上 下
89 / 107
二部 1話 嵐を巻き起こす蝙蝠

二部 序章 不思議な夜の遠吠え

しおりを挟む
「お腹すいたなぁ」

日が落ち、すっかり暗くなった空を、月明かりが照らしていた。

普通ならそろそろ夕食を作り終えご飯にありついている時間なのだけど、
今日の私たちは空腹で公園の物陰に息を潜めて隠れていた。

かくれんぼじゃない。敵を迎え撃つための作戦だった。

「本当に出ると思う?」

私は近くにいた金髪の少年に声をかける

「わかりません、でも他に手がかりはありません、ここに賭けましょう。」

「そうだね…」

彼にそう言われて、私は耳につけていたイヤホンを指でトントンと叩いた

その瞬間、イヤホンからザザッという音が聞こえ、続いて声が聞こえた


「ルイちゃん出たわ!そっちに追い込んでるから予定通りお願い!」

なるちゃんからの作戦決行の合図だ。
どうやら予想通りちゃんと出現ポイントに敵が現れたらしい。

「光星くん!」

私はなるちゃんから無線の連絡を受けると、金髪の彼に声をかける。
すぐに理解した彼は

「あゆみさんと洋太さん呼んできます」

そう言うと鳩に姿を変え、見えないスピードで2人のいる方向に飛んでいった

それを見送った私は

「天光槍葉」

と呪文を唱える
するとパアッと光り槍が現れ、それを手に取った。

直後、ピュンという音と共に水の軌跡を描いて飛ぶ弓矢が見えた。
それから逃れるように走ってくるのは、白い犬

こと が予定通りに目標ポイントまで追い込んでくれているらしい。

予想では悪霊があの犬に取り憑いているはず。
あの犬が誘導ポイントまで来たら、なるちゃんが足止めし、私が技を使い悪霊を犬から引き剥がす作戦だ。

ビュンビュンと飛んでくる弓矢を掻い潜りうまく逃げる犬は、ついに誘導ポイントに追い込間れる。

それを持ち場から確認したなるちゃんは「月光刻停」と呪文を唱えた声が聞こえ、犬の足元にカチカチと言う時計の音とともに紋様が現れ、それがオレンジ色に光った。

これで犬はもう動くことができない。
思い通りに行かないからか、犬はワオーーーンと遠吠えをした。

私は、持ち場から犬のいる場所まで移動すると、手にしている槍を犬に向ける

「ごめんね、すぐ悪霊引き剥がじであげるからっ!」

私は犬にそう声をかけると、「閃光浄化」と呪文を唱えた

当たりはパァッと明るくなった

悪霊が取り憑いているなら、この技で体から引き剥がすことができるはずだ。

でも、どうも上手くいっていない。

この術には除霊効果があるから、何かに取り憑かれている場合、ものの数秒で本体から離れてその実体を表すはずなのだ。

でも、何も出てこない上に、いつまで経っても元気な遠吠えが無くならない。

つまり術が効いてない、ということは...

「何かに取り憑いてるわけじゃない…!?」

この犬自体が悪霊か何かなんだ。

よく考えたらそうだよね…こんな犬の目撃情報なんかなかったんだもん。

だとしたら、ちゃんと攻撃しないとだめだ。

私は術をかけるのをやめ、槍を振り下ろして物理攻撃を仕掛けようとした。

でも時既に遅し

「きゃっ!」

犬…いや獣を怒らせてしまったらしく、グルルと呻きながら私に向かってものすごいスピードで突進して来た。

体制が整わなかった私は、その攻撃をもろにに受ける

「ッ!」

だから溝落ちに強烈な物理攻撃を一発を喰らい、私はそのまま仰向けにドサッと倒れる

このまま攻撃を何発か喰らう覚悟を一瞬した。
でも、獣はその一発を喰らわせただけで公園から脱出しようと足早に離れていく

逃げるのを優先するつもりみたい

「待っ」

私は体を起こし追いかけようとするけど、意外にもさっきの攻撃がみぞおちに効いて動けない
私がその場でお腹を抱えながらうずくまっていると

「ルイちゃん大丈夫!?」

持ち場が比較的私の近くだったなるちゃんが心配して私のところに走ってくる。

「ごめん、逃した。」

「仕方ないわ、想定外だったもの」

「でも…」

「大丈夫、後ろが控えてるわ。」

そうなるちゃんが発言した後強めの風を感じた。


後援が間に合ったらしい。

「このまま逃しませんわよ」

公園の入り口には、両手に鉄扇を持ったあゆみの姿があった。
しおりを挟む

処理中です...