよ」

「えぇ、私はあくまで従来の視察についてお話をしたまで、今回のことのお話をしたつもりはありませんよ。」


ハロルドはそれ以上の詳しい話をしない。
それ以上話すのは、この試験で何を見ているのかというポイントを話すということ。
それをやってしまえばカンニングになってしまう。

だから気にはなりましたが、それ以上彼に聞くことはできませんでした。


「備品や食材、薬剤のことは後ほど皇太子殿下が来られるのでその時にお話しましょう。
その他に気になるところはありましたか?」

「あ…その…人員のことなのだけれど…」


なので、ハロルドが無理やり話を変えたことに気が付きつつ、
私はその話にわざと乗って先ほどの話に戻り仕事の話を進めたのでした。

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