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まだLINEもブロックまではされていないはずなのに、どうしてメールなんかで送られてきたのだろう。そして、このメールの内容はなんだ。
『彰斗』と言えば、彼女の今の彼氏の名前だ。昔から悪い噂が絶えない彼。
逃げるってなに、狙ってるってなに、状況を悪化させたってなに、何一つ分からなかったからどういう意味と尋ねるメールを送り返す。しかしそれに返信はなかった。
そもそもあんな目立つ男と自分との接点なんてなかったが、彼女の最後の言葉だからと律儀に守ることにした。廊下で歩いているのを見かけた時はできるだけ距離を取って歩くとか、すれ違う時も目を合わせないようにするとか、そんな効果があるのかないのかよく分からない避け方を続けていた。
あまりにも何も起こらないので、その忠告すら忘れかけていたその時、下校時間の教室に軽快な声が響き渡った。
「けーいくーん!」
友だちでもないのに、ほぼ初対面と言っても過言ではないのに、まるで何年来の親友のようにそう呼ばれる。周りの人からも、「えっ、圭と彰斗知り合いだったの」なんて声が聞こえてくるくらいに。
彼女からは、関わらないでと言われた。教室からは、早く行ってあげなよという視線。関わってはいけない理由は分からない。でも、彼女の言葉は信じたい。でも……。
「おい圭、何固まってんだよ。呼ばれてんだから早く行ってやれよ」
彰斗と同じ属性の、明るくて目立つ人間が声をかけてくる。「今忙しくて」なんて器用に断れるはずもなく、僕はその呼びかけに応じるしかなかった。
「よかった、来てくれて。今日一緒に帰ってほしいんだけど、いいかな?」
関わってはいけないと言われていた手前、学校でならまだしも下校を共にするのはよくないような気がする。そもそも、僕はこういうタイプの人間と話をするのも苦手だ。だからテキトーに理由をつけて今度こそは断ろうと思ったのに、その前に彼は先手を打った。
「凛ちゃんの話、聞きたいでしょ?」
凛ちゃん。それは僕の唯一の元カノの名前だ。あんなにも穏やかで優しかったのに、目の前の男と付き合ったとたんに学校を休みがちになり、不思議なメールを送り、一切音信不通になった彼女。
まだ彼女に未練のある僕には、その名前を出されて無視できるはずがなかった。
「圭くんならそう言ってくれると思ってた。じゃあ待ってるから、荷物まとめてきてね」
いつもよりもゆっくりと鞄に教科書とノートを入れていき、もう時間を延ばせる理由がないことに絶望をする。この間にもずっと彼はこちらに視線を向けてきていて、背中がじっとりと変な汗をかく。
「遅かったし目線が下がってるね。俺のこと怖かったりする?」
そうだ、とも、そんなことないよ、とも答えにくい質問をしながら、目線をじっとのぞきこまれる。なんとなく苦手だったのが、「とても苦手」に変わった瞬間だった。
「話してくれるなら早く話してください」
「そうしたいんだけどね。色々深い事情があるから外では難しくって。俺の家まで来てもらってもいい?」
反射的に行きたくないと思った。でも、彼女のことを何も聞かずに帰るのは嫌だったし、周りに聞かせられないような話と聞いてもっと心配になった。だから軽く頷く。
「じゃあ行こうか」
横の男はずっとペラペラと話を続けている。この店が美味しいのだとか、数学の先生は教え方が悪いだとか、意味のないことをペラペラと。心ここにあらずという状態でテキトーに頷きを返していると、どうやら彼の家に着いてしまったみたいだった。
『彰斗』と言えば、彼女の今の彼氏の名前だ。昔から悪い噂が絶えない彼。
逃げるってなに、狙ってるってなに、状況を悪化させたってなに、何一つ分からなかったからどういう意味と尋ねるメールを送り返す。しかしそれに返信はなかった。
そもそもあんな目立つ男と自分との接点なんてなかったが、彼女の最後の言葉だからと律儀に守ることにした。廊下で歩いているのを見かけた時はできるだけ距離を取って歩くとか、すれ違う時も目を合わせないようにするとか、そんな効果があるのかないのかよく分からない避け方を続けていた。
あまりにも何も起こらないので、その忠告すら忘れかけていたその時、下校時間の教室に軽快な声が響き渡った。
「けーいくーん!」
友だちでもないのに、ほぼ初対面と言っても過言ではないのに、まるで何年来の親友のようにそう呼ばれる。周りの人からも、「えっ、圭と彰斗知り合いだったの」なんて声が聞こえてくるくらいに。
彼女からは、関わらないでと言われた。教室からは、早く行ってあげなよという視線。関わってはいけない理由は分からない。でも、彼女の言葉は信じたい。でも……。
「おい圭、何固まってんだよ。呼ばれてんだから早く行ってやれよ」
彰斗と同じ属性の、明るくて目立つ人間が声をかけてくる。「今忙しくて」なんて器用に断れるはずもなく、僕はその呼びかけに応じるしかなかった。
「よかった、来てくれて。今日一緒に帰ってほしいんだけど、いいかな?」
関わってはいけないと言われていた手前、学校でならまだしも下校を共にするのはよくないような気がする。そもそも、僕はこういうタイプの人間と話をするのも苦手だ。だからテキトーに理由をつけて今度こそは断ろうと思ったのに、その前に彼は先手を打った。
「凛ちゃんの話、聞きたいでしょ?」
凛ちゃん。それは僕の唯一の元カノの名前だ。あんなにも穏やかで優しかったのに、目の前の男と付き合ったとたんに学校を休みがちになり、不思議なメールを送り、一切音信不通になった彼女。
まだ彼女に未練のある僕には、その名前を出されて無視できるはずがなかった。
「圭くんならそう言ってくれると思ってた。じゃあ待ってるから、荷物まとめてきてね」
いつもよりもゆっくりと鞄に教科書とノートを入れていき、もう時間を延ばせる理由がないことに絶望をする。この間にもずっと彼はこちらに視線を向けてきていて、背中がじっとりと変な汗をかく。
「遅かったし目線が下がってるね。俺のこと怖かったりする?」
そうだ、とも、そんなことないよ、とも答えにくい質問をしながら、目線をじっとのぞきこまれる。なんとなく苦手だったのが、「とても苦手」に変わった瞬間だった。
「話してくれるなら早く話してください」
「そうしたいんだけどね。色々深い事情があるから外では難しくって。俺の家まで来てもらってもいい?」
反射的に行きたくないと思った。でも、彼女のことを何も聞かずに帰るのは嫌だったし、周りに聞かせられないような話と聞いてもっと心配になった。だから軽く頷く。
「じゃあ行こうか」
横の男はずっとペラペラと話を続けている。この店が美味しいのだとか、数学の先生は教え方が悪いだとか、意味のないことをペラペラと。心ここにあらずという状態でテキトーに頷きを返していると、どうやら彼の家に着いてしまったみたいだった。
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