上 下
98 / 107
二部 1話 嵐を巻き起こす蝙蝠

二部 1−5 不思議な悪夢の漠となれ

しおりを挟む
「こういうのはね、とりあえず気絶させればいいのよ」

柚子さんの後ろにはチョップの構えをしたなるちゃんがいつの間にか回り込んでいた。
その姿はとても頼もしいので、彼女をおとなしくすることはできたのだけど…やっていることが手荒だ。

「なる!もうちょっと手心加えた方法はなかったの?」

案の定ことがやり方に抗議する。
しかしなるちゃんはそんなこと気にしない。

なんならこれが最善だとでも言わんばかりだ。

すると扉のほうで、人型の姿をかたどった光星くんを抱えたあゆみが口を挟んだ

「これでも薬を無理やり飲ませる方法は止めましたので、ご勘弁くださいまし」

どうやらさっきまでの騒ぎを見て、なるちゃん特製睡眠薬を飲ませようとしていたらしい

なんで分かったか?

光星くんが『睡眠薬 成子作』というラベルが貼られた瓶を持っていたのが見えたからだ。
もうなるちゃんに言及するのは諦めて話は他の話にすり替えた。

「あれ、少年鳩の姿じゃないじゃん。」

「校内に入ろうと思うと、鳩だと逆に追い出されちゃうもの。」

確かに、外なら鳩の方が都合がいいけど、室内ならこっちの姿の方が都合がいいのは間違いなかった。
光星くんは、あゆみの腕から逃れると柚子さんに近づいた。

「それで、この方が例の悪夢にうなされているという方ですね。」

流石の神様にも一目見ただけではどういう状況なのかわからないようだった。
ただの夢だと思いますけどねぇ…なんて言いながら、片手を彼女に向けて翳して目を閉じる

「…」

しばらく無言が続いた後、光星くんはハッとしたように目を見開いた。
そして信じられないという表情を浮かべた

「どうしたの?」

それがあまり良くない結果なのではないかと察した私は、診断の結果を促す。
するとゆっくりと口を開いてこういった。

「よく…生きてらっしゃいますね」

光星くんが来るまではそこまで大ごとに捉えてなかったその場にいる4人は
神様のまさかの言葉に驚いて、言葉の意味を理解するのにほんの少し時間を要した。

そして、もう一度光星くんは言う

「驚くほど生気が薄いです…いつどうなってもおかしくないですよ」

「そ…そんなまさか!
寝れてないせいでメンタルやられてるけど、暴れ回るくらいの元気は…!」

「必ずしも元気だから命に問題ないとも限りませんから…」

それは決して脅かしとかではない、かなり真剣な表情だった。

「半信半疑でしたが来て良かったです…若くて健康な彼女が睡眠不足だけの理由でこんなことにはなりません。
何かしらに正気を吸い取られてると考えるのが自然でしょう」

やはり考えすぎではなかったみたいだ。
原因も理由もわからないけど、彼らが関わっている。

「ねぇ少年、取り憑かれてるならさ除霊すればなんとかなるの?」

「それはもちろん…原因を…敵を倒しさえすれば…」

「じゃあ、早くやろうよ!結構命危ないんでしょ!?」

「彼女から取り憑かれてるものを剥がすだけなら、アマテラスの力でなんとかなりますが倒す方法がわからなければ…」

すがるように言うことに、光星くんは冷静に答える。
そう、助ける方法はあるし、一時的に解放される方法はある。

でも、それだけでは敵を倒せない。

引き剥がした時点で相手の特性や弱点を知り倒せなければ、
他の誰かにうつるか、本人の中に戻ってくる可能性がある。

そして一度身の危険を感じた敵が、次同じ方法で引き剥がせるかどうか…保証はない。

「やるなら作戦を立てないと…ってことですわね、それも早急に…」

「そのためには、何が取り付いてるのか把握できないと…」

「なんか夢に関する妖怪とか…なんかいないの?」

「睡眠に関する妖怪は僕は知らないです…」

「漠とかは違うのかしら」

「あれは悪夢を食べる夢ですわ、悪い妖怪ではございません」

柚子さんに取り付いた妖怪についてそれぞれが意見を出す。
でも、誰も心当たりがないようだ。

ただ…何か引っかかる。
夢に関係する妖怪………なんか前見たことあったような………

あれ、なんだったっけな…

「こと、彼女から何か夢のこと聞いてないの?」

私は頭を抱えながら、ことから何かヒントをもらえないかと思い聞いてみた。

「そんなこと言われても…夢なんて基本無茶苦茶だし…」

「さっきだって、黒い馬が通ったら人が倒れてくとか…」

「馬!?」

私はそれを聞いて一気に頭の中に散らばっていたピースが組み合わさったのを感じた。

そうだ…夢、悪夢、馬、妖怪…違う悪魔………!


「ナイトメアだ…!」

私はポツリとつぶやく。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~

土偶の友
ファンタジー
 サクヤは目が覚めると森の中にいた。  しかも隣にはもふもふで真っ白な小さい虎。  虎……? と思ってなでていると、懐かれて一緒に行動をすることに。  歩いていると、新しいもふもふのフェンリルが現れ、フェンリルも助けることになった。  それからは困っている人を助けたり、もふもふしたりのんびりと生きる。 9/28~10/6 までHOTランキング1位! 5/22に2巻が発売します! それに伴い、24章まで取り下げになるので、よろしく願いします。

妹に婚約者の第一王子と資産家を取り替えられましたが運命の人に出会えたので十分です

エルアール
ファンタジー
フォルドール公爵令嬢のティヴァンは、世間一般で言う"イケメン"を好きになれない。そんな中、第一王子との婚約が決まるが継母と妹のマリーナは大反対。後にマリーナが第一王子に嫁ぎ、ティヴァンは資産家でもあるキャバリア男爵に婚約を変えられる。半ば追い出される様に男爵邸へ向かうが、ティヴァンはそこである男性に一目惚れして…?!

処理中です...