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第三話 来客
しおりを挟むレスターの屋敷は入口の門から豪壮かつ優美で、夜半だというのに園庭には明りもつけられていた。
宵闇に鮮やかな新緑がぽう、と照らし出され見ていて蠱惑的な印象をもたらす。
老年の執事に連れられて屋敷に足を踏み入れると、レスターの私室は奥まった一角にあった。
(俺も陛下の覚えがめでたければ、こうなれたのかね……)
宿敵への羨望が募る。
ヘンリックの家は下宿で、高価な実験器具は宮廷に何度も具申して手に入れたものだ。
まさに天と地の差だった。
「どうぞ、お入りください。主人がお待ちでございます」
完璧なお辞儀とともに扉が開かれる。通された先には椅子に座り、こちらをにらみつけるレスターの姿があった。
とても客を迎え入れる態度ではない。
執事が去ると、レスターが口をひらいた。
「何用だ。へぼ術師」
純白のローブに金糸の縁取りがなされた裾を揺らして尊大に足を組む。
客に椅子を勧めもしない。こういうところが実に嫌味な男だ。
そのくせ顔は女のように線が細く、白金の髪を後ろに流した姿は一流貴族でも通用する外見だ。
たとえ、元「遊び人」であっても――
そもそも俺を部屋に通したということは、あの過去を知られたら困ると思ったからだ。それは間違いない。
なら俺も下手に出る必要はなかった。
「はっ、ドリンの角っていうのはあんたにとっちゃ忘れられない言葉みたいだったな。今度会ったら奴に礼をいっとくぜ」
「なんだと?」
眉間に深い皺を刻んだ顔が痛快だった。
まさにドリンさまさまだ。
あのおっさんは酒を飲みながら、今までどんな風にこいつを抱いたか事細かく教えてくれた。
もちろん弱点も。
つかつかと椅子に座るレスターに歩み寄り、立ち上がれないようにひじ掛けに手をおいた。びくりと身を引く姿は議場での澄ました態度とは大違いだ。見ていて嗜虐心がむくむくと沸き起こる。
「覚えてないのか? あのパーティーで毎晩あんたが奴の右曲がりの角を楽しそうにケツにくわえこんでたってドリンからは聞いてるぜ」
ゆっくりとひじ掛けに乗せる体重を増やし、レスターの足のあいだに俺の膝をわりこませた。
「ッ」
顔を近づけて、レスターの端正な表情が屈辱にゆがむさまをじっくりと堪能した。
柳のように細い眉をゆがめ、青水晶のようにつめたい瞳に怒りをはらませている。
薄い唇は怒りで硬くこわばり、常に後ろになでつけている白金の髪が主の動揺が移ったのか、数房前髪が手前におちていた。
ひじ掛けに置いた手をさらに進めて、レスターの両手に重ねる。
「貴様!」
激高するレスターを無視して、手首をがっちりとつかんだ。これで奴の脈がはかれる。
尋問開始だ。
「なんでもドリンのおっさんだけじゃなく、パーティーのリーダーやたまに入る助っ人にもケツを貸してやってたんだって? 二日連続で4Pやったとか聞いて驚いたぜ。あの大賢者さまにそんな裏の顔があるなんてな」
どくどくとレスターの脈が速まっていく。
真実だ。
本当にこいつは王宮も陛下も騙して、大賢者の地位を手に入れるためだけに今まで暗躍してきた人間なのだ。足のあいだにわりこませた膝をぐっと押し付けてやると、思わぬ反応が返ってきた。
(へえ……)
自分でも人の悪い笑みが浮かんだ。
「今これだけお前の罪状を並べ立ててやってるのに、肝心の大賢者さまは過去をばらされたくらいで反応するほど淫乱なのか」
ぐにぐにと股間を押してやると、苦しそうに押し返される。勃起してる証拠だ。
「違う。これは貴様が今押したからであって――!」
「他人のせいにしちゃうんだ。王国の誇る大賢者さまが。それはまずいんじゃないか?」
鎖骨まで見える純白のローブの胸元に指をかける。そのまま力任せに指を引き下ろした。
「やめ――!」
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