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一部 3話 暦を刻むはよりそう月

3ー3 不思議な切り傷はいたみなく

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予想通り。

煙は自宅の隣から上がっていた。
モクモクと真っ白な煙が。

門の外から本来見えるはずの庭と二階建ての建物は一切見えなかった。

そしてそこから少年の太めの叫び声が聞こえる

「ふんぎゃあああ」という、奇妙な叫び声が。

その様子に光星くんは怯えきっていて、早く早くと私を急かした。

「ゲホッゲホッ...今日は一段とひどいな...」

私は煙の元となっているであろう方向に咳き込みながら足を踏み入れる。
すると、そこには口にガムテープ貼られ倒れた椅子にぐるぐる巻きにされ縛り付け られている少年が「もがもが」と言いながらその縄から逃れようと必死だった。
その少年は...知っている人物だ

「ちょ、心矢...どうしたの!?大丈夫!?今日は何されてるの?」

私は急いで駆け寄って縄を外そうとする...が頑丈で解けない。
光星くんはこの状況に驚いた様子で

「あの、これ人の仕業ですか?だったら、然るべき組織に連絡を...」

と提案した
普通だったら、そうするべき事案である。
でも警察沙汰にしたくない。
なぜなら、身内であるうちもただでは済まないからである。 知ってる相手だし...

「その前に直接本人と話してみる...なるちゃん!なるちゃーん!どこにいるの!?」

だから私は慌てて奥の方にいるであろう彼女の名前を呼んだ。
そう、この私の家の隣から大きな煙を出しているこの家は、幼馴染兼従姉妹のなるちゃん...『杉野成子すぎのなるこ』の家なのである。

しかし、その本人の名前を呼んでもなかなか出てこない。

「おかしいな...いるはずなのに...心矢、なるちゃんはど...」

「あらあらあら、ダメよ触ったら、今繊細な実験中なんだから。」

ようやく出てきた彼女は黒いつなぎ姿だった。
やはり何か今日は機械を作ってるらしい。

「また大掛かりだね...何作ってるの?」

「それは企業秘密よ、完成したらおしえてあげるわね♪」

奥からカチャカチャと音を立てながら何かしている。
どうも奥の方にある大きな機械が爆発した原因を探っているようだ
爆発したということは、おそらく失敗ってことなのだろう。
なるちゃんは首をかしげる

「おかしいわね...起動はちゃんとしてるし...故障箇所も見当たらない...作動自体は問題ないってことかしら...心矢、なんか変化あった?」

さっきは繊細な実験中だから触るなと注意したなるちゃんだったが、実験の効果を 知りたいのか、口に貼っていたガムテープを思いっきりペリッと引き剥がした。
すると

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」

 と、心矢にしては高めの声で悲鳴をあげた、まるで何かに怯えているようだ。 

「ちょ、大丈夫?心矢どうしたの!?」

これは普通じゃない、早く止めさせないとと、なるちゃんに提案しようと振り返る

「根性ないわねぇ...このくらい耐えなさいよ」 

なかなかに鬼畜の所業。
これは私が何言っても聞かないだろうと、喉まで出かかっていた言葉を飲み込ん だ。
でも、一体心矢は何に怯えてるのか... すると

「いる!そこに!なんか!」

と話し始めた。

「ん?」

私となるちゃんは心矢の視線を追った。
その視線の先にいたのは、鳩姿の光星くん。


いや、でも、鳩姿の光星くんって、たしかみんなに見えるのが普通で...怯えることは何もないはず...
現になるちゃんは

「鳩がどうしたっていうのよ。」

と心矢に言っている。
心矢は何とか説明しようとしているも、装置のせいなのかうまく説明できていない。

「だ、だだだだ」

というか、痺れているのか口がうまく動いていない。

 「な、なるちゃん...一回止めた方が...」

 「大丈夫よ、死ぬような設定にはなってないもの」

ケロリと真顔でそういうけど、この家の庭からモクモクと煙が湧いている様子は、とても大丈夫には見えない。
説得力は0だ...けど... 

「よし、もう少し調整してトライしてみるか。」

本人はやめる気は無いみたい。 

「あ、ルイちゃん暇なら手伝ってもらえる?それか実験」 

「ううん、やめとく。帰るねバイバイ。」

 私は心矢の呼び止める声を無視して家を出た。 ごめんね心矢、私に彼女を止める力もなければ、立ち向かう勇気もないの。 その一部始終を見ていた光星くんは私の肩に乗ると少し怯えた様子で

 「すごい方がお知り合いなんですね...」

と呟いた。 

神様を怖がらせるって、逆にちょっと感心する。

「どのようなご関係で?」

「え?あぁ...」

そういえば、光星くんは二人を見るのは初めてか。

まあ見えない人に見えない人を自分の知り合い紹介したりしないから当たり前なん だけど、光星くん的にはきになるよね...こんな地獄絵図見たら。


「二人とも幼馴染だよ。
家近くて、クラスもずっと一緒なんだ。

ぐるぐるにされてる四角いメガネかけてる彼が有山心矢
機会作ってる彼女が杉野成子、ついでに従姉妹」 

「ほぅ...」


 光星くんはなんともいえない眼差しを私に向けた。色々誤解されたくないのでわざ わざ発表したくないしすることはないんだけど、今後何かのきっかけでどうせ知られるのであれば正直に言った方がいい。

「で...あの方は何を?」

うん、次はそういう質問になるよね。 

「うーん...なんか作ってるんだろうね...その実験台になってるんじゃないかな」

「実験?」

「そう、なるちゃんは機械とか薬作るの好きなんだけど、年々作る物が複雑になってて、途中で試作品を作って問題無いかチェックするようになったんだけど、
その 実験台が8割型心矢でね...」

ここ一年はなるちゃんが何かを作るたびに、翌日心矢がボロボロになっていることが多い。

そしてそのうちの殆どは、その成果が見られず完成品を拝むことはない。
まぁその分、完成品見せてもらえるときは結構使える物だったりするんだけど。

「あの...良いんですか?助けなくて」
「うん、私には手が追えない。」

そう言ってなるちゃんの家から一歩出た後、地響きと悲鳴が聞こえた。
これはまだまだかかりそうだ。
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